2009年7月に『大腸癌治療ガイドライン 医師用2009年版』が刊行されて以降,新たな大腸癌治療薬の保険収載や適応拡大がなされ,そのいずれもが大腸癌治療に重要な役割を占めています。そのため,ガイドライン作成委員会では,実地臨床の現場に正しい情報と適切な評価をすみやかに伝えることが大切であると判断し,この度,昨年に引き続いて新たに『大腸癌治療ガイドライン 医師用2010年版』を作成することとなりました。したがって,今版の改訂は化学療法の領域のみとなります。
大腸癌化学療法のレジメンが多様化し,治癒切除後の補助療法,切除不能大腸癌に対する一次治療や二次治療のいずれにおいても,いったいどのレジメンを選んだらいいのか,非常に迷うようになりました。臨床試験の結果を参考にしながらレジメンを選択するのですが,臨床試験の主要評価項目はあくまでも生存期間であり,生存期間が優れているレジメンがより治療効果が高いと評価されます。しかし,実地臨床では,生存期間のみならず副作用の種類や頻度・程度とその対策,患者さん個人の考え方やライフスタイルなども考慮して,レジメンを選択しています。治療効果が高いレジメンは副作用も高度な場合が多く,また,分子標的薬は独特の副作用を呈します。患者さんに提示するレジメンの副作用とその対策を十分に熟知して,診療にあたっていただきたいと思います。また,内視鏡治療や外科治療における日本と欧米との違いはよく知られていることですが,化学療法の領域でも違いがあります。"切除不能"の基準,再発大腸癌における再発の程度(再発時の腫瘍量)が日本と欧米では異なることも知っておいていただきたいと思います。
新たな化学療法を熟知し,大腸癌の患者さんの治療に役立てていただきたいと思います。
2010 年 6 月 30 日
大腸癌研究会会長
杉原健一