①垂直断端陽性の場合は外科的切除を追加することが望ましい。(推奨度・エビデンスレベル1C)
②摘除標本の組織学的検索で以下の一因子でも認めれば,追加治療としてリンパ節郭清を伴う腸切除を考慮する。(エビデンスレベルB)
(1)SM浸潤度1,000μm以上
(2)脈管侵襲陽性
(3)低分化腺癌,印環細胞癌,粘液癌
(4)浸潤先進部の簇出(budding)Grade 2/3
浸潤癌であるpT1(SM)癌の治療の原則はリンパ節郭清を伴う腸切除である。しかし,転移リスクが極めて低いpT1(SM)癌が存在することも事実であり,そのような症例に対して結果的には過剰治療となる追加切除を可及的に減じることが本基準の作成目的である。現在のところ,リンパ節転移(pN)を確実に予知できる診断法は存在しないが,転移リスクの高低を追加治療実施の判断材料として利用することが可能である。
pT1(SM)癌の所属リンパ節転移リスク因子として,粘膜下層の浸潤距離(SM浸潤度),低分化腺癌・印環細胞癌・粘液癌などの組織型,浸潤先進部の低分化領域・粘液結節の存在,簇出,脈管侵襲などが報告されている。
上記の追加治療の適応基準は,『大腸癌取扱い規約』(第2版,1980年)に記載されてきたpT1(SM)癌の追加腸切除の3項目(①明らかな脈管内癌浸潤,②低分化腺癌あるいは未分化癌,③断端近傍までのmassiveな癌浸潤)をもとに作成されたものであり,「massiveな癌浸潤」は『大腸癌取扱い規約』の第5版(1994年)において「たとえば約200~300μmを超えた程度の“きわめて浅い浸潤”より深い浸潤」と具体的記述に改訂された。
その後の本邦における症例集積研究から,この基準線は1,000μmまで拡大することが可能であることが示された。大腸癌研究会のプロジェクト研究によればSM浸潤度1,000μm以上のリンパ節転移率は12.5%であった(表11)。しかしながら,1,000μm以深浸潤例のすべてが追加手術の絶対適応になるわけではない。SM浸潤度1,000μm以上であっても9割程度はリンパ節転移がないわけであり,SM浸潤度以外のリンパ節転移危険因子,個々の症例の身体的・社会的背景,患者自身の意思等を十分に考慮したうえで追加治療の適応を決定することが重要である。なお,上記の治療適応基準の推奨の強さについては,ガイドライン委員のコンセンサスが得られていないため推奨度は示していない。2009年版で追加治療を考慮すべき因子として簇出(budding)を追加したが,さらに他の病理組織学的因子に関するプロジェクト研究も現在進行中である。多施設共同研究からは本基準の妥当性の検討結果が報告されている。なお,海外には,追加治療の適応基準として浸潤距離および簇出が採用されているガイドラインはない。
腺腫,cTis(M)癌およびcT1(SM)軽度浸潤病変が内視鏡治療のよい適応で,cT1(SM)高度浸潤癌は病変の大きさに拘わらず適応外である。摘除標本の正確な病理診断のために癌病変の一括切除が要件であり,一般にスネアのサイズからEMRで一括摘除が可能な病変は最大径2cm程度である。しかし,腺腫成分を伴う病変(腺腫内癌)では腺腫部分での分断による計画的分割EMR(癌部分は一括切除する)の根治性が確認されており,最大径2cm以上のLST(laterally spreading tumor)の一部は分割EMRのよい適応となる。ただし,分割EMRには確実なスネアリング技術が必要であることに留意すべきであり,また正確な組織学的判定が困難となるような多分割切除は避けるべきである。なお,腺腫部と癌部の判別には,インジゴカルミン散布による色素内視鏡観察や拡大観察によるpit pattern診断が有用である。ESDを用いれば径2cm以上の病変も一括摘除が可能であるが,ESDは手技の難度が高く,非熟練者が施行した場合は,穿孔などの偶発症発症率も高くなることを十分に考慮すべきである。
■SM浸潤距離の実測法(写真1)
■脈管侵襲の評価法(写真2~4)
■簇出の評価法(写真5)
〔簇出の定義〕癌発育先進部間質に浸潤性に存在する単個または5個未満の構成細胞からなる癌胞巣。
〔簇出のGrade〕簇出が最も高度な領域を選択後,20×10倍視野で癌発育先進部を観察し,簇出の個数をカウントする。
当初は先進施設のみで施行されていたESDであるが,最近は多くの施設で施行されるようになってきた。
大腸ESDの有効性と安全性は,本邦の単施設のcase seriesが報告され,多施設アンケート調査により示されており,偶発症の頻度も導入当初よりも減少している。多施設前向き研究による1,111例の検討から,腫瘍径5cm以上,実施件数が50件未満の施設では,穿孔や出血などの偶発症発症率が高くなる可能性が指摘されたが,大腸癌研究会「内視鏡摘除手技の標準化・プロジェクト研究」に登録された1,845例(EMR 1,029例,ESD 816例)の検討からは,径4cm以上の病変に対するEMRの一括切除率が12%であるのに対して,ESDでは93%と高く,合併症発症率に有意差は認められなかった。なお,治療時間は径4cm以上のESDで129分と有意に長かった。2009年から開始された日本消化器内視鏡学会主導の「先進医療として施行された大腸ESDの有効性と安全性に関する多施設共同研究(全国60施設による前向きコホート研究)」で,大腸ESDの有効性と安全性が明らかとなり,2012年4月に,「早期大腸悪性腫瘍」に対して大腸ESDの保険適用が認められた。なお,留意事項として『最大径が2cmから5cmの早期癌又は腺腫に対して,病変を含む範囲を一括で切除した場合に算定する。』と付記されている。
ESDは大腸内視鏡手技に十分精通した医師が,必要な各種デバイス(電気メス,止血デバイス,先端アッタチメント,ヒアルロン酸などの局注剤,CO2送気装置,クリップなどを整備し,入院や外科的処置が行える環境で行うべきである。
(http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/isei/sensiniryo/kikan01.html 参照)
海外の大規模ランダム化比較試験やコクランレビューにおいて,結腸癌およびRS癌に対する腹腔鏡下手術の有用性が開腹手術との比較で検討され,腹腔鏡下手術では手術時間が長い一方,出血量が少ない,腸管運動の回復が早い,在院期間が短いなどの短期成績が優れていること,合併症発生率および再発率・生存率は同等であることが報告されている。しかし,例えばStage IIIの開腹手術群の5年生存率が50%と低率であること,右側結腸癌術後の局所再発率が15%と高率であることなど,本邦の治療成績とは乖離した報告もある。わが国の治療経験に基づく適応を決定するには,前向き試験による多数例の検討が必要である。
横行結腸癌は多くのランダム化比較試験で除外条件とされている。横行結腸癌に対する腹腔鏡下手術は開腹手術よりも長い手術時間を要するという報告もあり,解剖学的特性による支配血管根部周囲の郭清手技の難度を考慮して適応を決定する。その他,肥満例は開腹手術への移行率が高く,手術時間が長く,合併症率も高いこと,開腹既往歴を有する症例は癒着のために難度が高く,開腹手術への移行率が高いことも考慮する。
直腸癌も多くのランダム化比較試験で対象外であり,コクランレビューを通覧しても直腸癌を対象としたランダム化比較試験は少ない。直腸癌を対象としたCOREAN試験,COLORII試験では,開腹手術群と腹腔鏡下手術群で外科剝離面陽性率に差はなかったと報告されている一方,MRC CLASICC試験では,生存率および局所再発率には有意差を認めないものの,外科剝離面陽性率は腹腔鏡下手術群で高率であった。直腸癌に対する腹腔鏡下手術は,腸管切離・吻合操作の難度が高いこと,腹腔鏡下の側方郭清の手技が確立されていないことなどから,現時点では適正に計画された臨床試験として実施し,有効性と安全性を確認する必要がある。
最近では,単孔式手術などポート数を減らした腹腔鏡下手術も試みられているが,有効性と安全性を多数例で検討した報告はなく,十分に確立されていない。現時点では適正に計画された臨床試験として実施するのが望ましい。
大腸癌に対するロボット手術は,限られた施設において行われている段階であり,現時点では大腸癌に対する保険適応はない。
切除不能な遠隔転移を有する大腸癌の原発巣切除の適応は議論の多い問題である。閉塞や出血など,保存的療法では制御困難な症状を緩和する目的で行われる原発巣切除あるいは人工肛門造設などによる腸管空置術については異論が少ない。
一方,無症状ないし症状が軽微な症例に対する適応にはさまざまな考え方がある。無症状例に対して,予測される症状の出現に先んじて原発巣切除を行うことの有用性が問題となる。このような症例に対し,原発巣切除を先行したほうが化学療法を先行したより生存期間が延長し,症状に対する緊急的な対応が回避できるといった後ろ向き研究のメタアナリシスの報告があるが,限られた生命予後のなかで原発巣の切除が症状緩和などのQOLの改善にどれほど寄与するかを予測することは容易ではない。本病態は高度の進行担癌状態であり,手術合併症や手術死亡のリスクが高いことから,原発巣を切除せず全身化学療法を行う治療方法も行われる。
近年著しく進歩した全身化学療法によって切除不能な転移巣が切除可能となる症例が経験されるようになり,症状緩和とは別に,根治も視野に入れた原発巣切除の意義が見直されるようになってきている。しかし,現状では実際に根治が得られることは例外的であり,身体機能や免疫能の低下をもたらす手術を回避し,有効な全身化学療法を可及的に早く開始することが原発巣のコントロールにも有効であるという考えもある。たとえば,腸管閉塞に対しては,ステント留置の有用性も報告されており,切除以外の手段による症状コントロールが可能な症例があることにも留意する。
以上より,原発巣切除の適応は,原発巣の症状,転移の状態,全身状態のほか,生命予後,手術のリスク,切除による症状緩和の効果予測などを臨床的な状況を総合的に判断して症例ごとに評価して決定する。
同時性腹膜播種に対する切除の有効性を証明する大規模臨床試験はないが,切除による予後の改善や長期生存例が報告されており,過大な侵襲を伴わずに切除可能な同時性限局性播種(P1,P2)は原発巣とともに切除することが望ましい。
異時性腹膜播種に対する切除の有用性も証明されていない。しかし,他の再発巣を認めず,限局する播種巣を認めた場合,化学療法を含む一定の経過観察の後に切除を考慮する場合もある。
海外からは,広範な播種に対する全腹膜切除(total peritonectomy)が報告され,全腹膜切除による減量手術と腹腔内温熱化学療法との有用性が報告されている。しかしながら,実際に本療法を実施しているのは海外でも限られた医療機関のみで,本邦においてはほとんど治療実績を有しない療法であるため,一般の医療機関で実施できるものではない。
同時期に肝転移と肺転移をともに有する症例でも切除により長期生存あるいは治癒が得られることがある。しかしながら肝・肺転移をともに有する症例では原発巣や転移巣の進展が高度であることや,肝・肺以外にも転移を認めることが多く,完全切除の可能性は一定の見解がえられていない。Adamらの報告では,肝および肝外病変を有する186例213病変のうち108病変(51%)が肺転移で,そのうち42病変(39%)で完全切除が可能であった。その一方で本邦におけるKobayashiらの集計によれば,351例の肺転移切除例のうち47例に肝転移切除が行われたが,同時期に肝・肺転移が切除されたのは7例(2%)のみであった。このような希少性から,肝・肺切除が有効となる予後予測因子は十分には解明されておらず,同時性転移よりも異時性転移のほうが予後良好であるが現時点では切除に関する明確な適応基準はない。術前CEAとCA19-9,無再発期間,肝転移・肺転移個数,原発巣の占拠部位,年齢が予後因子として重要であることなどの報告がある。一方,近年のFOLFOX,FOLFIRIをはじめとする新規抗がん剤は肝・肺転移症例に対する手術成績にも影響を与えている。
肝・肺転移をともに有する症例に対する外科治療に関して,報告されているのはすべて後ろ向き研究であるが,肝・肺転移の切除が予後改善に寄与する症例が一定の割合で存在することは確かであり,予後予測因子を中心とした手術適応基準を確立することが急務である。
切除可能な肝転移や肺転移に対する最も効果が高い治療法は外科的切除である。しかし,転移巣切除後の再発率は50~70%と高率であり,手術治療の治療強度は十分とは言えないのが現状である。手術治療の治療強度の上乗せ効果を期待するのが補助化学療法であるが,その有効性は証明されていない。
限局性の肝転移から肺などへ二次性転移を起こす前に残肝再発を予防するという考えから,肝動注療法が実施されているが,残肝再発の抑制効果はあるものの生存期間の延長には寄与しないことが示されている。
肝切除後の補助療法としての全身化学療法の有効性を検証した試験は,現在までのところ一つのランダム化比較試験(FFCD09002試験)と一つの統合解析(pooled analysis)のみである。FFCD09002試験では,治癒切除例を対象に手術単独と5-FU+LVを用いた全身化学療法が比較され,5年無再発生存率は化学療法群が有意に良好であったが,全生存期間には有意な差を認めなかった。ENG試験を合わせた統合解析でも,化学療法群が予後に関与することを示唆したが,生存期間には手術単独と比べて有意差を認めなかった。なお,大腸癌肺転移切除後の補助化学療法に関するランダム化比較試験は報告されていない。
以上のように,遠隔転移巣治癒切除の補助化学療法の有効性を明確に示すエビデンスは認められていない。Stage IIIに対する補助化学療法の有効性が確立している現在,Stage IIIよりも再発リスクが明らかに高いStage IVに対する補助化学療法を実地臨床の場で実施しているのが現状である。しかし,転移巣切除後という病態に対する補助化学療法の安全性という側面も十分に考慮すべきことから,その有効性と安全性を適正に計画された臨床試験で検証するのが望ましい。
遠隔転移巣切除後の補助化学療法を行わないことの推奨の強さについて,ガイドライン委員のコンセンサスを得るには至らなかったので推奨度は示していない。
切除不能と判断される肝限局転移例に対する化学療法の有効性と安全性に関しては,いまだ十分なエビデンスの集積はなされてはいないのが現状であるが,近年,全身化学療法後に根治切除が可能になる症例が一定の割合で存在することが判明してきた。また,化学療法の奏効率と切除率には密接な関連があることが報告されている。全身化学療法に分子標的薬を加えたレジメンで高い肝転移の切除率が報告されているが,分子標的薬を加えても切除率は変わらないとする報告もある。
化学療法が奏効して切除可能となった肝転移には切除を考慮する。しかしながら,化学療法が奏効して切除可能となった症例では,転移診断時から切除可能な肝転移例ほどの予後は期待できないとの報告がある。
一方,化学療法が奏効して切除可能となった肺転移例の報告は少なく,エビデンスに乏しいが,化学療法後切除の報告もあり現時点では切除を考慮してもよい。
直腸癌局所再発に対し,外科治療と放射線療法を比較したランダム化比較試験はないが,外科治療例の5年生存率は20~40%であり,これに相応する放射線療法の治療成績はない。切除可能な局所再発に対しては切除を考慮する。ただし,R0を目指した切除でも,癌が遺残した場合の予後は極めて不良であること,手術合併症の発生率が高いこと,骨盤内臓器や仙骨合併切除はQOLに多大な影響を及ぼす術式であることについて十分なインフォームド・コンセントを得ることが不可欠である。
吻合部再発と前方再発はR0切除可能例が多いが,後方再発でも仙尾骨合併切除によりR0切除が可能となるものがある。ただし,第2仙骨下縁より高位の切断が必要な再発は手術の適応外とするのが一般的である。仙骨神経叢浸潤による疼痛や下腿の浮腫,術前のCEA高値などは予後不良因子である。再発に起因する水腎症がある場合の予後は不良なため,腎機能,切除により温存可能な尿管の長さなどを考慮して適応を慎重に判断する。また,初回手術で側方郭清が行われている症例の側方再発ではR0切除が行える可能性は低い。
遠隔転移を有する症例は切除の適応外とするのが原則であるが,遠隔転移の合併切除で根治性が得られる場合もある。
手術補助療法として放射線療法の有用性が認められており,特に放射線治療歴のない症例では切除率,括約筋温存率の向上に寄与することが報告されている。欧米では初発癌の手術補助療法として放射線療法を用いることが多いので,局所再発に対する追加照射の安全性が危惧されるが,照射法を工夫することで放射線治療歴がある局所再発にも比較的安全に実施可能とされる。
以上から,直腸癌局所再発に対しては外科治療が第一選択である。側方郭清という独自の治療方針をもち,放射線治療歴のない局所再発が多い本邦において,どのように放射線療法を活用するかが焦眉の検討課題である。
切除可能な肝転移に対する術前化学療法の主たる目的は,腫瘍縮小に伴う肝切除量の減少や切離端の確保,微小転移巣の早期治療,化学療法の奏効性判定であるが,非奏効例が切除不能となるリスク,抗がん剤による肝障害や周術期合併症などの問題もある。
従来,術前化学療法の奏効例の予後が良好であることが後ろ向き研究から知られていた。しかしながら,術前化学療法と手術単独群の肝切除後の生存期間を前向きに比較した試験はない。
“EORTC(European Organisation for Research and Treatment of Cancer)では,治癒切除可能な肝転移を伴う大腸癌に対して,外科的切除単独とFOLFOX4の術前・術後化学療法+外科的切除のランダム化比較試験(EORTC40983試験)を行い,FOLFOX4群で無増悪生存期間が優れていたと報告されたが,最終的な5年全生存率は化学療法群で52.4%,手術単独群で48.3%であり全生存率におけるFOLFOX4群の優越性は認められなかった。以上より,肝転移切除例に対する術前・術後の化学療法の有用性は確立されておらず実地臨床での適応は慎重に判断すべきである。
切除可能な肝転移に対して術前化学療法を行わないことの推奨の強さについて,ガイドライン委員のコンセンサスを得るには至らなかったので推奨度は示していない。
肝腫瘍に対する穿刺局所療法にはエタノール注入法やマイクロ波凝固療法(microwave coagulation therapy:MCT),ラジオ波焼灼療法(radiofrequency ablation:RFA)があり,RFAは他の方法に比べて凝固範囲が広く,穿刺回数が少ないため肝転移巣に対しては主にRFAが用いられる。RFAの利点は肝切除よりも低侵襲であり,繰り返し施行が可能であることである。しかし報告されているRFA後の局所再発率は1.7~66.7%とばらつきがあるものの肝切除よりも明らかに高く,再発リスクを考慮し,十分なインフォームド・コンセントを得た上で実施する。RFAの局所再発の危険因子としては原発巣の組織型(大腸癌は肝細胞癌や内分泌腫瘍に比べ局所再発率が高い),腫瘍径が大きい場合(3cmを超える),辺縁の焼灼が不十分な場合(マージン 1cm未満),主要脈管と隣接している場合などがあげられている。5年生存率は14~55%と報告とされるが,総じて肝切除を上回るものではない。異時性肝転移に対する肝切除とRFAの比較では,RFAは再発までの期間が短い,局所再発および肝内再発が多い(但し肝外再発では有意差なし)ことが報告されているが,十分な症例数を前向きに比較検討した報告は少ない。今後,前向き研究を行う場合,明らかに再発率が高いRFAの適応基準をどのように設定するのかという倫理的な問題をクリアする必要がある。
以上より,PSが良好な患者の切除可能な肝転移に対する標準治療は肝切除である。熱凝固療法は,低侵襲であるという利点を活かして,PS不良例や,基礎疾患や併存症のため切除にリスクを伴う場合など選択された症例に考慮される治療法である。
欧米で行われた5-FUベースのランダム化比較試験のpooled analysisなどの解析から,70歳以上の患者においても,60歳以下の患者と同等の再発抑制効果と生存期間延長が示されている。副作用については,高齢者では好中球減少が強く出る傾向にあるが,他の有害事象についてはほぼ同等である。ただし,NSABP C-07試験やMOSAIC試験における探索的なサブグループ解析では70歳以上の高齢者においてOX追加の有効性が認められていないことに留意し,適応の判断は主要臓器機能や全身状態を加味して慎重に行う必要がある。
3,238名の結腸・直腸癌(Stage IIが91%で結腸癌が71%)を対象とした5-FU+LV(+/-)levamisole群と手術単独群を比較したQUASAR試験では,化学療法群の再発率および生存率が良好で,5年生存率で3~4%の上乗せ効果がみられたが,Stage IIのみでは有意差は得られなかった。また,T3N0を対象とした5-FU+LV群と手術単独群のランダム化比較試験のpooled analysis(IMPACT B2)では再発率・生存率ともに有意差はなく,メタアナリシスやSEER database reviewでも化学療法群の生存期間が良好な傾向があるものの有意差は得られなかった。
こうしたなかで,海外のガイドラインにはStage II結腸癌のなかに再発高リスク群を設定し,期待される効果と予想される副作用を十分説明したうえで,術後補助化学療法を行うという方針を示すものもある。この場合,Stage III結腸癌と同じ治療法と投与期間が推奨されている。再発高リスク要因としては,高レベルのエビデンスに基づくものではないものの,ASCO2004ガイドラインでは,郭清リンパ節個数12個未満,T4症例,穿孔例,低分化腺癌・印環細胞癌・粘液癌症例,ESMOガイドラインでは,T4,低分化腺癌または未分化癌,脈管侵襲,リンパ管侵襲,傍神経浸潤,初発症状が腸閉塞または腸穿孔,郭清リンパ節個数が12個未満と規定している。Stage IIのなかでも予後不良なサブグループに的を絞って補助化学療法を行うという戦略は,現時点では妥当な選択と考えられ,当面は上述のリスク因子を参考として術後補助化学療法の適応を検討することが望まれる。
最近では臨床病理学的因子以外に,再発の予測や予後の判定に,より有用性の高いバイオマーカーの探索研究が進められている(MSI,Oncotype DX Colon Cancer test,ColoPrintなど)。
Intergroupプロトコール-0089では,5-FU+levamisole(LEV)(12カ月)を対照群として,5-FU+LV(Mayo法を27週,またはRPMI法を32週)および5-FU+LV+LEV(6カ月投与)の比較検討がなされた。3.8年後の無再発生存期間および生存期間には4群間の差が認められなかった。毒性,コスト,患者の利便性の観点から,5-FU+LEVの12カ月よりも5-FU+LVの6~8カ月投与の方が好ましいと結論された。またNCCTGとNCICは,再発高リスク結腸癌の術後補助化学療法として治療法と投与期間を評価する臨床試験を報告した(NCCTG 89-46-51)。2×2要因デザインで5-FU+LEVもしくは5-FU+LV+LEVの6カ月と12カ月投与を比較した結果,いずれのレジメンおよび投与期間も無再発率,全生存割合に有意な影響を及ぼさないことが示された。しかし,投与期間-レジメンの有意な相関が認められたため,各投与群について別々に解析が行われた結果,5-FU+LV+LEVの6カ月投与の生存割合が最も高かったが,各レジメンの12カ月投与より有意に優れていることは示されていない。一方,Mayo法の24週投与と5-FU持続静注(300mg/m2)の12週投与を比較した試験では,無再発生存期間と生存期間に有意差はなく,持続静注は下痢や好中球減少などの有害事象が少なかったと報告されている。
以上から,間接的ではあるが5-FU+LVの6カ月投与(週1回投与)は,5-FU+LEVや5-FU+LVの1年間投与と同等の有効性があることが示唆され,現在,標準的な治療と考えられている。またoxaliplatin併用の5-FU+LVに対する優越性を検証したMOSAIC試験,NSABP C-07試験,XELOXA試験においても両者は6カ月投与で比較されている。経口抗がん剤(UFT+LV,capecitabine)の内服期間は,5-FU+LVとの同等性を検討したNSABP C-06とXACT試験では静注法と同じ6カ月投与が採用されたが,NSAS-CCの治療群のUFTは12カ月投与された。現在,経口抗がん剤やFOLFOX/CapeOXの至適投与期間を検討する比較試験が行われているところであり,本課題の確証的な結論を得るまでにはさらなる検討が必要である。
一次治療にbevacizumab投与がされていない場合の二次治療においては,投与可能な症例に対してはbevacizumabの適正使用に準拠した投与を行うことが望ましい。この場合の至適投与量(5mg/kgまたは10mg/kg)についての十分明確なエビデンスはないが,10mg/kgの5mg/kgに対する有効性の上乗せが認められなかったとする比較試験がわが国から報告され,現時点では5mg/kgが推奨される。
一次治療にbevacizumabが投与され,一次治療の効果が持続しているが,抗がん剤の有害事象により投与継続が困難になった場合は,bevacizumabを継続投与することが望ましい。一方,bevacizumabを含む一次治療の効果が増悪(PD)であった場合の二次治療におけるbevacizumabの継続投与(Bevacizumab Beyond Progression:BBP)については,有用性を示唆する観察研究の報告とともに,ランダム化比較試験(ML18147試験)においてBBP群の有意な全生存期間延長が認められ,有効性が検証された。この結果,BBPが二次化学療法の標準治療の一つとして位置づけられると考える。ただし,本試験においてBBPにより得られたMSTの差は1.4カ月程度の差であること,奏効割合に差がないこと,高額な医療コストなど,リスクとベネフィットを十分考慮した上で治療法を選択することが望ましい。
二次治療としてのcetuximabの投与〔FOLFIRI療法(またはIRI単独)+cetuximab〕は,無増悪生存期間の延長,奏効割合の増加,QOL向上に寄与することが示されたが,プライマリーエンドポイントである全生存期間では,対照(IRI単独)群における試験治療後のcetuximab投与(クロスオーバー)の影響もあり,IRI単独療法と差は確認されなかった。同様に,KRAS野生型に限定した二次治療としてのpanitumumabの投与〔FOLFIRI療法(またはIRI単独)+panitumumab〕においても無増悪生存期間の延長に寄与することが示されたが,全生存期間ではFOLFIRI療法との差が確認されなかった。
全生存期間をプライマリーエンドポイントにおいた,KRAS野生型の二次治療における抗EGFR抗体薬併用化学療法とbevacizumab併用化学療法とのランダム化比較試験は行われておらず,今後の検討課題である。
切除不能肝転移を対象としたCALGB-9481試験において,FUDR肝動注療法の奏効率,全生存期間は5-FU+LV全身化学療法と比較し有意に良好であることが示された。しかし,本試験を含んだメタアナリシスでは,肝動注療法(FUDRまたは5-FU+LV)は全身化学療法(FUDRまたは5-FU+LV)と比較し奏効率は有意に高いが,全生存期間に明らかな差は認められなかった。
肝動注療法と全身化学療法の併用療法も開発されており,FUDR肝動注療法とOX+5-FU+LV全身化学療法の併用第I相試験では奏効率87%,生存期間中央値22カ月,5-FU肝動注療法とIRI全身化学療法の併用第I/II相試験では各々72%,49.8カ月など良好な成績が報告されている。
レトロスペクティブな検討において5-FU,OX,IRIに不応となった切除不能肝転移例に対する5-FU肝動注療法は奏効率18.2%,生存期間中央値6.7カ月と報告されている。
これまでのランダム化比較試験はいずれもフッ化ピリミジン単独の肝動注療法と全身化学療法の比較であり,現在の標準的な全身化学療法であるOXやIRI,分子標的治療薬を用いた多剤併用療法に対する肝動注療法または肝動注療法と全身化学療法の併用療法の有効性は確立していない。
■IRIとUGT1A1遺伝子多型
IRIの活性代謝産物であるSN-38の肝内の代謝酵素(活性体SN-38から不活性体SN-38 Gへ変換する酵素)であるUGT1A1遺伝子の*6,*28のダブルヘテロ接合体,あるいはそれぞれをホモ接合体としてもっている患者への投与は,UGT1A1のグルクロン酸抱合能が低下し,SN-38の代謝が遅延することが知られており,好中球減少など重篤な副作用が発現する可能性がある。とりわけ,血清ビリルビン値が高い患者,高齢者,全身状態が不良な患者(たとえばPS2),前回のIRI投与で高度な毒性(特に好中球減少)をきたした患者は,投与前にUGT1A1遺伝子多型の有無を調べておくことが望ましい。一方,UGT1A1遺伝子多型のみでIRIの毒性をすべて予知できないことから,遺伝子多型の有無にかかわらず,治療中は全身状態を把握しながら,注意深い副作用管理を行っていくことが肝要である。
直腸癌に対して側方郭清が行われない欧米で行われた臨床試験では,術前化学放射線療法により局所再発率の低下が示されているが,生存率の向上は示されていない。本邦の大腸癌専門施設においては,下部直腸進行癌に対してはTME(あるいはTSME)+側方郭清が標準的に行われており,生存率,局所再発率ともに良好な成績が報告されており,欧米で標準である術前化学放射線療法は積極的には行われていないのが現状である。側方リンパ節転移がないと診断された症例において術前照射後における側方リンパ節郭清の有無を比較した本邦におけるランダム化比較試験では,両群の無再発率,全生存率に差はなく,側方郭清を施行しない群で有意に排尿障害,性機能障害が少ないことが報告されているが,45例と少数例の検討であることから,この報告の意義は限定的である。一方,術前放射線療法には腸管障害,排便機能障害,性機能障害,2次癌発生などの有害事象が報告されており,本邦における術前化学放射線療法の局所再発低減における上乗せ効果,あるいは側方郭清の代替としての有効性については,有害事象も考慮した,適切に計画された臨床試験での評価が必要である。
現在,国内外で新規抗がん剤を併用した術前化学放射線療法の治療開発が行われており,生存率向上に寄与するかは今後の検討を待つ必要がある。また,新しい照射方法として,三次元原体照射の進化形であり,逆方向治療計画(インバースプラン)に基づき空間的,時間的に不均一な放射線強度をもつ照射ビームを多方向から照射することにより病巣部に最適な線量分布を得ることが可能な強度変調放射線治療(intensity modulated radiotherapy:IMRT)がある。骨盤照射において,腸管や膀胱,骨盤骨への線量を低減させて,消化器毒性,骨髄毒性の軽減を図ることができる。直腸癌を対象としたIMRTを用いた術前化学放射線療法の第II相試験において有害事象の軽減効果は認められず,現時点では臨床試験で行うことが推奨されている。
1)治療の腫瘍縮小効果によってはR0切除可能になる(marginal resectable)と判断される局所進行直腸癌に対しては,切除を指向した術前化学放射線療法が放射線単独療法よりも推奨される(CQ 10参照)。
さまざまな抗がん剤との同時併用療法レジメが検討されている。切除不能(T4)直腸癌を対象としたランダム化比較試験では,5-FU+LV+50 Gyの化学放射線療法群は,やや毒性が高いものの一般診療レベルで実施可能と判断された。化学放射線療法群は放射線単独療法群に比べて,完全切除率(84% v 68% p=0.009),5年骨盤内制御率(82% v 67% p=0.03),疾患特異生存率(72% v 55% p=0.02)において優れていたが,再発例や膀胱・前立腺浸潤例を含む症例の検討であり,結果の解釈には注意が必要である。局所進行直腸癌,局所再発直腸癌に対する化学療法単独のR0切除率に関する報告はない。
術中照射は,実施可能な施設が限られるものの,術前化学放射線療法後に10~20 Gyの術中照射を行い,予後が改善したという報告があり,特に他臓器浸潤例または再発例で切除断端が陽性もしくは近接している場合には局所制御率の向上のために考慮してもよい療法である。
2)有症状の切除不能な局所進行・局所再発直腸癌に対しては,以下のように層別化された緩和治療が行われている。①全身状態が良好であり薬物療法が実施可能な症例に対しては,できるだけ長期間にわたり症状緩和効果を得て患者のQOLを高く保つことを期待して,化学放射線療法が考慮される。②全身状態が不良であり薬物療法が実施困難な症例に対しては,短期間かつ低毒性に,疼痛緩和や止血などの症状が軽減されることを期待して,緩和的放射線単独療法が選択されることが多い。無症状の切除不能な局所進行/局所再発直腸癌に対しては,様々な治療法が選択されている。化学放射線療法は積極的な救済治療の選択肢の一つと考えられている。
既に放射線療法が行われた症例の症状緩和には,化学療法を併用した加速過分割照射が有用であったと報告されている。
近年,三次元原体照射や強度変調放射線治療などが利用できるようになり,有害事象が危惧される小腸などの隣接臓器への線量を低下させながら,病変部への線量を増加することが可能となってきた。また,炭素線,陽子線などの重イオン線を用いた治療により卓越した線量分布が可能となり,特に炭素線は高い生物学的効果が期待されている。今後はこれらの新しい放射線療法を用いて,標的体積の設定法,線量増加,併用薬剤等による有効性と安全性の向上について,適正に計画された臨床試験を実施していく必要がある。
大腸癌治癒切除後のサーベイランス方法と予後の関連は複数のランダム化比較試験で検討されている。intensiveなサーベイランスが良好な予後に寄与するという報告と,これを否定する報告があるが,メタアナリシスによって,サーベイランスによる再発の早期発見は大腸癌治癒切除後の予後向上に寄与することが示されている(表1)。
ただし,過去に行われたサーベイランスに関するランダム化比較試験は欧米で施行され,“intensive”に位置づけられているサーベイランス方法には,検査間隔が長く,腫瘍マーカーの測定や画像診断を省略しているものがあるなど,本邦で一般的に行われているサーベイランスよりもless intensiveなものが少なくないことに留意する必要がある。本邦における現状のサーベイランスの妥当性に関する解答は過去の臨床試験からは得られず,さらにintensiveなスケジュールや新しい診断モダリティを組み込むことの臨床的意義は不明である。
欧米の代表的なガイドラインにおいて推奨される術後サーベイランス方法を表2に示す。ガイドラインごとに診断モダリティやスケジュールの疎密度に差があるが,本邦における現状のサーベイランス方法と比較するとこれらは概してless intensiveである。この相違に関して,欧米では本邦以上に費用対効果に重きが置かれ,またサーベイランスの重要性に関する認識が十分に浸透していない実情が背景にあるものと考えられる。医療経済的な妥当性にも配慮した最良なサーベイランス方法の確立は今後の課題である。
大腸癌には,大腸多発癌,重複がんの高い発生リスクを有する遺伝性大腸癌がある。日常診療においては,遺伝性大腸癌を鑑別することが重要であり,遺伝性大腸癌に対しては適切なカウンセリングのもとに多重がんのサーベイランスを実施する必要がある(『遺伝性大腸癌診療ガイドライン』参照)。
一般的に,異時性大腸癌の発生頻度は1.5~3%とされる。これは一般集団と比較した場合の1.3~1.5倍と高く,大腸癌罹患歴は異時性大腸癌の危険因子である。定期的な内視鏡検査により発見される異時性大腸癌の約90%が治癒切除可能であり,異時性大腸癌を標的とした術後サーベイランスは有用と考えられる。
推奨される術後の大腸内視鏡検査のスケジュールはガイドラインにより異なる(CQ 20-1 表2)。異時性大腸癌の約半数は術後2年以内に発見される。大腸癌の初回手術時に多発癌を合併する頻度は2~7%と比較的高く,術後早期に発見される異時性大腸癌には術前検査で見逃した同時性大腸癌も含まれると考えられる。術後初回の大腸内視鏡検査の至適施行時期は術前検査の質に左右されるが,一般的には術後1年時の検査が推奨され,術前に全大腸の観察が不能であった症例にはより早期の実施が望ましい。
一方,重複がんを標的とするサーベイランスを散発性大腸癌に行うことの妥当性は十分に検証されていない。本邦における異時性重複がんの発生頻度は1~5%とされる。臓器別には,胃が最多であり(1~3%),肺や肝臓がこれに続くとする報告が多い。近年,大腸癌術後の重複がん発生頻度は一般集団の罹患率を上回る可能性を指摘する報告もあるが,散発性大腸癌症例における重複がんのサーベイランスの有効性を証明したコホート研究はない。また,前立腺癌,子宮体癌,卵巣癌,乳癌,小腸癌,女性の甲状腺癌などの発生頻度が高いとする報告があるが,多くは欧米からの報告であり,遺伝性大腸癌との関連も明確ではない。
以上から,重複がんのサーベイランスに関しては,医療経済的側面も考慮した検討が必要であり,重複がん発生リスクの評価基準の確立が急務であるが,現状では大腸癌術後に重複がんを標的とするサーベイランスを実施する根拠は乏しい。がん検診の必要性を啓発し,定期的な検診を勧めるのが妥当である。