遺伝性大腸癌診療ガイドライン2024年版の外部評価
大腸癌研究会ガイドライン評価委員会
遺伝性大腸癌診療ガイドライン2024年版の外部評価は偏りなく,質の評価を行うために,内的妥当性として,AGREE Ⅱ日本語訳(2022年9月改訂)を用いて,ガイドラインの作成方法の評価を行い,外的妥当性として専門家の意見として,日本の大腸がん診療,診療の現状に過不足ない内容が記載されているか否かについて評価した。遺伝性大腸が診療ガイドライン作成委員会(以下,作成委員会)でガイドライン案が作成され,2024年1月に開催された第100回大腸癌研究会において公聴会が開催され,その後にパブリックコメントが募集された。大腸癌診療ガイドライン評価委員会(以下,評価委員会)で一時評価を行った後,作成委員会により指摘事項が協議され最終案について評価委員会で最終評価を施行した。
ガイドライン作成方法についての評価として4名の全ての委員がAGREE Ⅱ日本語訳に従って6領域23項目と全体評価2項目について作成方法の評価を行った。委員がそれぞれの項目について評価を行い,獲得評点の平均および領域別評点を算出した領域別評点は,各領域内の個々の項目の評点を全て合計し,その合計点を各領域の最高評点に対するパーセンテージとして算出した。
領域別評点(%)=(獲得評点の合計-最低評点の合計)/(最高評点の合計-最低評点の合計)
専門家の視点からの評価は,各専門家が担当分野について評価を提出し,さらに全体で協議してコンセンサスを得た。
〔評価結果〕
1 AGREEⅡ日本語訳を用いたガイドライン作成方法の評価
前回の2020年度版で指摘された外部評価の項目(表1,図1)についてかなり多くの点で改善されている。領域別評点を見ると,6領域のうち5領域で80%以上の評点を獲得しており,非常に高い評価であったということが言える。しかしながら,領域5(適用可能性)については未だに低い点数であった。これはカウンセリング,保険適用などの記載がなされている一方で,実際に行う上では施行可能施設の問題などが考えられるが記載は十分でないこと,サーベイランスにおける開始年齢や検査間隔は文検的に得られる情報が記載されているもののモニタリングや監査基準を示すレベルまでに至っていないことなどが指摘されている。ガイドライン,全体の質の評価として獲得評点の平均は6.5点で良好な評価であった(表2)。また,このガイドラインの使用を推奨するかの問いに対して推奨する4票/推奨する条件付き0票/推奨しない0票であり非常に高い推奨率が得られている。
以下評価委員会において指摘され,作成委員会で再検討され,加筆修正された項目のうち重要と思われる指摘事項を列挙する。


図1 領域別評点(%)
2 専門家の視点からの評価および作成委員会からの回答(カッコ内)
- 遺伝性大腸癌の発生率が少なく,エビデンスの高い研究論文が少ない中で,日常診療に必要な診断,治療,サーベイランスについてわかりやすくまとめられている。特にCQを含めた診療アルゴリズムや多くの図表やフローチャートの組み入れにより,読者の見やすさという観点での配慮が加わっている。
- 2020年度版ではCQは合計22設定されている。家族性大腸腺腫症10,リンチ症候群12設定されている。一方で,2024年度版では全体のCQ数は10と半減している。これに対して改訂点としては大きな部分だと思うので,改訂に至った経緯についてもう少し丁寧に解説してもよろしい。(変更:一部追記)
- アルゴリズム2の内視鏡治療にIDP:も併記してはいかがだろうか?(変更:併記)
- 表の中にテーブルがあるが,どのような分類のテーブルか記すべきだと思う。(変更:追記)
- GAPPSの大腸以外のポリポーシスは胃が入らないのだろうか?(変更:「胃」を追記)
- 腺腫性ポリポーシスは,大腸ポリープ数が10個以上の腺腫性ポリープを認めると定義されているが,昔はポリポーシスは100以上だったと思う。突然の記載変更に違和感がある。腺腫性ポリポーシスと単純な多発ポリープの鑑別はどうなるのだろうか?
日本消化器内視鏡学会が出している。消化器内視鏡用語集第5版ではポリポーシスはある臓器の広い範囲に極めて多数のポリープが存在する場合と書かれているため,10個は極めて多数にはならないように思う。
ただステッドマン医学大辞典では,ポリポーシスは数個のポリープが存在することと書かれているため,本診療ガイドラインで10個以上と定義するのであれば,それでも良いように思うが,定義の変遷に関する解説の付記が必要ではないか。
(回答:ポリポーシスという用語は,過誤腫性ポリポーシスや鋸歯状ポリポーシスの臨床診断基準において,ポリープの数がそれぞれ2個,あるいは5個以上で診断される。すなわちポリポーシスは100個以上のポリープという定義は,すでに汎用性が失われており,また,その定義の変遷を的確に表した文献を見つけることもできなかったため,付記は割愛する。)
- Lynch-like症候群や家族性大腸がんタイプXがあり,これらは遺伝性大腸癌には含まないとのことだが,病的遺伝子が不明なものでも明らかに遺伝性が疑われる疾患については含めても良いように思った。
- この図Ⅱ-4だが,家族性大腸腺腫症と書かれているボックスには,他のポリポーシスと揃えるならば,APC関連ポリポーシスとして腺腫性ポリポーシスのボックスに腺腫性ポリポーシス(家族性大腸腺腫症)と記すのはいかがだろうか。
(回答:APC関連ポリポーシスは,必ずしも,家族性大腸腺腫症と完全に同一ではないとする定義もあり(家族性大腸腺腫症にはGAPPSを含まない),修正はしない方が良いと判断した。)
以上