この度「遺伝性大腸癌診療ガイドライン2020年版」を刊行しました。
大腸癌研究会ではこれまでに「遺伝性大腸癌診療ガイドライン2012年版」,「遺伝性大腸癌診療ガイドライン2016年版」を刊行し,それまでは家族性大腸腺腫症やリンチ症候群に関してはそれらの疾患をわかりやすく解説した参考すべき信頼できる書籍がなかったことから,本診療ガイドラインはそれらの疾患を適切に理解するだけでなく,日常診療においても大いに役に立ってきました。また,2016年版作成時もそうでしたが,2020年版の作成に当たっても,日本における臨床のエビデンスを創出するために,家族性大腸癌委員会(現,遺伝性大腸癌委員会)では幾つかの多施設共同研究を行い,それらを英語論文として発表し,その成果を本ガイドラインに盛り込みました。そのため,遺伝性大腸癌の診療に従事している方々にとってバイブルともいえるさらに充実したガイドラインになったと思います。
2012年版や2016年版では,各論は家族性大腸腺腫症とリンチ症候群それぞれがその項目内で完結するように記載されていました。しかし,2020年版では,2012年版および2016年版の作成過程における作成委員の討論,発刊後の読者からの意見,新たな知見を基に,両疾患に共通する事項をⅠ.遺伝性大腸癌の概要,として纏めることにより,遺伝性大腸癌の全体像をより理解しやすくし,遺伝学的検査の解説や遺伝カウンセリングの解説も充実しました。また,家族性大腸腺腫症やリンチ症候群以外のさらに希少ないくつかの遺伝性大腸癌の遺伝的・臨床的特徴を一覧表として掲載したので,大いに参考になると思います。
各論の家族性大腸腺腫症では,①概要,②診断,③随伴病変,④サーベイランスと治療,⑤家族(血縁者)への対応,またリンチ症候群では,①概要,②診断,③治療,④術後のサーベイランス,⑤リンチ症候群であることが確定していない大腸癌患者への対応,⑥遺伝カウンセリングと家族(血縁者)への対応,と明確に項目を分けることにより参照したい事項が新知見とともに記述式で簡潔に記載されています。
Clinical Question(CQ)は,家族性大腸腺腫症では10項目,リンチ症候群では12項目あり,2016年版よりは少なくなっていますが,記述式の方が理解しやすい事項をその対応する箇所やサイドメモへ移動し,日常臨床で判断に迷う事項のみをエビデンスレベルと推奨度が記載されたCQとしました。
「遺伝性大腸癌診療ガイドライン2020年版」が遺伝性大腸癌患者の適切な診断・治療に役に立つことを期待しています。
2020年4月22日
大腸癌研究会会長
杉原健一