この度「遺伝性大腸癌診療ガイドライン2016年版」を刊行しました。
大腸癌研究会の家族性大腸癌委員会では,「①近年急速に増えている大腸癌の中に一定の割合で遺伝性大腸癌がある。②遺伝性大腸癌の診断・治療方針は散発性大腸癌とは異なる点がある。③遺伝性大腸癌の発生機序・診断・治療に関する新しい情報や適切な治療方針は一般臨床医に十分には届いていない。④そのため,遺伝性大腸癌患者は必ずしも適切な診断・治療を受けているとは限らない。⑤欧米では遺伝性大腸癌の診療ガイドラインはあるが,日本にはない。⑥欧米のガイドラインは必ずしも日本の医療事情・臨床に適しているとは限らず,また,遺伝性であることから疫学情報・形質発現などが欧米とは異なっている可能性がある。⑦一般臨床医に理解でき,日本の臨床に立脚したガイドラインが必要である。」とのコンセンサスのもと,遺伝性大腸癌の診療ガイドラインの作成に着手し,2012年に「遺伝性大腸癌診療ガイドライン2012年版」が刊行されました。
しかし,その作成過程で日本における診療ガイドラインとして重要な日本のデータが少なく,しかも数少ないそれぞれの研究でも症例数が少ないことが明らかになりました。その不備を補うために大腸癌研究会の家族性大腸癌委員会では幾つかの多施設共同研究を開始し,また,すでに症例集積が終了していたHNPCC第二次プロジェクトから必要なデータを抽出し,分析を行いました。その成果は10編の英文論文として発表されるとともに,2016年版においては日本の臨床に重要な情報としてCQに組み込まれました。
さらに,家族性大腸腺腫症,リンチ症候群のいずれにおいても,概要,診断,治療,術後サーベイランスにおいて新たな情報を追加し,また,よりわかりやすい記載にいたしました。
「遺伝性大腸癌診療ガイドライン2016年版」が遺伝性大腸癌患者の適切な診断・治療に役に立つことを期待しています。
2016年9月30日
大腸癌研究会会長
杉原 健一