炎症性腸疾患関連消化管腫瘍診療ガイドライン2024年版

総論

1 目的

 炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease:IBD)である潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis:UC)とクローン病(Crohn’s disease:CD)の患者数は本邦において増加傾向にある。IBDの長期経過例には消化管腫瘍発生のリスクがあることが知られているが,その臨床病理学的特徴は散発性消化管腫瘍とは異なっている部分が多く,それに伴い診断と治療においても異なっている部分が多い。しかしながら散発性大腸癌などに比較して,IBD関連消化管腫瘍の診断や治療に関するエビデンスは乏しく,診療に関わる知識も広く浸透しているとはいえないのが現状である。

 そのような状況をふまえて,①IBDに関連する悪性疾患(主に消化管癌)の診断と治療に関して,明らかになっている事項と,解決すべき事項を示すことによって,②IBDを専門としない臨床医はIBD関連消化管腫瘍の診療に関する現状を知り,専門医との連携をスムーズにし,③IBDを専門とする臨床医は現時点で明らかになっている標準的診療と課題を知ることで,④IBD関連消化管腫瘍患者の治療成績を向上させることを目的として本ガイドラインは作成された。

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2 使用法

 本ガイドラインは,文献検索で得られたエビデンスを尊重するとともに,日本の医療保険制度や診療現場の実状にも配慮した大腸癌研究会および厚生労働省「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究」班のコンセンサスに基づいて作成されており,診療現場において炎症性腸疾患関連癌の診療を実践する際のツールとして利用することができる。具体的には,個々の症例における診療の方針を立てるための参考となることのほかに,患者に対するインフォームドコンセントの場でも活用できる。ただし,本ガイドラインは,IBD関連消化管腫瘍に対する診療の方針を立てる際の目安を示すものであり,記載されている以外の診療方針や治療法を規制するものではない。本ガイドラインは,本ガイドラインとは異なる診療方針や治療法を選択する場合にも,その根拠を説明する資料として利用することもできる。

 本ガイドラインの記述内容については大腸癌研究会が責任を負うものとするが,個々の治療結果についての責任は直接の治療担当者に帰属すべきもので,大腸癌研究会およびガイドライン委員会は責任を負わない。

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3 対象

 本ガイドラインの利用対象者は,IBD患者の診療に携わるすべての臨床医が中心である。

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4 作成法

1)作成の経過

 2021年に大腸癌研究会のガイドラインプロジェクト研究として,厚生労働省「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究」班を協力機関として炎症性腸疾患関連消化管腫瘍診療ガイドラインの作成作業が開始された。ガイドライン作成の基本部分に関しては大腸癌治療ガイドライン1)に準拠して行われた。

2)CQのエビデンスのレベル・推奨の強さ

 各CQの推奨文には,下記に示す方法によりエビデンスレベルと推奨度を決定して付記した。推奨度を決定できないと判断された場合には「推奨度なし」と付記し,推奨度の付記がそぐわないCQには推奨度を付記していない。

3)CQのエビデンスレベル

 CQに関する論文を「文献検索法」に示す方法で収集し,研究デザインをグループ分けして,CQが含むアウトカムに関するエビデンスをGRADEシステム,Minds診療ガイドライン作成マニュアル(2020年版)2)を参考にして評価し(表1),最終的なエビデンスレベルを決定した(表23)。

4)CQの推奨の強さ

 上記作業によって決定されたエビデンスレベルに基づき推奨文案を作成した。ガイドライン作成委員による会議(2022年3月22日開催)において推奨文案を評価し,ディスカッションを行い,下記の方法で投票を行い推奨の強さ(表4)を決定した。

 推奨の強さは,①エビデンスの確かさ,②患者の嗜好,③益と害,④コストの4項目に分けて評価し,GRADE Grid法に準じた投票に基づいて決定した。なお各CQに関して利益相反があると考えられた委員はそのCQの投票を棄権するよう指示した。

  1. 下記の5つの選択肢から1つ選び投票
    1. 「行うことを強く推奨する」
    2. 「行うことを弱く推奨する」
    3. 「行わないことを弱く推奨する」
    4. 「行わないことを強く推奨する」
    5. 「推奨度なし(推奨度がつけられない)」
  2. 1回の投票で,①~⑤のいずれかに,全体の70%以上の投票が得られれば,そのまま決定した。
    この条件に該当しない場合,
    • ①+②が50%を超え,③+④が20%を超えていない場合,「行うことを弱く推奨する」。
    • ③+④が50%を超え,①+②が20%を超えていない場合,「行わないことを弱く推奨する」。
    に決定した。
  3. 1回目の投票では2の条件をいずれも満たさなかった場合は,「合意に至らなかった」として,投票結果を開示しつつ日本の医療状況を加味した再協議を行い,再投票を行った。
  4. 2回目の投票でも合意に至らない場合は「推奨度なし」とした。
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5 文献検索法

 各CQについて文献検索した後に,必要に応じて検索式を立て直して検索を行った。PubMedおよび医中誌Webを検索データベースとして,両データベースの1995年1月から2021年9月までの英語および日本語の文献を検索した。

 検索は医学図書館員が行い,2021年10月を検索日として各CQの担当委員と相談しながら検索式を立てて文献を抽出した。また,必要に応じてハンドサーチで抽出した文献も追加して批判的に吟味して,ガイドラインなども適宜採用した。

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6 改訂

 本ガイドラインは,原則として5年を目途に大腸癌研究会および厚生労働省「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究」班のガイドライン委員会を中心組織として改訂を行う。

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7 公開

 本ガイドラインが診療現場で広く利用されるために,冊子として出版し,今後学会等のホームページで公開予定である。

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8 資金

 本ガイドラインの作成に要した資金は大腸癌研究会の支援によるものであり,その他の組織や企業からの支援は一切受けていない。

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9 利益相反

  1. ガイドライン作成員の自己申告によって利益相反の状況を確認した結果,申告された企業などは下記の通りである。
     旭化成メディカル株式会社,アステラス製薬株式会社,アストラゼネカ株式会社,アッヴィ合同会社,あゆみ製薬株式会社,アルフレッサファーマ株式会社,EAファーマ株式会社,EPクルーズ株式会社,医療法人錦秀会,医療法人社団ミッドタウンクリニック,ヴィアトリス製薬株式会社,オリンパス株式会社,株式会社大塚製薬工場,株式会社JIMRO,株式会社ヤクルト本社,キッセイ薬品工業株式会社,杏林製薬株式会社,ギリアド・サイエンシズ株式会社,ゼリア新薬工業株式会社,セルジーン株式会社,第一三共株式会社,大鵬薬品工業株式会社,武田薬品工業株式会社,田辺三菱製薬株式会社,中外製薬株式会社,日本イーライリリー株式会社,日本化薬株式会社,日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社,ファイザー株式会社,ブリストル・マイヤーズ スクイブ株式会社,HOYA Pentax Medical,マイランEPD合同会社,持田製薬株式会社,ヤンセンファーマ株式会社
  2. 利益相反に対する対策
     委員会は,内科,外科,病理等の多分野の構成とし,意見の偏りを最小限にした。
     さらに,推奨決定は議長(委員長)を除く全員投票として,コンセンサスを重視した。また,CQの投票に際してはCQごとに経済的および学術的利益相反を確認し,当該CQに利益相反がある委員は投票を棄権した。
文献
  1. 大腸癌研究会編:大腸癌治療ガイドライン 医師用 2022年版,金原出版,東京,2022
  2. Minds診療ガイドライン作成マニュアル編集委員会編:Minds診療ガイドライン作成マニュアル2020 ver. 3.0.公益財団法人日本医療機能評価機構,東京,2021
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10 ガイドライン委員会

ガイドライン作成委員会(○は領域責任者)

委員長
 石原聡一郎 東京大学大学院医学系研究科 臓器病態外科学腫瘍外科
委員(五十音順)
[内科領域]
 浦 岡 俊 夫 群馬大学大学院医学系研究科 内科学講座 消化器・肝臓内科学分野
 斎 藤   豊 国立研究開発法人国立がん研究センター中央病院 内視鏡センター/内視鏡科
 高 丸 博 之 国立研究開発法人国立がん研究センター中央病院 内視鏡センター/内視鏡科
 仲 瀬 裕 志 札幌医科大学医学部 消化器内科学講座
 長 沼   誠 関西医科大学 内科学第三講座消化器肝臓内科
 久 松 理 一 杏林大学医学部 消化器内科学
 藤 井 俊 光 東京医科歯科大学 消化器内科
 松 浦   稔 杏林大学医学部 消化器内科学
松 本 主 之 岩手医科大学医学部 内科学講座消化器内科消化管分野
 渡 辺 憲 治 富山大学 炎症性腸疾患内科
[外科領域]
池 内 浩 基 兵庫医科大学 炎症性腸疾患外科
 内 野   基 兵庫医科大学 炎症性腸疾患外科
 大 北 喜 基 三重大学大学院医学系研究科 消化管・小児外科
 岡 林 剛 史 慶應義塾大学 一般・消化器外科
 小金井一隆 横浜市立市民病院 炎症性腸疾患科
 杉 田   昭 横浜市立市民病院 臨床研究部/炎症性腸疾患科
 高 橋 賢 一 東北労災病院 大腸肛門外科
 畑   啓 介 日本橋室町三井タワーミッドタウンクリニック
 東 大二郎 福岡大学筑紫病院 外科
 二見喜太郎 松永病院 外科
 松 田 圭 二 同愛記念病院 外科
 水 島 恒 和 獨協医科大学 下部消化管外科
 渡 谷 祐 介 広島大学大学院医系科学研究科 外科学
[病理領域]
味 岡 洋 一 新潟大学大学院医歯学総合研究科 分子・診断病理学分野/分子・病態病理学分野
 河 内   洋 がん研究会有明病院 病理部
 下 田 将 之 東京慈恵会医科大学 病理学講座
 菅 井   有 岩手医科大学 病理診断学講座
[ガイドライン作成]
 吉 田 雅 博 国際医療福祉大学市川病院 消化器外科
[文献検索]
 山口直比古 聖隷佐倉市民病院 図書室

ガイドライン評価委員会

委員長
 板 橋 道 朗 埼玉県済生会加須病院 病院長
委員(五十音順)
 植 竹 宏 之 国立病院機構災害医療センター 臨床研究部長
 坂巻顕太郞 順天堂大学健康データサイエンス学部
 坂 本 一 博 順天堂大学医学部消化器外科学講座下部消化管外科
 佐 野 圭 二 帝京大学医学部外科学講座肝胆膵外科
 田 中 信 治 JA尾道総合病院 病院長

協力者

 安 西 紘 幸 東京大学大学院医学系研究科 臓器病態外科学腫瘍外科
 岸 川 純 子 東都文京病院 外科
 小 松 更 一 東京大学大学院医学系研究科 臓器病態外科学腫瘍外科
 品 川 貴 秀 東京大学大学院医学系研究科 臓器病態外科学腫瘍外科
 津 島 辰 也 東京大学大学院医学系研究科 臓器病態外科学腫瘍外科
 野 口 竜 剛 がん研有明病院 大腸外科

協力

 厚生労働科学研究費補助金難治性疾患政策研究事業 難治性炎症性腸管障害に関する調査研究班

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