この度「大腸癌治療ガイドライン医師用2019 年版」を刊行しました。「大腸癌治療ガイドライン医師用2014 年版」が完成した時点では,次回の改訂は2018 年を予定していましたが,その後に薬物療法の領域において,大規模臨床試験の結果や治療を行う上で重要な研究結果が公表されたことから,早急なアップデートが必要と判断し,薬物療法領域のみを改訂した「大腸癌治療ガイドライン医師用2016 年版」が刊行されました。今回の改訂では,大腸癌治療にかかわるすべての領域(内視鏡治療領域,外科治療領域,薬物療法領域)の改訂が行われました。
いま日本で最も罹患率の高い癌のひとつとなった大腸癌に対しては,日本全国の様々な医療機関で診療が行われています。「大腸癌治療ガイドライン医師用」を刊行する目的は,これら全国の大腸癌の診療にかかわる医師に対して適切な治療法を提示することにより,過不足のない診療が行われるようにすることであり,それにより大腸癌診療の質の地域間・施設間格差をなくすことです。したがって,大腸癌治療の専門の施設において行われる新しい治療法の試みや新しい技術の導入を妨げるものではありません。また,「大腸癌治療ガイドライン医師用」は,標準的な大腸癌の患者さんを想定し,進行度に応じた適切な治療法を推奨するものです。一方,実際の臨床現場では,治療に関する考え方や併存疾患,社会環境,医療環境など,様々に異なる患者さんの治療を行います。そのため,「大腸癌治療ガイドライン医師用」では,あえて治療法間の優劣を厳格に決めることはせず,多くの選択肢を残し,各々の患者さんにどの治療法を適用するかは医師と患者さんとでよく話し合って決める,との立場をとっています。したがって,それぞれの治療法に関し,より詳細な情報が必要であると判断した場合は,それぞれの領域の専門書を参照していただければと思います。
大腸癌の診断や治療は日々進歩しています。しかし,新しい治療法が必ずしも最良の治療法ではありません。良くデザインされた臨床試験により確立された治療法や,臨床試験は行われていないが改良を積み重ねられてきた臨床経験が十分な討論を経て日常診療として受け入れられた治療などがでてくれば,それらはガイドラインの新たな一ページに加えられるものと思います。
2019年1月25日
大腸癌研究会会長
杉原 健一