大腸癌の治療には内視鏡治療,手術治療,薬物療法(抗がん剤による治療),放射線治療などの方法があります。大腸癌と診断されたら,まず各種の検査(「大腸癌の検査法」参照)により癌の進行度[ステージ(病期)で表します]が決定され,進行度に応じて治療方法が選択されます(「大腸癌の治療法」参照)。
リンパ節転移の可能性がある早期癌と進行癌には手術治療が行われます。手術では腸の切除だけでなく,リンパ節郭清も行います。リンパ節の郭清する範囲はステージによって異なります(図21参照)。
切除された組織は顕微鏡で検査されます(病理検査)。切除されたリンパ節に癌の転移が確認されるとステージⅢに分類されます。ステージⅢには再発予防のため補助化学療法が奨められます(「術後補助化学療法」参照)。
癌がすでに大腸から離れた場所(肝臓,肺,腹膜など)に転移しているとステージⅣに分類されます。大腸に存在する癌を原発巣,転移している癌を転移巣といいます。
大腸癌の血行性転移には,肝転移,肺転移,脳転移,その他の臓器への転移(骨,副腎,皮膚,脾など)があります。
肝転移や肺転移は,すべてを切除することにより癌が治ることがあります。
肝転移の治療には,手術治療,全身薬物療法,熱凝固療法があります。
手術治療(肝切除術)
熱凝固療法
全身薬物療法
肺転移の治療には,手術治療と薬物療法があります。
手術治療(肺切除術)
全身薬物療法
脳転移の治療には,手術治療と放射線治療があります。
手術治療は,切除により重大な神経障害が残らない場合に行われます。
放射線治療には,定位放射線照射,全脳照射があります(「放射線治療」参照)。
大腸癌が肝臓や肺などのうち1つの臓器に再発し,手術で切除できるようであれば手術治療が奨められます。
転移が2つの臓器であっても手術治療をすることがあります。
再発により腸閉塞になっている場合,バイパス手術や人工肛門を造ることによって食事ができるようになることがあります。
局所再発の治療
大腸癌の薬物療法ではさまざまな抗がん剤が使われます(表3~表5)。抗がん剤は殺細胞性抗がん薬と分子標的薬に大きく分かれます。分子標的薬には,特定の遺伝子の異常が確認された患者さんにのみ効果が期待できるものがあります。また,実際の治療は,しばしばいくつかの抗がん剤を組み合わせて使われます(Q12–1参照)。
手術で癌をすべて切除したと判断しても,一定の頻度で再発が起こります(「再発した大腸癌の治療」参照)。再発を抑える目的で手術後に追加で行う抗がん剤治療を「補助化学療法」といいます。
表6のうちいずれかを6か月間行うのが一般的ですが,CAPOXを選択する場合に,病理学的ステージによっては治療の期間を3か月とすることもあります。
手術で癌をすべて取り切れない場合,次のような条件の人には薬物療法による治療を考えます。
薬物療法で癌が完治することはほとんど期待できませんが,癌を縮小させて癌による症状を和らげたり生存期間を延ばす効果があることが確認されています。
切除不能進行・再発大腸癌に対する薬物療法には,お薬の組み合わせによって様々な選択肢があり,身体の状況,癌の状態,期待される効果,想定される副作用などを考慮して決定します。
癌が明らかに大きくなっていない,また,強い副作用がない場合には,原則的に同じ薬物療法を継続します。
副作用が強い時には,治療をいったん休むことが必要です。効果があって,その後同じ治療を再開する場合には,お薬を減量して再開します。
癌が明らかに大きくなった場合は別の薬物療法に切り替えるか,薬物療法を中止します。普段の生活が長く継続できることが治療目標のひとつですので,決して無理をしないことが大切です。
直腸癌手術の補助療法として,骨盤内の再発予防や手術前に癌を小さくして肛門を温存する目的で行われています。
照射時期は,手術前照射,手術中照射,手術後照射の3種類があり,抗がん剤の治療と一緒に行うこともあります。また転移がある場合,転移巣への局所治療として行われる場合もあります。
癌による症状を和らげる目的で行います。
骨盤内病巣,骨転移,脳転移,リンパ節転移などに照射します。
痛み,出血,神経症状などの症状が約80%で改善します。
大腸癌を手術で完全に切除しても,一定の割合で再発が起こります。
再発を早い時期に発見すれば,再度の手術で治ることもあります。また,手術ができない場合でも薬物療法や放射線治療により生存期間を延長できることが示されています。
そのために行う定期的な検査をサーベイランスといいます。サーベイランスの期間,間隔と検査法は,ステージや再発が起こりやすい時期と臓器を考慮して決められます。
再発の約85%は手術後3年以内に,95%以上は5年以内に見つかります。
再発の多い部位は,肝臓,肺,局所(癌があった場所の周辺で,直腸癌で多い),リンパ節,腹膜で,吻合部に発生することもあります。
Tis癌(ステージ0),リンパ節転移のないT1癌にはサーベイランスはほとんど必要ありません。リンパ節転移のないT2癌,ステージⅡ,ステージⅢでは,手術後3年間は3か月ごとに1度の検査,手術後4年目から5年目までは6か月に1度の検査を行うことが推奨されます。
検査する部位は,肝臓と肺が主で,直腸癌の場合は骨盤内も検査します。
検査には,問診・診察,採血による腫瘍マーカー(CEA,CA19-9)測定,CTがあります。これらで異常が発見された場合には,MRIやPETを行うこともあります。
吻合部の再発の検査には,大腸内視鏡検査を行います。
大腸癌にかかった人は,他の癌にもかかりやすくなっています。大腸癌のサーベイランスは,大腸癌の再発の検査を目的としたものですので,他の癌の検査としては不十分です。大腸癌術後のサーベイランスを受けていても,通常の癌検診は受けてください。
緩和医療・ケアとは患者さんの生活の質(QOL:Quality of Life,クオリティ・オブ・ライフ)を良くする,もしくは現状より悪くしないためのケアのことです。手術治療や薬物療法を行う場合には,痛みなどの症状が緩和された状態で行うために早い段階から緩和医療が行われます。
大腸癌に関係する代表的な緩和医療には以下のものが含まれます。
がんの症状緩和の中心となるものが痛みの管理です。現在は,モルヒネなどを十分に使用することで,多くの患者さんが痛みから解放されています。
モルヒネは痛みを止める効果が非常に強く,現在最も効果的な鎮痛薬です。モルヒネは「麻薬」に分類されますが,中毒を起こしたり,精神に異常をきたしたりすることはほとんどなく,安心して用いられる薬です。
痛みの原因によっては神経ブロックや,放射線治療(骨盤内再発や骨への転移の痛みなどに対して照射する)が用いられることもあります。その他,脳転移に対しても放射線治療を行うことがあります。
緩和医療として,手術治療が行われることもあります。たとえば,再発により腸閉塞になった場合,閉塞した場所を迂回するように腸をつなぎ合わせ,お腹の痛みを取り食事を可能にする手術が行われます(バイパス手術)。人工肛門の造設が必要(Q9–1参照)となることもありますが,現在では人工肛門の管理は進歩しており,QOL(「緩和医療」参照)の向上に大きく貢献しています。
その他に,尿管という尿の通り道に癌が浸潤して尿管が狭くなった場合には管を入れて広げたり(尿管ステント留置術),腎臓に管を入れて尿を出す処置(腎瘻造設術)が行われることがあります。
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