大腸は1.5~2mほどの長さの臓器で,結腸と直腸に分けられます。
大腸は小腸に続いて,右下腹部から始まり,右上腹部→左上腹部→左下腹部へ至り,肛門へつながります。
結腸は盲腸,上行結腸,横行結腸,下行結腸,S状結腸に分けられます。
直腸は直腸S状部,上部直腸,下部直腸に分けられます。
なお,虫垂と肛門管は大腸とは区別して取り扱われます。虫垂と肛門管に発生した癌のなかには,大腸癌とは生物学的な性格が異なるために,大腸癌の治療方針が当てはまらないものがあります。
右側の大腸(盲腸,上行結腸,横行結腸)は上腸間膜動脈,左側の大腸(下行結腸,S状結腸,直腸S状部,直腸)は下腸間膜動脈から分かれた動脈から血液の供給を受けています。
リンパ管の中にはリンパ液が流れています。
リンパ液は,血管の外へ染み出した血液中の血漿という成分やたんぱく質が,全身にはりめぐらされた毛細リンパ管に再吸収されたものです。
リンパ液は古くなった細胞や不要となった物質をリンパ管を通して運びます。
リンパ液の中のリンパ球は,からだに侵入したウィルスや細菌などに対抗する働きがあります。
大腸から出るリンパ管は,大腸の近くの動脈に沿って存在しており,中継地点としていくつものリンパ節を伴っています(Q4-1参照)。
癌のある腸管の近くのリンパ節を腸管傍リンパ節,動脈に沿ったリンパ節を中間リンパ節,動脈の起始部にあるリンパ節を主リンパ節といいます。
これらのリンパ節は,手術の際にリンパ節の郭清(「手術治療」,Q4-2参照)を行うための指標となります。
大腸は,胃や小腸などと同様に,交感神経と副交感神経によりその働きが調整されています。
特に,肛門に近い直腸の周囲には,交感神経と副交感神経が密にネットワークを形成した領域(骨盤内神経叢)があり,直腸だけでなく膀胱,前立腺などの働きも調整しています。手術の際に神経を切除すると排尿障害や性機能障害を起こすことがあります(Q5-2参照)。
大腸の壁は内側から順に,粘膜,粘膜下層,固有筋層,漿膜下層,漿膜の5つの層で構成されています。
大腸は,回腸から流入した液状の便から,水分,脂肪酸の一部,ナトリウムなどを吸収し,固形の便にして肛門に運びます。
大腸に発生した腫瘍(細胞が異常に増えて塊になった状態のもの)で,周囲の組織に浸潤や転移(「大腸癌の広がり方」参照)を起こすものが大腸癌です。大腸癌は悪性腫瘍であり,浸潤や転移を起こす能力のない腺腫などの良性腫瘍とは区別されます。
大腸癌が発生するしくみには2つの経路があると考えられています。一つは腺腫という良性のポリープが悪性化して発生する場合(腺腫–癌連関),もう一つは正常粘膜から直接癌が発生する場合(デノボ癌)で,多くは前者の経路と考えられています。上記の経路には,多くの遺伝子の異常(変異)が関与しており(多段階発癌),発癌を促進する癌遺伝子や,発癌を抑制している癌抑制遺伝子の異常により癌は発生します。腺腫—癌連関においては癌抑制遺伝子であるAPC 遺伝子に異常が起こることにより腺腫が発生し,そこに癌遺伝子であるK-ras 遺伝子や癌抑制遺伝子であるp53 遺伝子の異常が加わり癌化していくと考えられています。デノボ癌の遺伝子異常の詳細は明らかとはなっていません。癌細胞は分裂を繰り返し,何十億から何百億にまで増えると目に見える大きさになります。
全大腸癌の患者さんの約70%は上記のように遺伝子異常(変異)が重なって発生すると考えられ,これを散発性大腸癌といいます。一方で,生まれながらに持っている遺伝子の異常が原因で大腸癌が発生することがあり,これを遺伝性大腸癌といいます。大腸癌全体の約5%と頻度は低いですが,血縁者に大腸癌が多く発生します。残りの約20~30%の患者さんでは,明らかな原因は不明ですが何らかの遺伝的素因の関与が推察され,血縁者にしばしば大腸癌を認めることから家族集積性大腸癌と呼ばれます。
原因遺伝子が判明している代表的な遺伝性大腸癌には,リンチ症候群と家族性大腸腺腫症(FAP)があります。原因遺伝子によって,大腸癌発症のリスク,合併する腫瘍の種類や頻度は異なりますが,この2つの疾患はいずれも「常染色体優性遺伝」といって,親から子へ50%の確率で原因となる遺伝子の異常が受け継がれます。この生まれながらに受け継いだ遺伝子の異常に,のちに何らかの別の遺伝子異常が加わることで癌化すると考えられています。
リンチ症候群
家族性大腸腺腫症(FAP)
大腸癌は見た目の形(肉眼形態)により,0型~5型に分類されています。
0 型は,さらに以下のように細分類されています。
日本人の死因の第1位は悪性新生物(癌)であり,一生のうちに癌と診断される確率は2人に1人,癌で亡くなる確率は4~6人に1人といわれています。
国立がん研究センターの全国がん登録データによると,2019年に癌で亡くなった人の数は約37万6千人と報告されており,癌の種類別にみると,大腸癌の死亡数は女性では第1位,男性では肺癌,胃癌に次いで第3位,男女を合わせると第2位となっています。過去との比較では,1969年には男性4,083人,女性4,201人でしたが,2019年には男性27,416人,女性24,004人と,半世紀で約6倍になっています(図7)。この理由としては,食生活の欧米化や運動量の減少などが関係していると考えられています。
また,2018年に新たに診断された癌患者さんの数(罹患数)は約98万人と非常に多く,癌の種類別にみると,大腸癌の罹患数は女性では乳癌に次いで第2位(65,840人),男性では前立腺癌,胃癌に次いで第3位(86,414人),総数では胃癌,肺癌をおさえ,第1位となっています。年齢別の罹患率では40歳を超えたあたりから上昇し,中高年に多く認められています。
医療の進歩にも関わらず,死亡数,罹患数とも増え続けているのはなぜでしょう?その理由の一つは高齢化社会です。癌は年齢があがるほど発症しやすいため,高齢化社会である日本ではその影響を強く受けていることが考えられます。つまり高齢者が増えれば大腸癌で亡くなる方も,大腸癌になる方も増えるということです。そこで,高齢化の影響を除く“年齢調整”を行った統計で見てみると,大腸癌の死亡率は男女とも減少傾向にあり,罹患率は男性で横ばい,女性でゆるやかな増加にとどまっているとの報告もあります(図8)。まだまだ大腸癌の治療成績は満足できるものではありませんが,がん検診の普及,内視鏡技術の進歩,手術技術の向上,薬物療法の開発など,さまざまな取り組みが良好な結果に結びつくことが期待されます。
大腸癌は大腸の粘膜に発生した後,大腸で増殖して大きくなるとともに,転移により全身に広がっていきます。
転移とは,最初に癌が発生したところから離れた場所に飛び火して増殖することです。最初に癌が発生したところを原発巣,飛び火したところを転移巣といいます。
大腸癌の広がり方には,浸潤,リンパ行性転移,血行性転移,腹膜播種があります。
大腸癌は腸の一番内側の粘膜にできて,腸の壁を破壊しながらだんだん大きくなり,最後に腸の壁を突き破って周囲の臓器に広がっていきます。このような癌の広がり方を浸潤といいます。
リンパ管は,血管のようにからだ中に張り巡らされています。
リンパ管は途中にリンパ節という節目があり,そこからさらに枝分かれしていきます。このように,リンパ管とリンパ節は,線路と駅の関係に似ています。
リンパ管に侵入した癌細胞は,途中のリンパ節に流れ着いて増殖します。これをリンパ行性転移といいます。癌細胞は次のリンパ節に流れていき,次第に遠く離れたリンパ節にも転移していきます。
リンパ節転移の仕方には,一定の規則性があり,リンパ液の流れに沿って,近くから遠くのリンパ節に広がっていきます。
癌細胞が腸の細い静脈に侵入し,大腸から離れた臓器に流れついて,そこで増殖することを血行性転移といいます。
大腸からの血流は,まず肝臓に集まることから,大腸癌で最も血行性転移の頻度が高いのが肝臓です。次に頻度が高いのは肺転移です。癌が進行すると,骨や脳などの全身の臓器に血行性転移を起こすこともあります。
“播種”という文字が表すように,種が播かれるように癌が転移することです。
増大した癌は腸の壁を突き破って,腸管を覆う腹膜に顔を出します。
そこから腹腔内に散らばった癌細胞は,芽を出すように大きくなります。
進行すると,腹膜播種がお腹の中全体に広がり,腹水,発熱,嘔吐などの症状がみられる癌性腹膜炎となります。
癌の広がり具合(進行度)をステージ(病期)で表します。
ステージは,癌が大腸の壁に入り込んだ深さ(深達度),どのリンパ節までいくつの転移があるか(リンパ節転移の程度),肝臓や肺など大腸以外の臓器や腹膜への転移(遠隔転移)の有無によって決まります(表1)。
ステージ0が最も進行度が低く,ステージIVが最も進行度が高い状態です。
治療方針を立てる上で,治療前にステージを正確に予測することが重要です。
ステージ分類には,治療前にCTなどの画像診断で予測する臨床分類ステージと,切除された大腸などの組織を顕微鏡で調べた結果をあわせて判断する病理分類ステージがあります。手術前に補助療法が施行された場合などには,治療前後でステージがかわることもあります。一般に,病理分類ステージが最終的なステージとして,術後補助療法導入の指標などに用いられます(Q2参照)。
早期大腸癌では,ほとんど症状はありません。
進行すると,下血,血便,便秘・下痢,便が細くなる,貧血,腫瘤(しこり),腹痛,腸閉塞などの症状が現れます(図11)。
これらの症状は癌の部位によって差があります。
右側の大腸癌は大きくなるまで症状がでにくく,腫瘤(しこり)として見つかることが多く,慢性的な出血による貧血も見られます。一方,左側の大腸癌は出血(下血,粘血便),便秘・下痢,便が細くなるなどの症状をきっかけに診断されることが多いのが特徴です。
症状がない人から大腸癌の可能性のある人をひろい上げる方法。
● 便潜血検査
便の中に混じった血液を検出する検査法です。大腸癌に対する集団検診(対策型検診)として行われています。便潜血検査で陽性であれば,大腸内視鏡検査や注腸造影検査を行い,病気の有無を調べます。
「有効性評価に基づく大腸がん検診ガイドライン(2005年版)」において死亡率減少効果を示す十分な証拠があることから,大腸がん検診として,便潜血検査(とりわけ免疫法)が強く推奨されています。全大腸内視鏡検査(およびS状結腸内視鏡検査,S状結腸内視鏡検査と便潜血検査の併用法,注腸X線検査)には死亡率減少効果を示す根拠はあるものの,苦痛や合併症が起こりえますので任意型検診(人間ドックなど)として実施されています。
● 直腸指診
肛門から直腸内に指を挿入し,直腸内の腫瘍(良性ポリープや癌)を検索します。
直腸指診で直腸癌が見つかることも少なくありません。
● 注腸造影検査
肛門からX線に写る液体(バリウムなど)を空気とともに流し込んで大腸の壁に付着させて,大腸の形の変化から病変を診断する方法です。あらかじめ下剤を使って大腸を空にします。
癌の位置や大きさを評価したり,周囲の臓器との位置関係を把握します。
● 大腸内視鏡検査
内視鏡を肛門から挿入し,全大腸を内側から観察します。あらかじめ下剤を使って大腸を空にします。
良性ポリープ(腺腫)や癌を直接観察することができます。良性ポリープ(腺腫)や早期癌を切除することもできます。
最近では,波長の違う光を当てたり(NBI:Narrow Band Imaging,狭帯域光観察),色素をかけて病変の表面の細かい模様や血管の形を観察することで(クリスタルバイオレットを用いたピットパターン診断),良性・悪性の診断や,癌の深さの診断の参考になる情報を得ることもできるようになりました。
● 胸部腹部CT:computed tomography
X線を使って身体の断面を撮影する検査です。大腸癌と周囲の臓器との位置関係,リンパ節転移や腹膜播種の有無を調べます。また,大腸癌は血行性転移が起こりやすいので,肺転移・肝転移の有無を調べます。
● 腹部超音波検査
大腸癌と周囲の臓器との位置関係,肝転移やリンパ節転移,腹膜播種の有無を調べます。
● MRI:magnetic resonance imaging
MRI検査は,強い磁場が発生するトンネル状の装置の中に入り,磁石と電波を使って検査を行います。大腸癌と周囲の臓器との位置関係,特に直腸癌の周囲への広がりや肝転移を詳細に調べることに適しています。
大腸内視鏡は本来,大腸の中を観察して病気を発見するための機器です。
内視鏡を使って大腸の良性ポリープや癌を切除する治療を内視鏡治療といいます。
内視鏡で癌を切除する代表的な方法には,ポリペクトミー,内視鏡的粘膜切除術(EMR:endoscopic mucosal resection)および内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD:endoscopic submucosal dissection)があります。腫瘍(良性ポリープや癌)の形と大きさに応じて使い分けます。
● ポリペクトミー
きのこ型の茎をもったポリープに対して用いる方法です。
ポリープの茎にスネアという金属製の輪をかけて,高周波電流を流して茎を焼き切ります。
● 内視鏡的粘膜切除術(EMR)
茎をもたない平たい腫瘍に対して用います。
粘膜下層に生理食塩水などを注射して腫瘍を固有筋層から持ち上げてから,ポリペクトミーと同じようにスネアを使って腫瘍を切り取ります。
● 内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)
一括切除が困難な大きな早期癌に対して用います。現在は,最大径2cm以上の早期大腸癌,2cm以下で線維化を伴う早期大腸癌が保険適用の対象です。
粘膜下層に特殊な液を注射して腫瘍を固有筋層から持ち上げてから,電気メスを使って粘膜下層を剝離していき腫瘍を切り取ります。
● 内視鏡治療の適応
リンパ節転移の可能性がほとんどない粘膜内癌(Tis癌)と粘膜下層浸潤癌(T1癌)のうち浸潤程度が軽いものが内視鏡治療の適応で,大きさは問いません。
ただし,大きさが2cm以上の病変では,内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)を行う場合もあります。
切除した癌の病理検査の結果によっては,手術による切除が必要となる場合があります。
● 内視鏡治療の合併症
内視鏡治療の大きな合併症として,出血と穿孔(大腸に穴が開く)があります。
手術治療では,とり残しのないように,癌が広がっている可能性のある腸管とリンパ節を切除します。
リンパ節を切除する範囲(リンパ節郭清)は,癌の部位と手術前に予測した癌の進行度を考慮して決定します。
癌の浸潤が周囲臓器にまでおよんでいる場合は可能であればその臓器も一緒に切除します。
腸管を切除した後,残った腸管をつなぎあわせます(つなぎあわせることを「吻合」といいます)。
直腸癌が肛門近くにあって,肛門括約筋を切除する必要がある場合は人工肛門が必要です(肛門括約筋は排便機能を保つのに必要です)。
● リンパ節郭清(D1,D2,D3郭清)
癌は近くのリンパ節から順に遠くへ転移していきます。リンパ節郭清は以下の3種類に区分されます。
D1郭清
D2郭清
D3郭清
● 結腸癌の手術
癌から10cmほど離れた部位で腸管を切ります。
腸管を切除した後,腸管を吻合します。
手術名には以下のようなものがあります。
● 直腸癌の手術
直腸局所切除術
高位前方切除術・低位前方切除術
直腸切断術
直腸の近くには膀胱の機能や性機能の働きを調整する神経があり,これらの神経を残す手術が行われます(自律神経温存術)。
癌が,膀胱や子宮,膣,前立腺に浸潤している場合,可能であればそれらの臓器を一緒に切除します(合併切除)。
特殊な肛門温存手術 ISR(括約筋間直腸切除術)
肛門の筋肉の一部を切除して根治性を保ちつつ,肛門を温存する手術です。直腸癌とともに内肛門括約筋を切除して肛門を温存します。この手術の問題点は,再発が増えないか,排便障害により日常生活が脅かされないか,という点です。大腸癌研究会ではデータを集積,解析して,ともに現時点で大きな問題はないことがわかってきましたが,失禁の増加など排便の様子は手術前と大きく変わります。この手術には高度な技術が必要であり,主治医の先生とよく相談して手術の方法を決定する必要があります。
● 腹腔鏡下手術
炭酸ガスで腹部をふくらませ(気腹操作),おなかの中を見る内視鏡(腹腔鏡)で観察しながら,数カ所の小さな創から器具(鉗子)を入れて手術を行う方法です。1990年頃からこの方法で大腸の手術が行われはじめ,創が小さく体の負担が少ないために急速に普及してきました。開腹手術とは異なった技術が必要なので,主治医との相談が必要です。現在まで,結腸癌については多くの臨床試験で腹腔鏡下手術の安全性が検証されましたが,直腸癌については海外で試験中の状況です。
通常の開腹手術とは異なる点
腹腔鏡下手術で行えるかどうかは,癌の進行状況や体格,以前に行った手術や治療中の病気などで異なるので,主治医と十分相談の上で決定する必要があります。
● 手術操作に直接関係して発生する合併症(Q7参照)
出血
縫合不全
吻合部狭窄
腸閉塞
創感染・腹腔内膿瘍
腹壁瘢痕ヘルニア
● 手術操作とは直接関係なく発生する合併症
肺炎
肺塞栓症
その他の血栓症
せん妄
下肢コンパートメント症候群
その他
● 手術治療の後遺症
排尿障害
性機能障害(特に男性)
排便障害
抗がん剤は,癌細胞を死滅させたり,癌が大きくなるのを抑える作用をもっています。
抗がん剤を用いる治療を薬物療法(化学療法,抗がん剤療法)と言います。使用する薬によって注射(点滴)する方法や飲む(内服する)方法が用いられます。
● 薬物療法の目的
大腸癌に薬物療法を行う目的は2つあります。
1つは手術後の再発を予防することで,補助化学療法といいます(Q13参照)。
もう1つは手術では癌が取りきれない場合に大きくなるのを抑えたり,癌による痛みなどの症状を緩和したりすることです。
● 薬物療法の副作用
抗がん剤は癌細胞だけでなく,正常の細胞にも少なからず障害を与えます。
このため,抗がん剤による副作用がでてきます。
副作用は,患者さん自身が身体で感じるものと血液検査や診察でしかわからないものとがあります(表2)。
副作用の種類や程度は,抗がん剤の種類により異なり,個人差もあります。
副作用を予防する薬も開発されており,特に吐き気・嘔吐や便通異常はコントロールができるようになってきました。
薬物療法を受ける場合は,どのような副作用(種類や時期,期間など)がでるのか,担当医からよく説明を受けてください。
治療中の患者さんの状態は治療を継続していく上で大変重要です。担当医に気になる点を遠慮せずに話してください。
抗がん剤の副作用の多くは,治療を中止すると数日から数週間の間に回復することが多いです。しかし,オキサリプラチンによる感覚性の末梢神経障害(しびれ,指先や足底の違和感など)や,免疫チェックポイント阻害薬によるホルモン異常などは治療を止めても,数か月から数年以上残ることもあります。
● 薬物療法の効果判定
「抗がん剤が効いた」とは,癌の大きさがある程度小さくなったことを指します。癌が完治したことを意味するのではありません。
抗がん剤が効いたか効かないかは,2~4か月ごとにCT,MRI,内視鏡などの検査で癌の大きさを測り,治療の前後で比較して判断します。
また,1~3か月ごとに血液検査により腫瘍マーカー(CEA,CA19-9など)の変動を観察して,薬物療法の効果判定に用いることもあります。ただし,腫瘍マーカーの変化が必ずしもがんの大きさの変化を反映する訳ではないことに注意が必要です。
放射線とは,目に見えない小さな粒子が非常に大きなエネルギーを持って飛び出す状態,あるいはX線などの電磁波が広がる状態のことをいいます。
放射線治療は,癌細胞のDNAを傷つけて細胞分裂を止める作用により腫瘍を縮小させる治療で,体の外から放射線を照射する外照射と,放射線を出す小さな線源を病巣付近に入れて体の中から照射する内部照射があります。また,従来のX線や電子線を用いた治療に加えて,保険診療の適用外ですが陽子線や重粒子線を用いた治療も行われています。
放射線治療は,手術治療と同様に,局所治療(治療を行った部分だけに直接的に効果を示す治療)に位置付けられます。
脳や骨盤内に広く照射する方法(全脳照射,骨盤内照射)以外に,CT,MRI,PETなどの画像をもとに癌の大きさや形,部位を特定し,限られた部位に放射線を照射する方法があります。
● 放射線療法の副作用
● 緩和医療とは
生命をおびやかす病気に伴うからだのつらさ,気持ちのつらさ,生きている意味や価値についての疑問,治療を受ける場所や医療費のことなど,患者さんやその家族が直面するさまざまな問題に対し援助する医療のことをいいます。
緩和ケアともいわれます。
従来,緩和医療は「看取りの医療」ととられがちでしたが,2002年,世界保健機関(WHO)は緩和医療を「生命をおびやかす疾患に伴う問題に直面する患者さんとその家族に対し,痛みや身体的,心理社会的,スピリチュアル(霊的)な問題を早期から正確に評価し解決することにより,苦痛の予防と軽減を図り,クオリティ・オブ・ライフ(QOL:quality of life,生活の質)を向上させていく手段である」と新たに定義しました。
緩和医療の目的は,がんによって起こるさまざまな苦痛を緩和することにあります。苦痛とは「痛み」に代表される身体的苦痛にとどまらず,社会的苦痛,精神的苦痛,霊的苦痛などが含まれ,これらをまとめて全人的苦痛(トータルペイン)といいます。
全人的苦痛を緩和するためには終末期だけでなく,それ以前の早い時期の患者さんに対してもがんの治療が始まると同時に行うこと,患者さんと死別した後も家族の苦悩に対する配慮が大切であるとされています。
2006年「がん対策基本法」が成立し,癌緩和医療の普及が国策として取り入れられるようになりました。2007年6月には,がん対策基本法に基づく「がん対策推進基本計画」が閣議決定されました。その主な目標は,国民が安心して,質の高い癌緩和医療を受けられることです。
緩和医療は,さまざまな職種の専門スタッフが,患者さんの視点を配慮し,患者さん一人一人にあった医療を進める「チーム医療」です。
さらに患者さんの療養を継続して支援するためには,在宅・介護・病院などの役割分担と地域連携が必要であり,実施可能な地域がん緩和医療連携モデルの構築を目指した研究も進んでいます。