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大腸癌治療ガイドライン医師用2024年版の「切除不能進行・再発大腸癌に対する薬物療法」に追記すべきエビデンス~BRAF遺伝子変異を有する大腸癌の一次治療におけるエンコラフェニブ+セツキシマブ+mFOLFOX6併用療法(2025年12月)

このたび、大腸癌治療ガイドライン医師用2024年版の「切除不能進行・再発大腸癌に対する薬物療法」に追記すべき薬剤が承認されましたので、その臨床試験の結果に基づき、下記の情報提供を行います。
なお、「切除不能進行・再発大腸癌に対する薬物療法のアルゴリズム」中における位置づけ等の詳細については、次回のガイドライン改訂の際にガイドライン内で解説する予定です。

BRAF V600E変異陽性の切除不能進行・再発大腸癌に対する一次治療としてのエンコラフェニブ+セツキシマブ+mFOLFOX6併用療法の有効性を検証する国際共同第III相試験(BREAKWATER試験)

論文名 Encorafenib, Cetuximab, and mFOLFOX6 in BRAF-Mutated Colorectal Cancer.
掲載雑誌名 N Engl J Med 2025; 392: 2425-2437
著者名 Elez E, et al.
試験のスポンサー名 Pfizer
試験デザイン・本論文における結果の要約
試験デザイン

BREAKWATER試験は、前治療歴がないBRAF V600E遺伝子変異を有する切除不能進行・再発大腸癌患者を対象に、エンコラフェニブ+セツキシマブ(EC)併用療法、およびエンコラフェニブ+セツキシマブ+mFOLFOX6(EC+mFOLFOX6)併用療法を評価した国際共同第Ⅲ相試験である1,2。主な適格基準は、各施設(または中央判定)でBRAF V600E遺伝子変異が確認できた切除不能進行・再発大腸癌、測定可能病変あり、であり、MSI-High/dMMRやRAS変異例は除外された。患者は、エンコラフェニブ(300mg、1日1回経口投与)とセツキシマブ(500mg/m2、2週毎)の併用群(EC群;158例を無作為化後に中止)、EC+mFOLFOX6群、標準化学療法(ベバシズマブの併用もしくは非併用のmFOLFOX6、FOLFOXIRIまたはCAPOX投与)群に1:1:1の比率でランダム化された。層別因子はECOG PS(0/1)、地域(米国・カナダ/欧州/その他)であった。主要評価項目は、独立中央判定による奏効割合(ORR)および無増悪生存期間(PFS)であり、EC+mFOLFOX6群と標準化学療法群が比較された。主要な副次評価項目は、全生存期間(OS)であった。

結果の要約

2021年11月から2023年12月までの間に、EC群158例、EC+mFOLFOX6群236例、標準化学療法群243例が割り付けられた。2023年12月22日のデータカットオフ時点で、独立中央判定によるORRは、EC+mFOLFOX6群60.9%であり、標準化学療法群40.0%に比べて有意に良好であった(オッズ比 2.44、P<0.001)。また、2025年1月6日のデータカットオフ時点で、独立中央判定によるPFS中央値は、EC+mFOLFOX6群12.8カ月であり、標準化学療法群7.1カ月に比べて有意に良好であった(ハザード比 0.53; 95% CI 0.41-0.68, P<0.001)。副次評価項目のOS中央値は、EC+mFOLFOX6群30.3カ月であり、標準化学療法群15.1カ月に比べて有意に良好であった(ハザード比 0.49; 95% CI 0.38-0.63, P<0.001)。プロトコール治療を中止した患者のうち、後治療を受けた患者の割合はEC+mFOLFOX6群63.9%(108例/169例)、標準化学療法群61.2%(139例/227例)であり、標準化学療法群では71.9%の症例が後治療としてBRAF阻害薬が投与されていた。有害事象は各々100%、99.1%(Grade 3-4:81.5%、66.8%)、重篤な有害事象は46.1%、38.9%に認められ、投与中止に至った有害事象は各々26.7%、17.5%であった。

本論文における結語

EC+mFOLFOX6併用療法は、前治療歴のないBRAF V600E遺伝子変異を有する切除不能進行・再発大腸癌患者において、標準化学療法と比較してPFSおよびOSを有意に延長した。


上記の臨床試験結果に基づき、本邦において2025年11月にエンコラフェニブ(商品名:ビラフトビ)はセツキシマブ及び他の抗悪性腫瘍剤との併用について、「BRAF遺伝子変異を有する治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸癌」に対する「効能又は効果」の追加が承認された。変更後は以下の通りである。

エンコラフェニブ
【効能又は効果】

がん化学療法後に増悪したBRAF遺伝子変異を有する治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸癌

【用法及び用量】

セツキシマブ(遺伝子組換え)との併用、又はビニメチニブ及びセツキシマブ
セツキシマブ(遺伝子組換え)及び他の抗悪性腫瘍剤との併用、又はセツキシマブ(遺伝子組換え)との併用において、通常、成人にはエンコラフェニブとして300mgを1日1回経口投与する。なお、患者の状態により適宜減量する。

【用法及び用量に関連する注意(抜粋)】
  • 併用する全ての抗悪性腫瘍剤を休薬又は中止した場合には、本剤をそれぞれ休薬又は中止すること。
  • 併用する他の抗悪性腫瘍剤は、「17.臨床成績」の項の内容を熟知し、選択すること。
  • 化学療法歴のない患者に対するセツキシマブ(遺伝子組換え)、フルオロウラシル及びオキサリプラチンとの併用以外での有効性及び安全性は確立していない。
  • がん化学療法後に増悪した患者に対して本剤を投与する場合には、関連学会の最新のガイドライン等を参考にした上で、患者の状態に応じて、ビニメチニブの併用の必要性を判断すること。

また、BRAF遺伝子変異を有する治癒切除不能進行・再発大腸癌に対するエンコラフェニブのコンパニオン診断薬等として、「MEBGEN RASKET-Bキット」、「therascreen BRAF V600E変異検出キットRGQ(キアゲン)」、「Idylla RAS-BRAF Mutation Test(ニチレイバイオ)」、「Guardant360 CDx がん遺伝子パネル」が承認されている。

ガイドライン委員会のコメント

 これまでBRAF V600E遺伝子変異陽性大腸癌に対して使用可能なBRAF阻害薬は、二次治療以降におけるエンコラフェニブ+ビニメチニブ+セツキシマブ療法またはエンコラフェニブ+セツキシマブ療法であった。今回、一次治療として実施されたBREAKWATER試験の結果により、前治療歴のないBRAF V600E遺伝子変異陽性大腸癌に対して、FOLFOX+エンコラフェニブ+セツキシマブ療法が従来の標準治療を上回る有効性を示し、有害事象も許容範囲内であったことから、FOLFOX+エンコラフェニブ+セツキシマブ療法は新たな一次治療の標準治療となると考えられる。

 大腸癌治療ガイドライン医師用2024年版では、「切除不能進行・再発大腸癌に対する薬物療法のアルゴリズム」において、BRAF V600E遺伝子変異陽性例には「上記の一次治療の中から最適と判断されるレジメンを選択する」と記載されている。また、「一次治療の方針を決定する際のプロセス」においては、non MSI-H/dMMRかつBRAF変異型の患者に対して、薬物療法が適応となる(Fit)患者には「Doublet or Triplet+BEV」、薬物療法に問題(制約)がある(Vulnerable)患者には「フッ化ピリミジン+BEV」が推奨されている。BREAKWATER試験の結果を受けて、今後はFit患者に対する一次治療としてFOLFOX+エンコラフェニブ+セツキシマブ療法が最も推奨されるレジメンと考えられる。一方、オキサリプラチンが不適と考えられるVulnerable患者に対する明確なエビデンスはないものの、BREAKWATER試験では、Fit患者に対してエンコラフェニブ+セツキシマブ療法が標準化学療法を上回る有効性が示唆されたことを考慮すれば、Vulnerable患者に対しては、エンコラフェニブ+セツキシマブ療法(±フルオロウラシル[sLV5FU2])が有力な治療選択肢となる。なお、エンコラフェニブ+セツキシマブ療法は、フッ化ピリミジンの使用が困難な患者にも選択可能である。

 一方、CAPOX、SOX、FOLFIRIなど、FOLFOX以外のレジメンを併用することについての有効性・安全性は確立していない。FOLFIRI+エンコラフェニブ+セツキシマブ併用療法については、BREAKWATER試験の別コホート(コホート3)で検討中であり、その結果が待たれる。

 BREAKWATER試験では、術後補助化学療法中または最終投与から6カ月以内の再発例は対象外とされており、これらは二次治療として位置付けられる。このような症例、また、一次治療でエンコラフェニブを使用しなかった場合には、従来どおりエンコラフェニブ+セツキシマブ±ビニメチニブを含む二次治療レジメンの中から、適切な治療を選択することが推奨される。なお、二次治療以降におけるビニメチニブ併用の必要性については、2020年11月発出の「ガイドライン関連の最新情報」等を参考に、患者の状態に応じて判断することが望ましい。

引用文献

  1. Elez E, Yoshino T, Shen L, et al. Encorafenib, Cetuximab, and mFOLFOX6 in BRAF-Mutated Colorectal Cancer. N Engl J Med 2025; 392(24): 2425-2437
  2. Kopetz S, Yoshino T, Van Cutsem E, et al. Encorafenib, cetuximab and chemotherapy in BRAF-mutant colorectal cancer: a randomized phase 3 trial. Nat Med 2025; 31(3): 901-908

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