患者さんのための大腸癌治療ガイドライン 2014年版

※現在書籍として発行されている最新版は「2022年版」です。 >研究会編集図書

Q&A

 大腸癌の予防法

Q1 大腸癌にならない予防法はありますか?

A 日本における大腸癌が増加した理由として食生活の欧米化が指摘されてきましたが,いくつかの調査結果が国立がん研究センターから報告されています。アルコール摂取は少量では影響が少ないものの,1日46 g以上(ビール約900 ml,ワイン約400 ml)で2倍,1日92 g以上で3倍に大腸癌のリスクが増加するとのデータがあります。また,喫煙は男性の直腸癌発生との関連,運動不足は男性の結腸癌や女性の直腸癌発生との関連が示唆されています。そのほか,肥満や脂肪の過剰摂取も危険因子と考えられています。最近では,アスピリンなどの消炎鎮痛剤が大腸癌を予防すると報告されていますが,効果と安全性に関しては検討が行われているところです。
 大腸癌の発生を確実に抑える有効な予防法は,現在のところ確立していません。大腸癌に限らず生活習慣病を予防するためには,バランスのよい食事,適度な運動,規則正しい生活を心がけることが大切だといえます。

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 大腸癌のステージ

Q2 ステージIIIの大腸癌といわれました。ステージとは何ですか?

A 「ステージ」は「病期」ともいい,大腸癌の広がりの程度を表したものです(図9参照)。ステージ分類には日本の大腸癌取扱い規約分類と国際的なTNM分類があります。どちらの分類でも,癌が大腸の壁のどの位の深さまで進んでいるか(壁深達度),リンパ節にどの程度転移しているか(リンパ節転移),肝臓や肺などのほかの臓器に転移しているか(遠隔転移)によりステージ0からステージIVに分けられています。治療前にCTなどの画像診断でステージ(臨床分類ステージ)を予測し,切除された大腸などの組織を顕微鏡で調べた結果をあわせて最終的なステージ(病理分類ステージ)を決定します。大腸癌の治る可能性や,逆に再発する可能性をステージから予測できるため,治療方針の決定に役立ちます。
 ステージIIIは,遠隔転移がなく,癌の周囲にあるリンパ節に転移があることを示しています。この場合,手術後に抗がん剤による補助療法を行うことが奨められています(「ステージI,ステージII,ステージIIIの大腸癌の治療」参照)。

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 大腸癌の内視鏡治療

Q3 早期大腸癌だから内視鏡で切り取ることができるといわれました。お腹を切らなくてもよいのでしょうか?

A 大腸癌は大腸の粘膜(図5参照)から発生し,大腸壁の深い方へと浸潤していきます(図8参照)。早期大腸癌とは,癌の浸潤が粘膜下層までにとどまっている癌で,粘膜内癌(Tis癌)と粘膜下層癌(T1癌)に分けられます(図9参照)。Tis癌は転移しないので,内視鏡により癌が完全に取り切れれば,治療は完了です。一方,T1癌の場合は,遠くの臓器に転移する頻度は少ないものの,リンパ節に転移している可能性が10%前後あります。
 癌の存在する部位,大きさ,浸潤の深さなどを総合的に評価して,癌病巣を安全かつ完全に切除することができると判断される早期大腸癌が内視鏡治療の対象となります。内視鏡で切除された癌は,顕微鏡を用いた詳細な検査(病理検査)に提出されます。この検査により癌がすべて取り切れたかどうかを調べるとともに,Tis癌かT1癌かが判定され,T1癌の場合は,リンパ節転移の危険性が評価されます。Tis癌や転移の危険性が低いT1癌と判断された場合は,内視鏡治療で治療は完了し,転移の危険性が高いT1癌と判断された場合は追加の治療としてリンパ節郭清(図19参照)を伴う腸切除が考慮されます。

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 リンパ節郭清

Q4-1 大腸癌の手術の時,リンパ節も取るといわれました。なぜリンパ節を取るのでしょうか?

A リンパ節は,からだの中にたくさんある小さな(普通は径0.4~1.0 cm)組織で,細菌などのからだにとって不都合な侵入物が体中に広がるのを止める“関所”の役割をしています。首すじやわきの下,足の付け根など,表面に近いリンパ節が腫れると,さわることができます。
 大腸癌が広がるおもな道筋はリンパ管と静脈です(図8参照)。リンパ管に入り込んだ癌細胞は,リンパ管を通って大腸の周りのリンパ節に流れ込みます。多くの癌細胞はからだの攻撃により死滅しますが,生き残った癌細胞が増えるとリンパ節転移が形成され,時間の経過に伴って,より遠くのリンパ節に順次転移が進みます。
 大腸癌がある程度進行すると,近くのリンパ節には癌細胞が潜んでいる可能性が高くなります。そこで,手術では大腸だけでなく,転移の可能性のあるリンパ節も切除します。これをリンパ節郭清といいます。リンパ節郭清の範囲は,大腸癌のステージに応じて決められます(図19参照)。

Q4-2 リンパ節を取っても大丈夫ですか?

A リンパ節はからだ全体に多数分布しています。大腸癌の手術で切除されるリンパ節は,切り取られる大腸の領域から集まってくるリンパ液の関所の役割をしています。手術では大腸癌に関連した領域のリンパ節を取るだけですので,その領域のリンパ節を取ってもからだに悪影響はありません(「手術治療」参照)。

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 大腸癌の外科治療

Q5-1 手術が必要といわれ,大腸を20~30 cm切り取るといわれました。後遺症は大丈夫でしょうか?

A 大腸の手術後の後遺症は,結腸癌と直腸癌で異なります。大腸の長さは1.5~2 mほどあり,結腸を20~30 cm切除しても,大腸のおもな機能である水分の吸収は残った大腸で十分に果たせますので後遺症はほとんどありません(「大腸とは」参照)。これに対し,直腸を切除した場合には,本来直腸に備わっている便をためる能力と便を押し出す能力が損なわれるため,排便の回数が増加したり,残便感が持続するなどの排便機能障害をきたします。一般的にはこのような後遺症は手術直後に強く,半年から2年ほどの年月をかけて徐々に改善しますが,回復の程度には個人差があります。

Q5-2 手術を受けるにあたり,排尿機能と性機能に障害が残る可能性があると説明されました。原因を教えてください。

A 直腸の周囲には神経のネットワーク(骨盤内自律神経)が存在します。この神経は膀胱や尿道などの泌尿器や,前立腺や膣などの生殖器に分布しています。直腸癌が神経ネットワークに浸潤したり,神経の近くに転移リンパ節がある場合,根治手術を行うためには,自律神経のネットワークの一部,または全部を切除する必要性が生じます(「直腸癌の手術」参照)。神経の切除範囲に応じて,程度は異なりますが,尿意が鈍くなり,排尿しても膀胱に残っている尿量(残尿)が多くなります。これを排尿障害といいます。また,男性の場合は射精障害や勃起障害が生じ,女性の場合は膣の湿潤度などに影響し,性交渉に障害が出る場合があります。

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 入院から退院までの経過

Q6 大腸癌手術の入院から退院までの経過はどのようになりますか?

A 手術を行う施設や病状により多少異なりますが,典型的な手術の流れについて説明します。

1)
入院前または入院後:手術前に必要な一般的な検査として心電図や呼吸機能検査,血液検査を行い,手術に十分耐えられるか,検討します。
2)
手術前日は食事を中止し,下剤を飲んでいただき,腸内容をきれいにします。
3)
手術後の当日は,ベッド上で安静となります。
4)
手術翌日:起き上がり,可能なら歩行を行います。状態により水分摂取を開始します。
5)
手術後2~4日:腸の動きに合わせて食事を開始します。
6)
手術後3~7日:おならが出て,排便もあります。
7)
手術後7日以降:食事摂取が可能で,排便も順調であれば,体調により退院が可能となります。手術後10日~2週間で退院するのが一般的です。
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 大腸癌手術の合併症について

Q7 大腸癌の手術後にはいろいろな合併症が起こり得るとの説明を受けました。詳しく教えてください。

A 手術が原因となって生じる別の病気や症状を術後合併症といいます。薬の副作用に相当するもので,最大限の注意を払って治療を行っても一定の頻度で発生します。手術後の合併症には,手術操作と直接関係して発生する外科的合併症と,手術操作とは直接関係なく発生する一般的(全身的)合併症とがあります。
 大腸癌のおもな外科的合併症には,縫合不全,腸閉塞,創感染があり(「手術治療の合併症」参照),他に腹腔内膿瘍(膿の溜まりができること),出血・リンパ漏などがあります。
 一方,生命にかかわる重篤な一般的(全身的)合併症には、肺炎と肺塞栓症があります。特に高齢者の方はもともと呼吸状態がよくない場合があり,手術後の痛みなどで呼吸が十分にできなくなったり,痰をうまく出せなかったりして,肺炎を起こすことがあります。また,痛み止めを使いすぎると誤燕性肺炎を起こすこともあります。肺塞栓症は,手術中に足の静脈の中に生じた血液の塊(血栓)が,血管壁からはがれて心臓を経て肺動脈に詰まることで起こります。太い肺動脈に血栓が詰まると突然死することもあります。長時間手術や足を低くした体位で行われる直腸癌手術では,肺塞栓症が発生する危険性が高まります。
 また,手術中から術後にかけての循環動態の変動により,虚血性心疾患(心筋梗塞・狭心症)や不整脈,脳血管合併症(出血・梗塞)などが発症する可能性があり,これらも生命にかかわる重篤な一般合併症です。麻酔薬の影響,手術前後に投与された薬剤による肝機能障害などが起こることもあります。

〈用語説明〉
誤嚥性肺炎:
誤嚥性肺炎とは,本来気管に入ってはいけない物が気管に入り(誤嚥),そのために生じた肺炎のことです。健康な若い人の場合,異物が気管に入ったりすると,激しく咳込んで,その異物を気管の外に出してしまいます。しかし,高齢者や脳梗塞などにより咳反射が低下している人の場合は,異物を出すことができず,気管から気管支に入ってしまい,肺炎を起こします。異物というと,食物,胃液,はずれた入れ歯などを連想しますが,口腔内の雑菌も,唾液と一緒に少量ずつでも誤嚥すると肺炎になり,術後に問題となるのは,この細菌性誤嚥性肺炎です。

 これらの合併症は,過誤や過失によるものではなく,患者さんの年齢,全身状態,併存する持病(糖尿病,高血圧,心臓疾患,呼吸器疾患,肝臓疾患など)の影響を大きく受け,同じ医師が同じように注意深く手術をしても一定の割合で不可抗力的に発生します。手術に伴う合併症により不幸にして命を落とされる方(手術関連死亡率)は,大腸癌の手術を受ける患者さんの1~2%程度と報告されています。

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 肛門括約筋温存の可否

Q8 直腸癌で永久人工肛門になるといわれました。人工肛門になるかどうかは,どのように決められるのでしょうか?

A 直腸癌の手術は,前方切除術と直腸切断術に大別されます(図22参照,図23参照)。腫瘍が肛門から比較的遠い場所に位置する場合,病変が存在する直腸を切除してS状結腸と残った直腸を吻合します。これが前方切除術です。最近では,かなり肛門に近い直腸癌であっても肛門の機能を残す手術が行われるようになりました(「特殊な肛門温存手術ISR(括約筋間直腸切除術)」参照)。
 一方,肛門の近くには3~4 cmの長さにわたって肛門括約筋という構造があり,肛門から便が漏れる(便失禁といいます)のを防いでいますが,肛門の非常に近くに存在する直腸癌を完全切除するためには,肛門括約筋を一緒に切除しなければならないことがあります。肛門括約筋を広く切除すると,たとえ結腸と残った肛門をつなぎあわせても,手術後には高度の便失禁の状態となり,日常生活が非常に不便となります。このような場合には,吻合を行わず,直腸とともに肛門を一括して切除し,S状結腸で人工肛門を造ります。これが直腸切断術です。
 解剖学的には前方切除を行うことが可能な患者さんでも,縫合不全の発症が危惧される場合には,S状結腸と直腸の吻合を行わないことがあります。また,後遺症である排便機能障害により日常生活が著しく損なわれることが想定される患者さんにも,前方切除は選択されないことがあります。このような場合,体内に残った直腸の端は閉鎖し,S状結腸で人工肛門を造ります。この手術はハルトマン手術と呼ばれ,重度の併存疾患をお持ちの患者さんや高齢者に選択されます。
 すなわち,直腸癌手術で永久人工肛門になるかどうかは,直腸癌と肛門括約筋との距離によって決まりますが,前方切除を行った場合の合併症や後遺症による生命や術後の生活の質への影響も,術式を決定する上で考慮すべき重要な要因となります。手術前に,なぜ人工肛門が必要なのかを担当医から説明してもらうことが大切です。

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 人工肛門について

Q9-1 人工肛門とはどういうものでしょうか?

図34 人工肛門

A 人工肛門とは人工的に造られた肛門(便の出口)のことで,ストーマともいいます。人工肛門という器具があるわけでなく,ご自身の腸の一部をお腹の壁に出して,そこから便が出るようにしたものです。結腸で造る場合と小腸(回腸)で造る場合があります。
 人工肛門には,一時的人工肛門と,永久人工肛門とがあります。一時的人工肛門は,腸を吻合した後に縫合不全を引き起こす危険性が高いと考えられる場合に,予防的に吻合部の上流の腸管に造設されます。また実際に縫合不全が発生した際に,再手術時に造設される場合もあります(Q7縫合不全の項参照)。多くは横行結腸か回腸に造られます。一時的人工肛門は,造設後3~4カ月以降に,縫合不全がないことを確認した後に閉鎖され,本来の肛門から排便できるようになります。
 一方,永久人工肛門のほとんどは直腸癌の手術の際に造設され,おもにS状結腸を用いて左中腹部に造られます。手術後に患者さん自身による人工肛門の管理がしやすいように,場所や形(1~2 cmほど皮膚から突出した形)が工夫されます。永久人工肛門を保有される方は,身体障害者手帳を申請できます。住民票のある市区町村の福祉事務所に「身体障害者診断書・意見書(ぼうこう・直腸機能障害用)」を請求し,医療機関で診断書を作成してもらいます。

Q9-2 人工肛門はどのような管理をするのでしょうか?

A 人工肛門を管理することをストーマケアといいます。ストーマケアは,人工肛門部に袋(パウチといいます)を貼って便を集める方法(自然排便法)が一般的です。パウチには粘着力のある面板という部分があり,中央に円形に穴が開いています。ここを人工肛門にあわせた上で,人工肛門の周りの皮膚に接着させます。自然排便法は,ストーマケアの基本的な方法で,体力のない方にも無理なく行える方法ですが,排便のタイミングを調整することはできません。
 一方,人工肛門から微温湯(ぬるま湯)を入れることにより腸を刺激し,浣腸のように強制的に排便させる,洗腸排便法という方法があります。1日~2日に1度の洗腸で,一定の間は便が出なくなります。排便のタイミングを調整できる点で便利な方法ですが,人工肛門をお持ちのすべての患者さんに適しているわけではありません。洗腸のために1時間程度時間がかかりますので体力を要しますし,多量のお湯を腸の中に注入するため,不適切な方法で行うと腸穿孔などの危険性もありますので,開始にあたっては医療機関で十分に指導を受ける必要があります。

Q9-3 お風呂に入っても大丈夫なのでしょうか? 旅行に行って,温泉に入れるのでしょうか?

A 人工肛門の表面は粘膜でおおわれています。粘膜は皮膚よりもやわらかく出血しやすいので,やさしく取り扱う必要がありますが,お風呂や温泉に入ることに支障はありません。人工肛門の中にお湯が入りこんでも,人工肛門に石鹸がついても問題はありません。パウチをはずして湯ぶねにつかることもできます。入浴中に人工肛門から便が出ることが心配な方は,タオルを折りたたんで人工肛門にあてるか,パウチをつけて入浴します。肌色をして目立たない入浴用の小さなパウチもあります。温泉や銭湯など不特定多数の人が集まる場所では,このような装具を利用するとよいでしょう。洗腸排便法を行っていれば便が出ることがないので,そのままお風呂に入っても問題はありません。

Q9-4 日常生活で困ることがあれば教えてください。

A 人工肛門をつけても,食事に特別な制限はありませんし,適度なスポーツや旅行も可能です。ほとんどの患者さんが手術前の職場や学校に復帰されています。
 人工肛門が自然肛門と違うのは,便の出る場所が腹部になることと,人工肛門には肛門括約筋がなく,排便や排ガスを自分でコントロールすることができないことです。
 パウチと人工肛門周囲の皮膚との接着が十分でないと便が周囲に漏れますし,パウチの接着剤や皮膚についた便で皮膚炎を起こすことがあります。人工肛門の形や皮膚の性状に適したパウチを選択することが大切です。日常生活をする上で問題があると感じた場合は病院で相談してください。「ストーマ外来」を設けて,医師や専門の看護師が人工肛門に関する管理・教育を行っている病院もあります。

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 大腸癌の治療成績

Q10 大腸癌はどの程度まで治るようになりましたか? また,「5年生存率」とは何ですか?

A どの程度の期間に再発がなければ「治った」とみなしてよいかは,癌の種類によって異なります。大腸癌では,根治術から5年後に再発を認めない場合に「癌が治った」と考えるのが一般的です。大腸癌は手術後5年以上経って再発する確率は1%以下だからです。ただし,現代では,たとえ治癒切除不能大腸癌であっても,治療法の進歩により,長期延命が可能となっており,生存期間だけで「治った」と判断できない場合もあります。
 癌治療の現場では「5年生存率」という言葉がよく使われます。「5年生存率」とは,癌の治療開始から5年後に生存している人の割合を示し,治療成績を評価するための大切な指標となります。5年生存率に強く関連するのがステージです(Q2参照)。
 大腸癌研究会の集計(全国登録2000~2004年)によれば,ステージ別の5年生存率は,ステージIでは92%,ステージIIでは85%,ステージIIIでは結腸癌72%,直腸癌63%,ステージIVでは19%でした。

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 大腸癌の再発

Q11-1 癌を全部切り取ったのに,どうして再発が起こるのでしょうか?

A 手術前にはX線検査やCTなどの精密検査を行うのですが,それらの検査でもある程度の大きさがないと映らないため,微小な癌は診断できません。手術で癌を全部取り切ったと判断しても,肉眼的には把握できない癌が体内に残っていることがあります。再発とは,手術後に体内に潜んでいた微小な癌が少しずつ大きくなって目に見えるようになることです。
 再発する割合は大腸癌のステージによって異なります(「再発する割合」参照)。大腸癌研究会の集計によれば,ステージ別の再発率はステージIでは4%,ステージIIでは13%,ステージIIIでは30%でした。

Q11-2 再発は早期に見つければ治るのでしょうか?

A 再発を早く見つけたから治るとは限りません。再発が見つかった時点で多数の病巣が存在したり,切除できない場所に再発することがあるからです。一方,発見が遅れたために切除ができなくなることも少なくありません。そこで,手術で癌が完全に取り切れたとしても,再発の発見のために手術後5年までの間,再発のリスクに応じたスケジュールで検査を行います。

Q11-3 再発した時の治療法はあるのでしょうか?

A 大腸癌が再発する臓器のなかで割合が高いのは,肝臓と肺です。いずれの場合でも,患者さんの体力や術後の機能を勘案し,再発した癌をすべて切除することが可能と判断されれば手術が奨められます(「再発した大腸癌の治療」参照)。
 肝臓に転移した癌の30~40%に手術が行われています。手術ができない場合は,化学療法を行います(「化学療法」参照)。化学療法には,経口抗がん剤のほか,静脈から抗がん剤を注入する方法(全身化学療法)や,肝臓の動脈にカテーテル(管)を留置して抗がん剤を注入する方法(肝動注療法)があります。
 肺に転移した場合でも手術の可否が検討され,手術ができないと判断された場合は,全身化学療法を行います。

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 大腸癌の化学療法

Q12 大腸癌に効く新しい抗がん剤があると聞きました。どのような薬ですか?

A 欧米における大腸癌の化学療法は,1990年代は5-FU(ファイブ・エフ・ユー)とその効果を増強するロイコボリンを組み合わせて投与する方法が主流でしたが,1990年代後半に,イリノテカン(CPT-11:シー・ピー・ティ・イレブン)とオキサリプラチンが登場して以来,5-FUとロイコボリンにイリノテカンを用いるFOLFIRI(フォルフィリ)療法あるいはオキサリプラチンを用いるFOLFOX(フォルフォクス)療法が基本的な治療となっています。これらの化学療法は治療効果が高いのですが,副作用への十分な対応も必要です。イリノテカンのおもな副作用は,食欲不振,重症の下痢や骨髄抑制(白血球の減少)です。オキサリプラチンには,骨髄抑制に加え神経症状(手足のしびれ,のどのしめつけ感など)があります。
 また最近,癌が進展する仕組みを分子レベルで理論的に抑制することで効果を出そうと開発された分子標的薬が使用されるようになりました。まず,2007年から癌組織へ栄養や酸素を供給するための血管が作られないようにすることで癌の増殖を妨げようという考えから開発されたベバシズマブ(アバスチン®)が使用されています。このベバシズマブはいくつかの抗がん剤と一緒に使われることで高い効果を示します。
 その後,別の分子標的薬セツキシマブ(アービタックス®)やパニツムマブ(ベクティビックス®)が承認されました。いずれも癌細胞の分裂に関与するEGFR(上皮細胞増殖因子受容体)を阻害することで抗がん作用を示す薬です。しかしながら,すべての患者さんに効果が得られるものではなく,癌細胞にEGFRがあるかどうかをあらかじめ調べてから投与の適応が判断されます。また,K-ras(ケーラス)遺伝子に異常がある場合にはセツキシマブやパニツムマブの効果はないといわれています。
 また,最近レゴラフェニブ(スチバーガ®)という分子標的薬も使えるようになりました。
 これら分子標的薬も含めて,抗がん剤だけで大腸癌を完全に治すことはできません。重い副作用の危険性もあるので,慎重に治療法を選ぶ必要があります。

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 大腸癌の補助化学療法

Q13 手術で取ったリンパ節に転移が見つかり,抗がん剤治療を奨められました。効果があるのでしょうか? 副作用も心配です。

A 手術後の再発を抑える目的で行う化学療法を補助化学療法といいます。ただし,補助化学療法がすべての大腸癌の再発の予防に効果があると確認されたわけではありません。ステージIIIの結腸癌に対しては,再発を予防し,生存率を高める効果があるとされています。リンパ節に転移があった場合はステージIIIですから,補助化学療法をお奨めします。補助化学療法は,あくまでも予防を目的とし,6カ月間注射する方法か,抗がん剤を飲んでもらう方法が一般的です。

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 切除不能進行・再発大腸癌の化学療法

Q14 肝臓と肺に転移して,抗がん剤治療を奨められました。効くのでしょうか? また,どのような副作用があるのでしょうか?

A 肝臓や肺へ転移した癌もすべてを切除することにより治ることがあります。
 しかしながら,肝臓や肺にいくつもの転移があったり,肝臓や肺以外の臓器にも転移がある場合は,手術をせずに化学療法を考えます。ただし,① 少なくとも歩行可能で自分の身の回りのことを行える,② 肝臓や腎臓の機能がしっかりしている,③ 転移・再発がX線検査やCT,MRIなどで映し出せる,ことが条件とされています。
 化学療法で大腸癌を治すことはできませんが,一部の患者さんで癌を小さくしたり進行を遅らせたりして,その患者さんの生存する期間を延長させる効果があることが示されています。日本で使用できる方法で,治療効果があることが証明されている方法には,5-FU+ロイコボリン,5-FU+ロイコボリン+オキサリプラチン,5-FU+ロイコボリン+イリノテカンなどがあります。また,転移が肝臓以外にはない場合,肝臓の動脈から肝臓だけに抗がん剤(5-FUなど)を注入する方法もあります(肝動注療法)。
 抗がん剤は癌細胞だけでなく,正常の細胞にも障害を与えるために副作用が出てきます(「化学療法の副作用」参照)。副作用の種類や程度は抗がん剤の種類や個人の体質により異なります。たとえば,脱毛は一部の抗がん剤に限られており,また,添付文書に記載されている副作用がすべて出るわけではありません。現在では,副作用を軽くしたり予防したりする薬の開発もすすみ,特に嘔気・嘔吐に対しては十分な対応ができるようになってきています。化学療法を受ける場合は,担当医からどのような副作用(種類や時期,期間,対処方法など)が出るのかの説明をよく聞いて,治療を受けてください。

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 放射線治療

Q15 大腸癌の放射線治療について教えてください。

A 大腸癌に対して現在行われている放射線治療としては大きく分けて2通りあります。1つは直腸癌に対して行われる手術前もしくは手術中・手術後に行われる治療で手術治療に放射線治療を加えることによって骨盤内の再発予防や人工肛門を避けることを目的としており,多くの場合は放射線の効果を高める抗がん剤を組み合わせ外来通院で行われます。
 もう1つは再発した大腸癌の症状緩和を目的に骨盤内再発,骨転移,リンパ節転移などに行われる治療で約80%に痛みなどの症状の改善がみられます。特に最近では多方向から正確に照射できるような機器を用いるようになってきたため非常に有効性が増しています。

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 腹腔鏡下手術(「腹腔鏡下手術」参照)

Q16 腹腔鏡下手術とは何ですか?

A 開腹手術はお腹を大きく切って,直接見ながら手を使って手術を行います。一方,腹腔鏡下手術はお腹を大きく切らずに穴をあけて「腹腔鏡」というカメラを挿入し,テレビ画面で内部を見ます。また,手術操作は穴から細長い器具を入れて行います。手術の創が小さいため外見上目立たないこと,痛みが少ないこと,腸の運動低下が少ないため手術後の回復が早く入院期間や休職期間が短いことが長所です。
 開腹手術と異なる技術を要するため,大腸癌の部位や進行度などにより医師とよく相談の上で手術方法を決める必要があります。

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 大腸癌手術後の生活について

Q17-1 大腸癌手術後の食事のとり方について教えてください。

A 原則として,退院後の食事に制限はありません。しかしながら,手術後間もない間は腸の運動が十分に回復していないことがあるため,食べ過ぎに注意し,食物繊維の多い食べ物や消化しにくいものは避けるのがよいでしょう。術後1カ月もすれば元どおりの食生活に戻してもらってかまいませんが,腹部膨満感や便秘などの症状があれば主治医に相談して下さい。

Q17-2 大腸癌手術後の生活で気をつけることは何ですか? 仕事に復帰することはできますか?

A 大腸を切り取ったことによる栄養吸収の低下や体重減少はほとんどありません。盲腸から横行結腸までの癌の手術後は,ほぼ元どおりの生活ができます。一方,S状結腸や直腸の手術後は,しばしば排便の様子が変わります。排便回数の増加,1回の排便量の減少,残便感(排便後に便が出きっていない感じがすること)などの排便障害が起こります。直腸切除後はさらに,便のもれやガスと便の識別困難が起こることもあります。これらの症状は数カ月である程度改善しますが,完全には戻りません。生活習慣を考慮して順応していく必要があります。
 社会復帰はほぼ全員が可能ですが,その時期は,年齢や体力,社会的状況,仕事内容,手術術式などにより異なりますので,個々の状況に応じて対応すべきです。目安としては術後1カ月が,ある程度余裕をもって復職可能な時期です。気分も良く,体力を含めすべて回復したと感じる時期は2~3カ月後,というアンケート調査結果がありますので,無理をせずに徐々に生活を戻していくことが肝要です。

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 大腸癌手術後のサーベイランス(「サーベイランスの方法」参照)

Q18 大腸癌手術後に,定期的に通院して検査が必要といわれました。どのような検査をするのでしょうか? また,いつまで通院する必要があるのでしょうか?

A 手術後の経過観察(サーベイランス)は,早い時期に再発を発見して,効果的に治療するために行います。再発の頻度は大腸癌のステージによって異なるので,サーベイランスのスケジュール(通院の間隔)もステージによって異なります。検査の内容は,通常の診察,腫瘍マーカー測定(血液検査の一部で,癌が再発した時に高くなるたんぱく質です),腹部超音波検査,CT,大腸内視鏡検査などです。必要に応じてMRIやPETも行います。サーベイランスのための通院期間は手術をしてから5年が原則です。

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 大腸癌の腫瘍マーカー

Q19 大腸癌手術後の検査で,CEAが高いので検査をするといわれました。どのような意味なのでしょうか?

A 正常細胞よりも癌細胞で多量に作られて血液中に放出される物質で,癌の補助的な診断に用いられるものを腫瘍マーカーといいます。CEA(癌胎児性抗原)もその1つで,大腸癌が再発すると8割以上の人で血液中のCEAの値が上昇します。CEAが高くなると,再発を疑ってCTなどの検査を行い,再発した場所を探して治療をします。ただし,煙草を吸う方や糖尿病,肝臓病の方は,癌の再発がなくてもCEAが上がることがあります。大腸癌ではCEAのほかにCA19-9,p53という腫瘍マーカーを測ることもあります。

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 「説明と同意」

Q20 大腸癌の治療を始めるにあたって「説明と同意」に署名を求められました。これは必要なことでしょうか?

A 現在はどのような病気でも,医師は患者さんに病気や病状,治療法を説明した上で,患者さんからの同意を得てから治療を行います。治療法によっては強い副作用や不可抗力な事故が発生する危険性を伴うため,治療を始めるにあたって医師は患者さんにとって不都合な事態について患者さんに理解を求めることが必要です。そのために,医師は病気や治療の内容を口頭と文書で患者さんに説明し,患者さんに治療方法を納得していただきます。その際,治療法について医師と患者さんの間で無用なトラブルが生じないよう覚書をかわす意味で署名をします。治療法に納得がいかなければ,その治療を受ける必要はありません。その場合は署名をする必要はありません。しかし最も重要なのは医師と患者さん相互の信頼関係です。

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 セカンドオピニオン

Q21-1 大腸癌と診断されましたが,お医者さんによって奨められた治療法が異なります。どうしたらよいでしょうか?

A 大腸癌の標準治療はある程度確立していますが,有効性が十分に確認されておらず,医師により意見が異なる治療法も少なくありません。そのような場合,一人の医師の考えだけではなく,他の医師の意見をきくこと(セカンドオピニオン)も,ご自分が納得して治療を受ける上で役に立ちます。セカンドオピニオンについてはどの医師も理解していますので,今までかかっていた医師に気楽に相談していただければと思います。

Q21-2 ガイドライン以外の治療法を奨められましたが,決心がつきません。

A ガイドラインとは標準治療の基本を記したものです。大腸癌の治療のなかには,標準治療がまだ決まっていないものもあります。また,標準治療よりもさらに効果の高い治療法を目指した臨床試験もあります。病院によっては独自の治療法を開発し,その方法を患者さんに奨めるところもあります。治療法の選択で迷った場合は,他の病院でのセカンドオピニオンを求めるとよいでしょう。肝心なことは自ら納得して治療法を選ぶことです。

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 代替療法

Q22 友人に代替療法を奨められました。効果はあるのでしょうか?

A 代替療法は,治療の基盤となる外科治療,化学療法,放射線療法以外で,それらを補う治療法に位置づけられます。鍼治療,精神療法,サプリメントなど幅広いものが含まれます。しかし,代替療法によって癌が小さくなったり,癌が治ったりする効果が科学的に証明されたものはありません。ただ,代替療法を行うことで,精神的な安心感が得られる場合があります。代替療法を受けるか否かについては,担当医と十分相談されることをお奨めします。

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 臨床試験

Q23 担当医から臨床試験の説明がありましたが,参加しようかどうか迷っています。臨床試験とはどのようなものですか?

A 新しい検査法や治療法が安全で有効であるかを科学的に証明するための研究的な診療を臨床試験といいます。臨床試験にはさまざまなタイプのものがありますが,代表的な臨床試験では,現在標準治療とされている治療法とそれと同等以上の効果が期待される治療法を,医師や患者さんの意思や好みでなく,一定の決まりにより振り分けて治療し,その効果を比較して調べることもあり,この方法を無作為化比較試験といいます。臨床試験は患者さんをはじめとして,多くの専門家が関わって長い年月をかけて行われます。患者さんの意思で治療法を選べないため,参加をためらわれる方もいらっしゃいます。しかし,信頼できる新しい効果的な治療法を開発するためには臨床試験が不可欠ですので,患者さんには臨床試験の内容をよく理解していただき,できるだけ参加していただきたいと思います。

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 高額療養費

Q24 高額療養費とは何のことですか?

A 手術による入院や化学療法の費用が高額となる可能性があります。そこで「同じ月内」に,受けた保険診療に係る一部負担金(自己負担額)が「自己負担限度額」を超えた場合,超えた額が「高額療養費」として支給されます。お住まいの地域の行政窓口サービス課(保険年金:保険)で申請してください。
 なお,室料差額(差額ベッド代)や歯科の材料差額など,保険診療外のものは,「高額療養費」の対象になりません。詳しくは病院の医療ソーシャルワーカーや会計担当者にお聞き下さい。

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