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患者さんのための大腸癌治療ガイドライン 2014年版

※現在書籍として発行されている最新版は「2022年版」です。 >研究会編集図書

大腸癌治療ガイドラインの解説(本文)

 1 治療の原則

図28	ステージ0~ステージIIIの大腸癌の治療方針

 大腸癌の治療には内視鏡治療,手術治療,化学療法(抗がん剤による治療),放射線治療などの方法があります。大腸癌と診断されたら,まず各種の検査(「大腸癌の検査法」参照)により癌の進行度[ステージ(病期)で表します]が決定され,進行度に応じて治療方法が選択されます(「大腸癌の治療法」参照)。

  • 癌を完全に治す(根治する)ための治療の原則は,癌を残すことなく完全に切除することです。この際に中心となる治療は内視鏡治療手術治療です。
  • 癌が粘膜にとどまっている場合や,粘膜下層に浸潤していても,浸潤の程度がわずかで,転移の可能性が低いと判断される場合には,癌だけを完全に切除します。内視鏡的に切除する方法が代表的ですが,肛門に近い直腸癌に対しては,肛門から癌を直接観察しながら切除することもできます。切除した検体の病理検査により,リンパ節転移の危険性が高いと判断された場合には,その後に手術治療(リンパ節郭清をともなう腸切除)を行います。
  • 癌が大腸の壁により深く浸潤した場合は手術治療が原則です。このような癌では,癌の周囲に存在するリンパ節に転移を起こすことがあるため,腸管とともに,想定される進行度(臨床分類ステージ)に応じた範囲のリンパ節を郭清します。癌を残すことなく切除する手術を根治手術といいます。癌の浸潤程度や,リンパ節に癌細胞があるかどうかの病理検査が行われ,最終的な進行度が決定されます(病理分類ステージ)。病理分類ステージに応じて,補助化学療法の適応が検討されます。ステージについては,「ステージ分類(病期分類)」を参照してください。
  • 手術時にすでに大腸以外の臓器に転移が存在する場合や,大腸癌が再発した場合には,手術だけでなく,化学療法,放射線治療,緩和医療などの選択肢があります。病変の広がりや,症状や年齢といった患者さんの背景も考慮して,最も適した治療法を選択します。
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 2 ステージ0~ステージⅢの大腸癌の治療

1 内視鏡治療と手術治療の選択

図29 ステージ0とステージIIの大腸癌の治療方針

  • 大腸壁における癌の浸潤の深さ(深達度)が粘膜と粘膜下層にとどまるものを早期癌,粘膜下層より深く浸潤するものを進行癌といいます。内視鏡的に,安全かつ完全に病変を切除できると考えられる早期癌に対しては,まず内視鏡治療が考慮されます。癌が肛門に近く存在する場合には,肛門からアプローチして癌を取り除くこともできます(局所切除)。いずれも開腹手術よりもからだに負担の少ない方法です。
  • 早期癌として内視鏡的に切除された癌は顕微鏡で検査されます。粘膜内癌(Tis癌図9参照)はステージ0に分類され,病変が完全に取り切れていることが確認されれば治療が完了します。これに対し,粘膜下層に浸潤する癌(T1癌)には10%前後の確率でリンパ節転移が起こります。さまざまな条件を考えて,リンパ節郭清を伴う腸切除を追加するかどうかを検討します。
  • 癌が粘膜下層に深く浸潤している場合には,内視鏡治療では癌が残ってしまう危険性や,リンパ節転移を起こしている可能性が高くなります。深達度が浅い癌であっても,癌の大きさや,存在する部位によっては内視鏡治療が技術的に困難なことがあります。これらの場合には,次に述べる手術治療(通常の開腹手術か腹腔鏡を用いた手術)が選択されます。
2 手術治療
図30 ステージ0~ステージⅢの大腸癌の手術治療方針

 リンパ節転移の可能性がある早期癌と進行癌には手術治療が行われます。手術では腸の切除だけでなく,リンパ節郭清も行います。リンパ節の郭清する範囲はステージによって異なります(図19参照)。
 切除された組織は顕微鏡で検査されます。切除されたリンパ節に癌の転移が確認されるとステージIIIです。ステージIIIには再発予防のため補助化学療法が奨められます。

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 3 ステージⅣの大腸癌の治療

図31 ステージⅣの大腸癌の治療方針

 癌がすでに大腸から離れた場所(肝臓,肺,腹膜など)に転移しているとステージIVに分類されます。大腸に存在する癌を原発巣,転移している癌を転移巣といいます。

  • 原発巣と転移巣の両方とも安全に取り切れる場合は,両方を手術で切除します。
  • 転移巣は取り切れないものの,原発巣が原因で貧血,穿孔(腸に穴が開くこと),腸閉塞などを起こす恐れがある場合は,原発巣だけを切除し,転移巣には化学療法や放射線治療を行います。
  • 原発巣と転移巣の両方とも手術で取りきれない場合は,手術は行わず,化学療法や放射線治療を選びます。
  • 化学療法や放射線治療の効果が少ない場合や,患者さんのからだが手術や化学療法・放射線治療には耐えられないほど弱っている場合には,症状を和らげる治療が優先されます。
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 4 血行性転移の治療

 大腸癌の血行性転移には,肝転移肺転移脳転移,その他の臓器への転移(骨,副腎,皮膚,脾など)があります(図8参照)。
 肝転移や肺転移は,すべてを切除することにより癌が治ることがあります。

肝転移の治療
図32 肝転移の治療

 肝転移の治療には,手術治療,化学療法(全身化学療法,肝動注療法),熱凝固療法があります。

 手術治療(肝切除術)

  • 転移した部分がすべて切除できる,手術後の肝臓の機能が保たれる,手術に耐えられる場合には手術が行われます。
  • 肝切除後の5年生存率は20~50%とされています。

 肝動注療法

  • 肝臓の動脈にカテーテル(管)を入れ,肝臓だけに抗がん剤を注入する方法です。
  • 転移が肝臓にだけある場合で,手術では取り切れない時に行います。
  • 転移巣への直接効果が期待できます。

 熱凝固療法

  • 転移巣に針を刺して熱を発生させ,癌を凝固して死滅させる方法です。
  • マイクロ波凝固療法(MCT:microwave coagulation therapy)とラジオ波焼灼療法(RFA:radio-frequency ablation)があります。

 全身化学療法

  • 肝転移が手術で取り切れない場合や,肝臓以外にも転移がある場合に行われます。
  • 肝臓にだけ転移がある場合でも,その他の転移が隠れていることが多いため,この治療が行われることがあります。
肺転移の治療

 肺転移の治療には,手術治療と化学療法があります。

 手術治療(肺切除術)

  • 転移した部分がすべて切除でき,手術後の生活に必要な大きさの肺が残り,手術に耐えられる場合には,手術が行われます。
  • 肺切除後の5年生存率は30~50%とされています。

 全身化学療法

  • 肺転移が手術で取り切れない場合や,肺以外にも転移がある場合に行われます。
脳転移の治療

 脳転移の治療には,手術治療と放射線治療があります。
 手術治療は,切除により重大な神経障害が残らない場合に行われます。
 放射線治療には,定位放射線照射,全脳照射があります(「放射線治療」参照)。

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 5 再発した大腸癌の治療

図33 再発大腸癌の治療方針

 大腸癌が肝臓や肺などのうち1つの臓器に再発し,手術で切除できるようであれば手術治療が奨められます。
 転移が2つの臓器であっても手術治療をすることがあります。

 再発により腸閉塞になっている場合,バイパス手術人工肛門を造ることによって食事ができるようになることがあります。

局所再発の治療

  • 直腸癌では約10%に局所再発(切除した直腸の近くで起こる再発)が起こります。
  • 吻合部再発(吻合した場所での再発)では手術治療で取り切れる場合があります。
  • 骨盤内に再発した場合,膀胱や子宮・膣などを合併切除して治ることがあります。
  • 手術で取り切れない場合は,放射線治療か化学療法が行われます。
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 6 化学療法

化学療法の内容

 大腸癌の化学療法ではさまざまな抗がん剤が使われます。しばしばいくつかの抗がん剤を組み合わせて使われます。
 大腸癌の化学療法の基本となる薬は,5フルオロウラシル(5-FU:ファイブ・エフ・ユー)です。
 5-FUの投与方法には,急速静注,点滴による長時間投与(持続静脈投与),内服があります。
 5-FUを内服薬にしたものにはUFT(ユー・エフ・ティー),フルツロン,TS-1(ティー・エス・ワン),カペシタビンなどがあり,オキサリプラチンなどの注射薬と一緒に使われる場合もあります。
 5-FUの注射薬はロイコボリンというお薬と一緒に使い,大抵の場合イリノテカン(CPT-11:シー・ピー・ティー・イレブン)やオキサリプラチンと組み合わせて使います。
 最近では分子標的製剤といわれるタイプの抗がん剤であるベバシズマブ(アバスチン®),セツキシマブ(アービタックス®),パニツムマブ(ベクティビックス®)やレゴラフェニブ(スチバーガ®)も登場し,単独もしくは他の抗がん剤と組みあわせて使われます(Q12参照)。

補助化学療法

 手術で癌をすべて切除したと判断しても,一定の頻度で再発が起こります。大腸癌研究会の研究によれば,大腸癌全体の再発率は約17%です(大腸癌研究会・プロジェクト研究1991-1996年症例)。
 再発を抑える目的で補助化学療法が行われます。

  • ステージIIIの結腸癌,またはステージIIの結腸癌で,再発の可能性が高い癌に行います。
  • 補助化学療法を行うには,腎臓や肝臓といった重要な臓器の機能が保たれていることが必要条件です。

 以下の5つのうちいずれかを6カ月間行うのが一般的です。

  • 内服でのカペシタビン
  • 内服でのUFT+ロイコボリン錠
  • 注射または持続静脈投与による5-FU+ロイコボリン
  • 持続静脈投与による5-FU+ロイコボリン+オキサリプラチン
  • カペシタビンの内服とオキサリプラチンの持続静脈投与
切除不能進行・再発大腸癌に対する化学療法

 手術で癌をすべて取り切れない場合,次のような条件の人には化学療法による治療を考えます。

  • 少なくとも,歩行可能で自分の身の回りのことを行える。
  • 肝臓や腎臓の機能が一定の基準を満たしている。
  • 転移・再発がX線検査やCT,MRIなどで確認できる。

 化学療法で癌を治すことはほとんど期待できませんが,癌を縮小させて生存期間を延ばす効果があることが確認されています。
 切除不能進行・再発大腸癌に対する化学療法には,副作用が出やすいオキサリプラチンやイリノテカンを使用する強めの治療と,使用しない弱めの治療の2種類があり,身体の状況や癌の状態によって決まります。

化学療法の継続

 癌が明らかに大きくなっていない,また,強い副作用がない場合には,原則的に同じ化学療法を継続します。
 副作用が強い時には,治療をいったん休むことが必要です。
 癌が明らかに大きくなった場合は別の化学療法に切り替えるか,化学療法を中止します。

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 7 放射線療法

補助放射線療法

 直腸癌手術の補助療法として,骨盤内の再発予防や人工肛門を避けることを目的として行われています。
 照射時期は,手術前,手術中,手術後,(手術前照射,手術中照射,手術後照射)の3種類があります。
 抗がん剤の治療と一緒に行うこともあります。

緩和的放射線療法

 癌による症状を和らげる目的で行います。
 骨盤内病巣,骨転移,脳転移,リンパ節転移などに照射します。
 痛み,出血,神経症状などの症状が約80%で改善します。

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 8 大腸癌手術後のサーベイランス

サーベイランスとは

 大腸癌を手術で完全に切除しても,一定の割合で再発が起こります。
 再発を早い時期に発見すれば,再度の手術で治ることもあります。また,手術ができない場合でも化学療法や放射線治療により生存期間を延長できることが示されています。
 そのために行う定期的な検査をサーベイランスといいます。サーベイランスの期間,間隔と検査法は,ステージや再発が起こりやすい時期と臓器を考慮して決められます。

再発が起こりやすい時期と臓器

 再発の約80%は手術後3年以内に,95%以上は5年以内に見つかります。
 再発の多い部位は,肝臓,肺,局所(癌があった場所の周辺で,直腸癌で多い),リンパ節,腹膜で,吻合部に発生することもあります。

再発する割合
  • 進行度が進むにしたがって再発率が高くなります。
  • 粘膜内癌(Tis癌)は転移しません。癌を完全に切除すれば再発は起こりません。
  • 粘膜下層までの浸潤した癌(T1癌)の再発率は約1%です。
  • 固有筋層まで浸潤した癌(T2癌)の再発率は約6%です。
  • ステージIIの再発率は約13%,ステージIIIは約30%です。
サーベイランスの方法

 Tis癌(ステージ0),リンパ節転移のないT1癌にはサーベイランスはほとんど必要ありません。リンパ節転移のないT2癌,ステージII,ステージIIIでは,術後3年間は3カ月ごとに1度の検査,術後4年目から5年目までは6カ月に1度の検査を行うことが推奨されます。
 検査する部位は,肝臓と肺が主で,直腸癌の場合は骨盤内も検査します。
 検査には,問診・診察,採血による腫瘍マーカー(CEA,CA 19-9)測定,胸部X線検査,CT,腹部超音波検査があります。これらで異常が発見された場合には,MRIやPETを行うこともあります。(「大腸癌の検査法」参照)
 吻合部の再発の検査には,大腸内視鏡検査または注腸造影検査を行います。
 大腸癌にかかった人は,他の癌にもかかりやすくなっています。大腸癌のサーベイランスは,大腸癌の再発の検索を目的としたものですので,他の癌の検査としては不十分です。大腸癌術後のサーベイランスを受けていても,通常の癌検診は受けてください。

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 9 緩和医療・ケア

 緩和医療・ケアとは患者さんの生活の質QOL:Quality of Life,クオリティ・オブ・ライフ)を良くする,もしくは現状より悪くしないためのケアのことです。手術治療や化学療法を行う場合には,痛みなどの症状が緩和された状態で行うために早い段階から緩和医療が行われます。
 大腸癌に関係する代表的な緩和医療には以下のものが含まれます。

  • 1.疼痛緩和
  • 2.手術治療
  • 3.化学療法
  • 4.放射線療法
    5.精神症状に対するカウンセリング

 がんの症状緩和の中心となるものが痛みの管理です。現在は,モルヒネなどを十分に使用することで,多くの患者さんが痛みから解放されています。
 モルヒネは痛みを止める効果が非常に強く,現在最も効果的な鎮痛薬です。モルヒネは「麻薬」に分類されますが,中毒を起こしたり,精神に異常をきたすことはなく,安心して用いられる薬です。
 痛みの原因によっては神経ブロックや,放射線治療(骨への転移の痛みなどに対して照射する)が用いられることもあります。
 緩和医療として,手術治療が行われることもあります。たとえば,再発により腸閉塞になった場合,閉塞した場所をバイパスさせ,お腹の痛みを取り食事を可能にする手術が行われます(バイパス手術)。人工肛門の造設が必要(Q9参照)となることもありますが,現在では人工肛門の管理は進歩しており,QOL(「緩和医療」参照)の向上に大きく貢献しています。

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