以下におもな改訂点を列記します。
1)大腸の区分 (7ページ)
前版で直腸から独立させたRS(直腸S状部)を従来と同様に直腸に含めることにしました。また、大腸に含まれると定義されていた虫垂と肛門管を大腸とは独立して取扱うことにしました。すなわち、大腸は結腸と直腸の総称であり、前者は盲腸(C)からS状結腸(S)まで、後者は直腸S状部(RS)から下部直腸(Rb)までと定義しました。
2)所見の原則 (6ページ)
臨床所見、術中所見、病理所見、総合所見のうち、総合所見を廃止し、所見の診断根拠を以下のように定めました。
臨床所見 | 身体所見、画像診断所見、術前診断としての生検・細胞診。 |
術中所見 | 手術所見、術中画像診断。 |
病理所見 | 内視鏡治療および手術治療で得られた材料の病理所見。術中細胞診・術中迅速組織診を含む。 |
術前治療後の所見には接頭辞「y」を、再発癌の所見には接頭辞「r」を付けて表すことにしました。なお、術前治療後の臨床所見は「yc」、病理所見は「yp」と表します。
3)進行度分類(Stage) (17ページ)
進行度分類自体に変更はありませんが、前項と同様に総合的進行度分類(fStage)は廃し、臨床分類 (clinical classification)は臨床所見に基づく分類、病理分類 (pathological classification) は病理所見に基づく分類であり、術中所見は進行度分類の判定には使用しないことを明記しました。また、術前治療後の進行度分類には接頭辞y-を、再発癌の進行度分類には接頭辞r-を付して表すこととしました。
別項で説明しますが、新しく定義されたEX(リンパ節構造のない壁外非連続性癌進展病巣)が存在するケースでは、壁深達度(T)とリンパ節転移(N)の判定が従来とは異なる場合があり、進行度分類に影響することがあります。
4)壁深達度 (T) (10ページ)
TNM分類のT-カテゴリーを準用した「T」による表記に変更し、T1を浸潤程度によってT1aとT1bに亜分類しました。深達度を表す場合はTにより表記しますが、腸管壁の層構造を表す場合にはM、SM等の従来の深達度の記号を用います。
5)遠隔転移(M) (14ページ)
独立したカテゴリーであった腹膜転移(P)、肝転移(H)、肝以外の遠隔転移(M)を「遠隔転移(M)」として包括して表記することとしました。
腹膜転移・肝転移・肺転移など領域リンパ節転移以外のすべての転移はMに含まれ、転移臓器数が1個であればM1a、2個以上であればM1bとして、転移部位(肝、腹膜、肺では転移程度も)をカッコ書きで付記します。
M0: | 遠隔転移を認めない。 |
---|---|
M1: | 遠隔転移を認める。 |
M1a: | 1臓器に遠隔転移を認める。 |
M1b: | 2臓器以上に遠隔転移を認める。 |
例えばH1単独の場合はM1a(H1)、P1とH2があればM1b(P1、H2)と記載します。
6)肺転移 (PUL) (16ページ)
肺転移の分類を以下のように改訂し、肺転移の予後分類(Grade分類)を作成して収載しました。
PULX: | 肺転移の有無が不明。 |
---|---|
PUL0: | 肺転移を認めない。 |
PUL1: | 肺転移が2個以下、または片側に3個以上 |
PUL2: | 肺転移が両側に3個以上、または癌性リンパ管炎、癌性胸膜炎、肺門部、縦隔リンパ節転移を認める |
7)癌遺残 (R) (23ページ)
癌遺残を内視鏡治療後と手術治療後に分けて新しく定義しました。
ERX: | HMX または VMX |
---|---|
ER0: | HM0 かつ VM0 |
ER1: | HM1, VM0 または HM0, VM1またはHM1,VM1 |
ER2: | 明らかな癌の遺残がある |
RX: | 癌の遺残が判定できない。 |
---|---|
R0: | 癌の遺残がない。 |
R1: | 切離端または剥離面が陽性。 |
R2: | 癌の肉眼的な遺残がある。 |
前版では癌遺残を肉眼的判定(sR)と組織学的判定(pR)に区分しましたが、本版ではTNM分類の ”residual tumor” を準用して、臨床所見、術中所見、病理所見から総合的に判定することとしました。
8)リンパ節構造のない壁外非連続性癌進展病巣 (EX) (30ページ)
新しく「リンパ節構造のない壁外非連続性癌進展病巣(EX)」を定義しました。
EXには脈管/神経侵襲病巣と、それ以外の癌巣(tumor nodule: ND)に区分されます。
脈管/神経侵襲病巣は深達度の評価対象となり、NDは転移リンパ節として評価されます。
9)神経侵襲(PN) (30ページ)
新しく神経侵襲を定義しました。
PN0 : | 神経侵襲を認めない。 | ||||
---|---|---|---|---|---|
PN1 : | 神経侵襲を認める。 | ||||
|
10)簇出 (30ページ)
大腸癌治療ガイドライン(2009年版)のサイドメモに初出した「簇出」を規約に収載しました。簇出の定義、判定法は同ガイドラインに記載されたものと変わりありません。
Grade 1: | 0~4個 |
---|---|
Grade 2: | 5~9個 |
Grade 3: | 10個以上 (20×10倍視野における簇出の個数) |
11)手術の種類 (19ページ)
超低位前方切除と括約筋間直腸切除(ISR)の2術式を追加しました。
12)組織型分類 (25~28ページ)
大腸悪性上皮性腫瘍に髄様癌を追加し、内分泌細胞癌をカルチノイド腫瘍とともに内分泌細胞腫瘍として区分しました。また、虫垂癌と肛門管癌の組織型分類を大幅に改訂しました。
13)組織図譜 (70~95ページ)
新しく定義された簇出、EX、PNの図譜を追加し、従来の図譜も大幅に更新しました。
14)TNM分類(UICC) (97~101ページ)
TNM分類(大腸癌、大腸カルチノイド腫瘍、虫垂カルチノイド)の要点を収載し、規約とTNM分類の相違点を 対照表で示しました。
15)所見の要約 (102ページ)
規約に収載した項目のなかから、術前サマリー、退院時サマリー、病理報告書等として診療録に記載しておくことが望ましい項目を列記しました。