上野 秀樹(防衛医科大学校 外科学講座)
pT1(SM)癌の治療指針に関して、垂直断端、SM浸潤度、脈管侵襲、組織型、簇出の5つの病理学的所見を指標とした「内視鏡摘除後の追加治療の適応基準」は大腸癌治療ガイドライン2009年版に初めて掲載され、現在まで本邦の日常診療で広く用いられている。一方、郭清を伴う腸切除を“考慮する”ことが推奨される全てのリスク因子を一律に追加手術の「絶対適応」に準じて扱った場合には、所謂over surgeryの問題が生じることも認識されている。すなわち、高リスク症例の効果的な絞り込み方法は未だ十分とは言い難く、新しいリスク因子の開発や精度の高いリスクの階層化が焦眉の課題である。
海外に目を向けると、pT1癌の国際的な治療指針の確立を求める動きもある。海外ではSM層に存在する腫瘍量が浸潤度1000μmを凌駕する鋭敏なリンパ節転移指標になることも報告され、また国内では低分化胞巣が、新たな有効なリンパ節転移リスク因子になる可能性が報告されているが、いずれにおいても十分な検証的研究がなされていない。
更に、郭清を伴う腸切除を“考慮する”pT1癌の治療方針の決定においては、患者の意思や医学的・社会的背景を十分に鑑みる必要があるが、個々のpT1癌の予想再発リスクを数値として提示することができれば、患者にとっても十分に納得した上で治療方針を決定できることから、再発リスクを算出できるtoolを作成することが重要である。
本プロジェクトでは、pT1大腸癌におけるglobal standardな治療指針の設定を目指す見地から、リンパ節転移リスクの組織学的評価基準の確立とリンパ節転移リスク算出toolの作成を行うことを目的とする。「内視鏡摘除後の追加治療の適応基準(大腸癌治療ガイドライン)」の検証とリンパ節転移リスク算出toolの作成に関しては日米共同研究を行い、新たなリンパ節リスク因子の検索には日英共同研究(UK-Japan Joint Study for Risk Factors of Lymph Node Metastasis in Submucosal Invasive (pT1) Colorectal Cancer: Formula One Study)を行う。