このたび、大腸癌治療ガイドライン医師用2024年版の「切除不能進行・再発大腸癌に対する薬物療法」に追記すべき薬剤が承認されましたので、その臨床試験の結果に基づき、下記の情報提供を行います。
なお、「切除不能進行・再発大腸癌に対する薬物療法のアルゴリズム」中における位置づけ等の詳細については、次回のガイドライン改訂の際にガイドライン内で解説する予定です。
| 論文名 | Nivolumab plus Ipilimumab in Microsatellite-Instability–High Metastatic Colorectal Cancer |
|---|---|
| 掲載雑誌名 | N Engl J Med 2024; 391: 2014-2026 |
| 著者名 | Thierry Andre, et al. |
| 試験のスポンサー名 | Bristol Myers Squibb, Ono Pharmaceutical |
CheckMate 8HW試験は、ミスマッチ修復機能(mismatch repair: MMR)欠損(deficient MMR: dMMR、microsatellite instability-High: MSI-High)を有する切除不能進行・再発大腸癌患者を対象に、ニボルマブ+イピリムマブ併用療法の有効性を検証する目的で実施された国際共同第III相試験である1。主な適格基準は、各施設でdMMR/MSI-Highが確認できた切除不能進行・再発大腸癌、測定可能病変あり、18歳以上、ECOG PS 0〜1、前治療歴は問わず(抗PD-1抗体薬、抗PD-L1抗体薬などの免疫療法の治療歴を有する患者は除外)で、ニボルマブ+イピリムマブ併用群、ニボルマブ群、標準化学療法群に2:2:1の比率(2レジメン以上の既治療例はニボルマブ+イピリムマブ併用群、ニボルマブ群に1:1の比率)でランダム化した。各群の用法・用量等は以下の通り。
標準化学療法群に登録された患者は、中央判定で病勢増悪と判断された後にニボルマブ+イピリムマブ併用療法へのクロスオーバーが認められた。クロスオーバーの際のニボルマブ+イピリムマブ併用療法は、ニボルマブ240mg/回を2週毎に6回投与した後、480mg/回を4週毎に投与、イピリムマブ1mg/kg/回を6週毎に投与した。治療は病勢増悪、忍容できない有害事象の発現、同意を撤回するまで継続されたが、クロスオーバー例も含むすべての症例において、ニボルマブ+イピリムマブ、ニボルマブの投与は最長2年間とされた。
層別化因子は原発巣の占居部位(右側/左側)、前治療歴(なし/1/2以上)であった。主要評価項目は、中央測定でdMMR/MSI-Highが確認できた患者における中央判定による無増悪生存期間(PFS)であり、未治療例におけるニボルマブ+イピリムマブ併用群と標準化学療法群、および未治療例・既治療例を合わせた集団におけるニボルマブ+イピリムマブ併用群とニボルマブ群が比較された。主な副次評価項目は、全生存期間(OS)、担当医判定によるPFS、全症例における中央判定によるPFS、奏効割合(ORR)、主な探索的評価項目は、安全性、QoLなどであった。
本論文では、未治療例におけるニボルマブ+イピリムマブ併用群と標準化学療法群を比較した結果が報告された。
2019年8月から2023年4月までの間に303例の未治療患者が登録され、ニボルマブ+イピリムマブ併用群に202例、標準化学療法群に101例が割り付けられた。主要評価項目である中央測定でdMMR/MSI-Highが確認できた患者(各々171例、84例)における中央判定によるPFSの中央値は、各々未到達、5.9カ月、12カ月時点におけるPFS率は各々79%、21%であり、ニボルマブ+イピリムマブ併用群で有意に良好であった(P<0.001)。副次評価項目では、担当医判定によるPFS(12カ月PFS率:80%、19%)、全症例における中央判定によるPFS(12カ月PFS率:71%、24%)と、ニボルマブ+イピリムマブ併用群でいずれも良好であった。有害事象は各々99%、98%(Grade 3-4:48%、67%)に認められ、治療関連有害事象は各々80%、94%(Grade 3-4:23%、48%)、いずれかの治験薬の投与中止に至った治療関連有害事象は各々16%、32%であった。安全性プロファイルは既報と同様で、未知の有害事象は認めなかった。
ニボルマブ+イピリムマブ併用療法は、前治療歴のないdMMR/MSI-High切除不能進行・再発大腸癌患者において、標準化学療法と比較しPFSを有意に延長させ、安全性プロファイルは既報と同様であった。
上記の臨床試験結果に基づき、本邦において2025年8月にニボルマブ(商品名:オプジーボ)とイピリムマブ(商品名:ヤーボイ)の併用療法について、「治癒切除不能な進行・再発の高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-High)を有する結腸・直腸癌」に対する「効能又は効果」の追加が承認された。変更点は下線部の通り。
なお、ニボルマブの「効能又は効果に関連する注意」として以下が記載されている。
また、MSI-H/dMMR切除不能進行・再発大腸癌に対するニボルマブのコンパニオン診断薬等として、マイクロサテライト不安定性については「MSI検査キット(FALCO)」、「FoundationOne CDx がんゲノムプロファイル」、「Guardant360 CDx がん遺伝子パネル」、「Idylla MSI Test(ニチレイバイオ)」が、ミスマッチ修復機能欠損については「PMS2 IHC pharmDx(ダコOmnis)」、「MSH2 IHC pharmDx(ダコOmnis)」、「MSH6 IHC pharmDx(ダコOmnis)」、「MLH1 IHC pharmDx(ダコOmnis)」が承認されている。
これまで免疫チェックポイント阻害薬である抗PD-1抗体薬のニボルマブと抗CTLA-4抗体薬のイピリムマブとの併用療法は、前治療歴を有するdMMR/MSI-High切除不能進行・再発大腸癌患者に対して承認されていたが、CheckMate 8HW試験の結果を受けて一次治療でも使用可能となった1。また、本試験のもう一つの主要評価項目である、治療ラインによらないニボルマブ+イピリムマブ併用群とニボルマブ群のPFSの比較においても、ニボルマブ+イピリムマブ併用群で有意に良好であったことが報告されている2。
大腸癌治療ガイドライン医師用2024年版では、「CQ23:切除不能大腸癌に対する免疫チェックポイント阻害薬は推奨されるか?」において、一次治療例に対しては抗PD-1抗体薬のペムブロリズマブ療法が推奨されている(推奨度1、エビデンスレベルA、合意率:100%)。ペムブロリズマブ療法も標準治療と比較した第Ⅲ相試験の結果をもとに推奨されていることから、ニボルマブ+イピリムマブ併用療法も同様に推奨される治療に位置付けられる。ニボルマブ+イピリムマブ併用療法とペムブロリズマブ療法を直接比較した結果はないものの、CheckMate 8HW試験において未治療例・既治療例を合わせた集団を対象にニボルマブ単独療法に対して有効性が示されていることから、今後はニボルマブ+イピリムマブ併用療法がdMMR/MSI-High切除不能進行・再発大腸癌に対する第一選択になると思われる。しかしながら、ニボルマブ単独療法との比較において、ニボルマブ+イピリムマブ併用療法は治療関連有害事象の発現頻度が高く、特に皮膚障害や内分泌機能障害の発現が多いことには注意が必要である。今後、併用療法、単独療法の使い分けに資する検討が期待される。
なお、日常臨床で広く用いられているベンタナOptiView法によるdMMR判定は、ニボルマブのコンパニオン診断薬には該当していないため、今後、実臨床における検査体制を踏まえた柔軟な運用が可能となるよう、適用要件の見直しが期待される。