このたび、大腸癌治療ガイドライン医師用2024年版の「切除不能進行・再発大腸癌に対する薬物療法」に追記すべき臨床試験の結果が報告されましたので、下記の情報提供を行います。
なお、「切除不能進行・再発大腸癌に対する薬物療法のアルゴリズム」中における位置づけ等の詳細については、次回改訂の際にガイドライン内で解説する予定です。
論文名 | Tumour-agnostic efficacy and safety of selpercatinib in patients with RET fusion-positive solid tumours other than lung or thyroid tumours (LIBRETTO-001): a phase 1/2, open-label, basket trial. |
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掲載雑誌名 | Lancet Oncol. 2022; 23(10): 1261-1273 |
著者名 | Subbiah V, et al. |
試験のスポンサー名 | Loxo Oncology社 |
LIBRETTO-001試験1は、RET融合遺伝子陽性の進行・再発固形腫瘍患者を対象としたセルペルカチニブ療法の国際共同第Ⅰ/Ⅱ相試験である。非小細胞肺癌・甲状腺癌を除く臓器横断的集団に対する有効性と安全性の解析は事前に計画して行われ、データカットオフは2021年9月24日であった。解析対象集団の選択基準は、前治療後に増悪もしくは有効性が期待される治療がない、ECOG PS 0~2等であり、少なくとも6ヵ月以上フォローアップできた患者が有効性解析対象集団とされた。主要評価項目は、RECIST v1.1に基づく独立中央判定による客観的奏効割合(ORR)とされた。
2017年12月から2021年8月までの間に、45例が第Ⅰ相用量漸増パートおよび第Ⅱ相パートに登録された。41例の有効性解析対象集団において、主要評価項目とされたORRは43.9%(95%信頼区間:28.5-60.3)であった。安全性解析対象集団(45例)におけるGrade 3以上の有害事象の発現割合は、高血圧22%、ALT上昇16%、AST上昇13%であった。治療関連の重篤な有害事象は40%に認められたが、治療関連死亡はなかった。
セルペルカチニブ療法は、RET融合遺伝子陽性の臓器横断的な患者集団において臨床的意義のある効果を示し、安全性プロファイルは他の適応症で観察されたものと同様であった。RET融合遺伝子を含む包括的ながんゲノム検査は、セルペルカチニブ療法の適応患者を特定するために重要であろう。
上記の臨床試験結果に基づき、本邦において2024年6月に、セルペルカチニブ(商品名:レットヴィモ)の効能・効果に「RET融合遺伝子陽性の進行・再発の固形腫瘍」が追加された。なお、添付文書の「効能又は効果に関連する注意」には、以下のように記載されている。
また、RET融合遺伝子を有する進行・再発固形腫瘍に対するセルペルカチニブのコンパニオン診断薬等として、「FoundationOne CDx がんゲノムプロファイル」が承認されている。
RET融合遺伝子は、治療標的となるドライバー遺伝子異常のひとつであり、非小細胞肺癌や甲状腺癌で頻度が高い。大腸癌でも0.2%~0.4%に認められ2,3、RAS/BRAF野生型MSI-High大腸癌では5.6%と比較的頻度が高いことが報告されている4。LIBRETTO-001試験は、上記論文1よりフォローアップが延長され、データカットオフ日を2023年1月13日とした追加解析5が本邦の承認申請資料として用いられている。その追加解析では、固形腫瘍患者52例(日本人11例を含む)でのORRは44.2%と報告された。RET融合パートナーや癌種、人種による有効性の明らかな違いは認めなかった。大腸癌でのORRは30.8%(4/13例)であった。安全性については、主な有害事象は高血圧や肝酵素上昇であったが、忍容性に問題はなかった。
大腸癌治療ガイドライン医師用2024年版では、一次治療開始後から後方治療移行時までの適切な時期に包括的がんゲノムプロファイリング検査を行うことが推奨されている。セルペルカチニブのコンパニオン診断薬等として、「FoundationOne CDx がんゲノムプロファイル」が承認されている。一方、他の包括的がんゲノムプロファイリング検査でも、RET融合遺伝子の検出は可能であり、エキスパートパネルにより適切であると判断された場合には、あらためてコンパニオン検査を行うことなくセルペルカチニブの投与が可能である(令和元年6月4日疑義解釈資料)。
以上より、RET融合遺伝子のある大腸癌に対するセルペルカチニブ療法は、二次治療治療以降の最適な治療ラインで治療選択肢として推奨される。RET融合遺伝子を探索する目的でも包括的がんゲノムプロファイリング検査は有用であり、特にRAS/BRAF野生型MSI-H大腸癌では比較的高頻度に認められる。セルペルカチニブは極めて使用頻度の低い薬剤であるため、その使用にあたっては、適正使用ガイド、添付文書等を十分参照して治療に当たることが望ましい。