このたび、大腸癌治療ガイドライン医師用2022年版の「切除不能進行・再発大腸癌に対する薬物療法」に追記すべき臨床試験の結果が報告されましたので、下記の情報提供を行います。
なお、「切除不能進行・再発大腸癌に対する薬物療法のアルゴリズム」中における位置づけ等の詳細については、次回のガイドライン改訂の際にガイドライン内で解説する予定です。
論文名 | Trifluridine–Tipiracil and Bevacizumab in Refractory Metastatic Colorectal Cancer. |
---|---|
掲載雑誌名 | N Engl J Med 2023; 388: 1657-1667 |
著者名 | Prager GW, et al. |
試験のスポンサー名 | Servier社/Taiho Oncology社 |
SUNLIGHT試験は、欧州および北米を中心とした13カ国で行われた多施設共同海外第III相試験である。過去に1又は2レジメンの化学療法(オキサリプラチン、フルオロピリミジン、イリノテカンを含む)を受けた切除不能大腸癌患者を、Trifluridine/Tipiracil(FTD/TPI)とベバシズマブ(BEV)の併用投与(併用群)またはFTD/TPI単独投与(単剤群)に1:1の割合でランダムに割り付けた。FTD/TPIの開始用量は35mg/m2/回で、朝食後及び夕食後の1日2回、5日間連続経口投与したのち2日間休薬、これを2回繰り返したのち14日間休薬する。これを1コース(28日間)として繰り返した。併用群では、1日目と15日目にBEV 5mg/kgを静脈内投与した。主要評価項目は全生存期間(OS)であり、副次評価項目は、無増悪生存期間(PFS)、安全性およびECOG PSが0または1から2以上に悪化するまでの期間であった。
2020年11月から2022年2月までに492例が登録された(各群246例)。主要評価項目であるOSの中央値は併用群で10.8カ月、単剤群で7.5カ月であり、併用群の優越性が示された(ハザード比(HR) 0.61、95%信頼区間(CI) 0.49–0.77、P<0.001)。PFS中央値は併用群で5.6カ月、単剤群で2.4カ月であった(HR 0.44、95%CI 0.36–0.54、P<0.001)。両群で最も多かった有害事象は、好中球減少症、嘔気、貧血であった。治療関連死は報告されなかった。ECOG PSスコアが0または1から2以上に悪化するまでの期間の中央値は、併用群で9.3カ月、単剤群で6.3カ月あった(HR 0.54、95%CI 0.43–0.67)。
過去に1又は2レジメンの化学療法(オキサリプラチン、フルオロピリミジン、イリノテカンを含む)を受けた切除不能大腸癌患者において、FTD/TPI+BEV併用療法は、FTD/TPI単独療法に比べOSを延長した。
切除不能大腸癌に対するFTD/TPI+BEV療法は、国内単群第Ⅱ相試験1、デンマークで行われたランダム化第Ⅱ相試験において有効性が示唆され2、大腸癌治療ガイドライン2022年版(CQ21)でも、後方治療の選択肢のひとつとして推奨されている(推奨度2、エビデンスレベルB)。今回、SUNLIGHT試験において、FTD/TPIに対するFTD/TPI+BEV併用療法のOSにおける優越性が示された。日本は本試験に不参加であったが、既報の日本からのエビデンス1を考慮すれば、SUNLIGHT試験の結果は日本の実地診療にも外挿できると考えられる。よって、FTD/TPI+BEV併用療法は、本試験の対象患者に対する標準治療と考えられる。なお、本試験の28%の患者は先行治療として抗VEGF療法を含む治療を受けていなかったが、サブグループ解析では抗VEGF療法の治療歴の有無に関わらず、併用群でOSが良好な傾向が認められた。
SUNLIGHT試験において、単剤群より併用群で高頻度に認められた有害事象は、高血圧(併用群10.2% vs. 単剤群2.0%)、嘔気(37.0% vs. 27.2%)、grade 3以上(43.1% vs. 32.1%)を含む好中球減少症(62.2% vs. 51.2%)であり、併用時には、これらの有害事象の発現に特に注意が必要である。なお、治療期間中に併用群の患者の29.3%、単剤群の患者の19.5%で顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)製剤が投与された。また併用群の患者の 48.4%でBEV関連の有害事象が認められた。
FTD/TPI+BEV併用療法については、強力な治療が不適当と考えられる切除不能大腸癌の初回治療としてフルオロピリミジン+BEV併用療法と比較する第III相試験が行われたが、主要評価項目であるPFSにおいて優越性を示すことができなかった3。また、フルオロピリミジン、オキサリプラチンに不応となった切除不能大腸癌に対する二次治療として、標準治療であるフルオロピリミジン+イリノテカン+BEV併用療法と比較した第II/III相試験において、主要評価項目であるOSにおける非劣性を証明することができなかった4。以上より、FTD/TPI+BEV併用療法の有効性はオキサリプラチン、フルオロピリミジン、イリノテカンに不応となった切除不能大腸癌患者においてのみ示されているという点に注意を要する。また、Regorafenibとの優越性に関しては、直接比較試験がなく臨床上の課題である。