このたび、大腸癌治療ガイドライン医師用2022年版の「切除不能進行再発大腸癌に対する薬物療法」に追記すべき臨床試験の結果が報告されましたので、下記の情報提供を行います。
なお、「切除不能進行再発大腸癌に対する薬物療法のアルゴリズム」中における位置づけ等の詳細については、次回のガイドライン改訂の際にガイドライン内で解説する予定です。
論文名 | Panitumumab vs Bevacizumab Added to Standard First-line Chemotherapy and Overall Survival Among Patients With RAS Wild-type, Left-Sided Metastatic Colorectal Cancer: A Randomized Clinical Trial. |
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掲載雑誌名 | JAMA 2023; 329(15): 1271-1282 |
著者名 | Watanabe J, et al. |
試験のスポンサー名 | 武田薬品工業株式会社 |
PARADIGM試験は、RAS野生型の切除不能進行・再発大腸癌患者を対象として、一次治療の標準治療であるmFOLFOX6(オキサリプラチン 85 mg/m2, l-ロイコボリン、200 mg/m2、フルオロウラシル400 mg/m2ボーラス投与、2400 mg/m246時間持続投与)とベバシズマブ(5 mg/kg)併用療法(以下、ベバシズマブ群)に対する、mFOLFOX6とパニツムマブ(6 mg/kg)併用療法(以下、パニツムマブ群)の優越性を検証した国内ランダム化比較第Ⅲ相試験である。主な登録基準はRAS野生型、20~79歳、ECOG PS 0~1、化学療法未治療例であり、層別因子は、施設、年齢、肝転移の有無であった。当初、主要評価項目は原発巣の局在を問わないRAS野生型のすべての症例の全生存期間(OS)であったが、1回目の中間解析前、独立データ監視委員会のデータレビュー後の2度のプロトコル改訂が行われ、最終的な主要評価項目は、左側大腸癌おけるOSとされ、左側大腸癌におけるパニツムマブ群の優越性が検証された場合に、全体集団におけるOSの検証を行う階層的検定手順がとられた。副次評価項目は、無増悪生存期間(PFS)、奏効割合(RR)、奏効期間、治癒切除への移行割合など、探索的評価項目はearly tumor shrinkage (ETS)*1、depth of response(DpR)*2、有害事象などであった。
2015年5月から2017年6月までの間に、国内197 施設、 823 人の参加者が1:1に無作為化された。21例が除外され、解析対象集団はパニツムマブ群400 例、ベバシズマブ群402例で、左側原発症例はそれぞれ、312例、292例であった。2022年1月14日をデータカットオフ日としたフォローアップ期間中央値5.1年での解析において、主要評価項目とされた左側原発症例におけるOS中央値が、パニツムマブ群37.9カ月、ベバシズマブ群34.3カ月と統計学的に有意な差を示した(ハザード比( HR ) 0.82、95.798% CI 0.68-0.99、P = 0.03)。全体集団でも同様に有意差を示し、両群のOS中央値はそれぞれ36.2カ月 vs. 31.3カ月(HR 0.84、 95% CI 0.72-0.98、P = 0.03)であった。主な副次評価項目について、PFSは左側大腸癌で中央値13.1カ月vs. 11.9カ月(HR 1.00、95% CI 0.83-1.20)、全体集団で12.2カ月 vs. 11.4カ月と差を認めなかった(HR 1.05、95% CI 0.90-1.24)。パニツムマブ群とベバシズマブ群のRRは、左側大腸癌ではそれぞれ80.2% vs. 68.6%、治癒切除移行割合は18.3% vs. 11.6%であった。Grade 3以上の有害事象の発現割合は、パニツムマブ群71.8%、ベバシズマブ群64.9%であった。治療関連死はパニツムマブ群10例(うち4名は間質性肺疾患)、ベバシズマブ群2例であった。パニツムマブ群とベバシズマブ群で特徴的な有害事象はそれぞれ、ざ瘡様皮膚炎 (74.8% vs. 3.2%)、爪囲炎 (52.0% vs. 4.9%)、皮膚乾燥 (46.0% vs. 9.6%)、および低マグネシウム血症 (30.0% vs. 1.7%) 、高血圧(1.7% vs. 18.9%)、鼻出血(3.2% vs. 19.9%)であった。
RAS野生型切除不能大腸癌患者において、標準的な一次治療であるmFOLFOX6へのパニツムマブの併用は、ベバシズマブの併用と比較して、左側大腸癌および全体集団のOSを有意に改善した。
本試験はRAS野生型切除不能大腸癌に対する一次治療のFOLFOX+パニツムマブ療法とFOLFOX+ベバシズマブ療法を比較した国内ランダム化第Ⅲ相試験で、主要評価項目の一つである左側大腸癌のOSはパニツムマブ群で有意に良好であった。すでに大腸癌治療ガイドライン医師用2022年版の「一次治療の方針を決定する際のプロセス」(35ページ)において、「Fit」のRAS/BRAF野生型左側の患者にはFOLFOX or FOLFIRI+抗EGFR抗体薬が推奨レジメンを推奨している。従来、この治療決定プロセスの根拠は、CALGB80405試験、FIRE3試験、PEAK試験におけるRAS変異の有無、原発巣の局在によるサブグループ解析の結果であり、いずれも後ろ向きに解析された結果やメタアナリシスに基づくコンセンサスであった1-2。本試験は、前向きに検討された初めての第Ⅲ相試験であり、現在のRAS野生型左側大腸癌の一次治療における治療選択のコンセンサスを支持するエビデンスとなった。さらに、本試験ではOS の改善は全体集団でも示されたが、右側大腸癌では有意差が認められず、Grade 3以上の有害事象の発現割合はパニツムマブ群で高い傾向であったことを考慮すれば、右側大腸癌ではベバシズマブ併用療法を推奨するという現行の「方針決定の際のプロセス」の記載を変更する必要はないと考える。
以上、PARADIGM試験は本邦発のRAS野生型左側の切除不能進行・再発大腸癌に対する一次治療のFOLFOX+抗EGFR抗体薬療法を支持する最初の前向きエビデンスであり、FOLFOX+抗EGFR抗体薬療法はこれまでのコンセンサスベースの標準治療から、より確立した治療選択となった。