このたび、大腸癌治療ガイドライン医師用2022年版の「切除不能進行・再発大腸癌に対する薬物療法」に追記すべき臨床試験の結果が報告されましたので、下記の情報提供を行います。
なお、「切除不能進行・再発大腸癌に対する薬物療法のアルゴリズム」中における位置づけ等の詳細については、次回のガイドライン改訂の際にガイドライン内で解説する予定です。
論文名 | Association of tumour mutational burden with outcomes in patients with advanced solid tumours treated with pembrolizumab: prospective biomarker analysis of the multicohort, open-label, phase 2 KEYNOTE-158 study. |
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掲載雑誌名 | Lancet Oncol. 2020; 21(10): 1353-1365 |
著者名 | Marabelle A, et al. |
試験のスポンサー名 | Merck Sharp & Dohme社 |
KEYNOTE-158試験1 は、標準的治療に不応または不耐の*進行・再発の固形癌患者を対象として、ペムブロリズマブ療法(200 mg/回、3週間間隔)の有効性と安全性を検討する国際共同第Ⅱ相試験である。FoundationOne CDxにより測定されるTMBスコア(5%以上のアレル頻度で検出された同義変異及び非同義変異から、生殖細胞系列の変異及び既知又は機能的意義があると考えられる変異を除いた百万塩基あたりの変異の数)が10 mut/Mb以上の場合をTMB-Highと定義し、解析計画に従って、がん種別に分けられたグループA~J**に登録された固形癌患者について検討が行われた。主要評価項目は、RECIST v1.1に基づく独立中央判定による客観的奏効割合(ORR)とされた。
2016年1月から2019年6月までの間に、1073例が登録された。2019年6月27日をデータカットオフ日とした中間解析において、少なくとも登録後26週以上経過した1050例のうち、TMBスコアが評価可能であった790例が有効性評価対象集団とされた。主要評価項目とされたORRは、TMB-High群(102例、全体の13%)で29%(95%信頼区間:21-39)、Non TMB-High群で6%(95%信頼区間:5-8)であった。
安全性解析対象集団(TMB-High、105例)におけるグレード3以上の有害事象の発現割合は15%であり、大腸炎を2例に認めた。ペムブロリズマブ療法と因果関係のある有害事象による死亡は、間質性肺疾患1例であった。
標準的治療に不応または不耐の進行・再発固形癌に対するペムブロリズマブ療法の有効性を検討したKEYNOTE-158 試験において、TMB-highを有する患者はペムブロリズマブ療法が有効なサブグループであることが示された。
上記の臨床試験結果に基づき、本邦において2022年2月に、ペムブロリズマブ(商品名:キイトルーダ)の効能・効果に「がん化学療法後に増悪したTMB-Highを有する進行・再発の固形癌(標準的な治療が困難な場合に限る)」が追加された。なお、添付文書の「効能又は効果に関連する注意」には、以下のように記載されている。
また、TMB-Highを有する進行・再発固形癌に対するペムブロリズマブのコンパニオン診断薬等として、「FoundationOne CDx がんゲノムプロファイル」が承認されている。
KEYNOTE-158試験の追加解析から、FoundationOne CDxによりTMBスコア10 mut/Mb以上の標準的治療に不応または不耐の進行・再発固形癌に対し、ペムブロリズマブ療法の有効性が示された。TMB-Highに免疫チェックポイント阻害薬が効きやすい根拠として、腫瘍における TMB が高くなるにつれ、ネオアンチゲンがより 多く産生され、活性化された細胞傷害性 T 細胞に富む微小環境が形成されることなどが報告されている。このTMBと免疫微小環境との関係はがん種横断的に差異は少ないと想定されることから、がん種横断的な効能・効果で承認された。KEYNOTE-158試験には大腸癌患者は含まれていないため、大腸癌患者に対する実際の治療効果は不明な点も多いものの、対象が標準的治療に不応または不耐であることを考慮すれば、TMB-High大腸癌に対しても、ペムブロリズマブを治療選択肢として提供することは妥当と考えられる。
FoundantionOne CDxが実施された22,590例の大腸癌の検討2では、MSI-High 5.3%、TMB-High約11.5%と報告されている。ミスマッチ修復機能欠損(dMMR)を背景とするMSI-High大腸癌は、その大部分がTMB-Highを有することから、Non MSI-HighかつTMB-Highは約6%を占めることになる。MSI-High大腸癌は、すでに免疫チェックポイント阻害薬の有効性が確立されており、今回の適応拡大を受けて、さらにNon MSI-HighかつTMB-Highが新たにペムブロリズマブの投与対象となり得る。
しかしながら、Memorial Sloan-Kettering Cancer Centerから報告されている後方視的検討3では、免疫チェックポイント阻害薬が投与された大腸癌137例において、TMB-High (TMBスコア 10 mut/Mb 以上)は10 mut/Mb未満と比較して有意に全生存期間(OS)が良好であった(中央値43.1カ月 vs. 12.1カ月、ハザード比0.40、95%信頼区間:0.24-0.65)一方、サブグループ解析において、dMMR例(36例)およびDNAポリメラーゼ校正機能異常例(POLD1もしくはPOLE遺伝子の異常あり、4例)を除くTMB-High患者(13例)と、Non TMB-High(84例)との間でOSに差が認められなかった(ハザード比1.17、95%信頼区間:0.59―2.32、OS中央値はいずれも未到達)。また、TMB-High(TMBスコア 9 mut/Mb以上)の大腸癌を対象としたペムブロリズマブ療法の前向き試験(TAPUR試験)4では、奏効率、病勢制御率はそれぞれ11%(3/27例)、28%(8/27例)と報告され、続いて行われたイピリムマブ+ニボルマブ療法の前向き試験(TAPUR試験)5においても奏効率、病勢制御率ともに10%(1/10例)と治療効果は限定的であり、中間解析にて試験は無効中止となったことが報告されている。これらの結果もふまえ、NCCNガイドライン(version 1.2022)では大腸癌実地診療おけるTMB検査は推奨されていない。以上より、TMB-High大腸癌のうちNon MSI-Highの患者に対するペムブロリズマブの有効性は明らかでなく、治療効果の大きさの評価にはさらなるデータの蓄積が必要である。
大腸癌治療ガイドライン2022年版では、一次治療開始後から後方治療移行時までの適切な時期に包括的がんゲノムプロファイリング検査を行うことが推奨されている(CQ24)。今回、ペムブロリズマブのコンパニオン診断薬等として、「FoundationOne CDx がんゲノムプロファイル」が承認されている。一方、「OncoGuide™ NCCオンコパネルシステム」でも、TMB-Highと判定されエキスパートパネルにより適切であると判断された場合には、あらためてコンパニオン検査を行うことなくペムブロリズマブの投与が可能である(令和元年6月4日疑義解釈資料)。ただし、検査法によりTMBスコアの算出方法が異なる可能性があることには留意が必要である。なお、両検査ともにPOLD1およびPOLEは変異解析対象遺伝子に含まれている。
以上より、フッ化ピリミジン、オキサリプラチン、イリノテカンなどの標準的な治療に不応または不耐のTMB-High大腸癌に対するペムブロリズマブ療法は、治療選択肢として考慮される。TMB-Highを探索する目的でも包括的がんゲノムプロファイリング検査は有用であり、Non MSI-Highの大腸癌患者の約6%にTMB-Highが認められ、ペムブロリズマブ投与の検討の対象となり得る。ただし、TMB-High大腸癌のうちNon MSI-Highの患者に対するペムブロリズマブ療法は、実際のTMBスコア、DNAポリメラーゼ校正関連遺伝子異常の有無などから期待される効果を推定し、FTD/TPIやレゴラフェニブなどの他の治療選択肢、想定される有害事象等による不利益も考慮して、その適応を慎重に判断する必要がある。