包括的がんゲノムプロファイリング検査(以下、CGP検査)は、2018年12月に「OncoGuide™ NCCオンコパネルシステム」と「FoundationOne® CDx がんゲノムプロファイル」が薬事承認され、2019年7月より保険適用となった。CGP検査は、がんゲノム医療中核拠点病院、がんゲノム医療連携拠点病院、がんゲノム医療連携病院でのみ実施可能とされ、本検査の実施に係る留意事項には、「標準治療がない固形がん患者又は局所進行若しくは転移が認められ標準治療が終了となった固形がん患者(終了が見込まれる者を含む。)であって、関連学会の化学療法に関するガイドライン等に基づき、全身状態及び臓器機能等から、本検査施行後に化学療法の適応となる可能性が高いと主治医が判断した者に対して実施する場合に限り算定できる。」と記載されている(保医発0531第1号 令和元年5月31日)。なお、標準治療の終了が見込まれる者とは、「医学的判断に基づき、主治医が標準治療の終了が見込まれると判断した者。」を指すとされている(疑義解釈資料 令和元年8月26日)。
「大腸癌治療ガイドライン医師用2019年版」には、CGP検査について記載がないことから、大腸癌患者におけるCGP検査の適応および検査のタイミングについて、ガイドライン委員会の見解を以下に示す。
(1)がんゲノム医療を希望する患者に対し、がんゲノム医療中核拠点病院等が十分な説明を行い、同意を得た上で、既存検体を用意する。
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(2)検体をもとに、当該病院や衛生研究所などで「遺伝子情報」(塩基配列など)を分析し、その結果を「がんゲノム情報管理センター」(C-CAT)に送付する。
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(3)中核拠点病院等は、患者の臨床情報(患者の年齢や性別、がんの種類、化学療法の内容と効果、有害事象の有無、病理検査情報など)もあわせてC-CATに送付する。
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(4)C-CATでは、保有するがんゲノム情報のデータベース(がんゲノム情報レポジトリー・がん知識データベース)に照らし、当該患者のがん治療に有効と考えられる抗がん剤候補や臨床試験・治験情報などの情報を中核拠点病院の専門家会議(エキスパートパネル)に返送する。
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(5)中核拠点病院等の専門家会議(エキスパートパネル)において、C-CATの解析結果を踏まえて当該患者に最適な治療法を選択し、十分な説明を行った上で、これに基づいた医療の提供を検討する。
なお、2020年9月現在、保険適用されている検査は以下の2つである。
① OncoGuide™ NCCオンコパネルシステム
腫瘍組織より抽出されたDNAと患者白血球由来のDNAをそれぞれシークエンスして結果を比較し、腫瘍特異的な遺伝子異常を正確に捉える仕組みをとっている。腫瘍組織より抽出されたDNA中の114の、がん関連遺伝子における遺伝子異常と12の融合遺伝子異常、およびTumor mutation burden(TMB)を解析できる。
② FoundationOne® CDx がんゲノムプロファイル
腫瘍組織より抽出されたDNA中の、324のがん関連遺伝子における変異プロファイルの取得に加えて、大腸癌ではKRAS/NRASの遺伝子変異がセツキシマブ、パニツムマブのコンパニオン診断用医薬品とされている。ただし、コンパニオン診断の目的で本検査を実施した場合に、包括的がんゲノムプロファイリング検査としての保険請求を同時には算定することはできない。Genomic Findingsとして上記の遺伝子異常を検出するとともに、Biomarker Findingsとしてマイクロサテライト不安定性(MSI)、TMBを解析することができる。
なお、検査の詳細については、次世代シークエンサー等を用いた遺伝子パネル検査に基づくがん診療ガイダンス(日本臨床腫瘍学会/日本癌治療学会/日本癌学会)、大腸がん遺伝子関連検査等のガイダンス(日本臨床腫瘍学会)等も参照のこと。
CGP検査の目的は、多数の遺伝子を網羅的に解析するゲノムプロファイルから治療方針策定の補助となる遺伝子異常の情報を得て、最適ながん薬物療法を提供することである。大腸癌では、CGP検査を実施しエキスパートパネルで推奨された場合、NTRK融合遺伝子陽性例にはエヌトレクチニブ療法(保険診療)、HER2増幅例にはHER2標的療法(保険未適用のため治験等のもとでの投与)、ROS1融合遺伝子陽性例はROS1阻害薬(保険未適用のため治験等の活用)などの医療を提供できる可能性がある。ただし、各遺伝子異常の頻度は低く、これらに対する治療薬と標準治療の有用性を直接比較したデータはない。また、CGP検査の実施施設、対応する治験の実施施設も限定されている。
CGP検査の実施上の留意事項に、「全身状態及び臓器機能等から本検査施行後に化学療法の適応となる可能性が高い」との記載があることから、CGP検査の実施を検討する際に、すでにECOG PSが不良、重度の肝機能障害、腎機能障害などで回復の見込みがない場合には、CGP検査の適応はないと考えられる。また、CGP検査の有益性を最大限高めるためには、検査結果返却までに通常4週間以上を要することを考慮して、検査のタイミングを判断する必要がある。
具体的には、「大腸癌治療ガイドライン医師用2019年版」に後方ライン治療の治療選択肢として記載されているREGおよびFTD/TPIは、プラセボとのランダム化比較試験において、その無増悪生存期間中央値の延長は約2カ月と報告されており、これらの後方ライン治療中または終了した時点で本検査を実施した場合、結果返却までに患者の全身状態が悪化し、CGP検査で有望な治療が提案されたとしても実際に治療を受ける機会を逸する可能性が懸念される。
以上より、切除不能進行再発大腸癌の患者に対しCGP検査を行う場合には、二次治療開始から後方ライン治療移行までの間に実施することが望ましい。ただし、腫瘍量や疾患進行の速度には個体差が大きいことを十分考慮し、患者の病態に応じたタイミングで本検査を実施することが適切である。さらに、実地臨床において本検査を患者に提案する際には、実際にCGP検査を受けた患者のうち治験に参加できる患者の割合は5%未満と報告されていること、治験実施施設への通院などの患者負担についても配慮する必要がある。