当院では2008年11月より盲腸からの抜去時には,NBIによる観察を行ってきた。白色光観察による平坦・陥凹型腫瘍の発見は困難であり,淡い発赤などの色調差,血管透見像の消失,粘膜不整など,わずかな粘膜異常を捉えるというプロセスの眼が必要であった。NBIが登場した当時の課題であった光量不足は,現在のハイビジョンスコープや光源装置の開発により,視野良好のもとbrownish areaに注目した観察により,多くのⅡcやLST-NGが発見されつつある。本病変では,陥凹面は褪色調で,陥凹辺縁隆起部はbrownishに認識され,この所見をO-ring signと呼び,NBI観察によるⅡc発見のマーカーとしている。
47歳,男性。
A:NBI観察下で発見された横行結腸の5mm径陥凹型腫瘍(Ⅱc)。陥凹面は褪色調であるのに対し,陥凹辺縁の反応性隆起部はVesselが強調して認められる。われわれは,この所見をNBI観察下におけるⅡc発見のマーカーとしてO-ring signと呼んでいる。
B:色調差に乏しい淡い発赤の病変であり白色光観察での発見は困難。
C:インジゴカルミン色素散布後の内視鏡像。陥凹面が強調されⅡcの認識が容易化。
D:NBI拡大観察。JNET分類では,陥凹面のVessel patternでは点状の分布がみられ,Type2Aと診断。Surface patternは整でありType2Aと診断。
E・F:インジゴカルミン色素散布,クリスタルバイオレット染色下拡大観察ともに,小型ⅢL型pitとⅢs型pitで構成されており,総合診断は粘膜内病変としてEMRを施行。
G・H:EMR切除標本のHE染色像。組織診断は高度異型腺腫と診断。
NBI観察により発見された1mmの高分化腺癌であるが,図Cの黄色矢印に示すように白色光では認識困難である。図Eに示すように陥凹面は棘状不整であり純粋なⅡc型とはいえない。
63歳,男性。
A:NBI観察下で発見された横行結腸の微小病変。
B:NBI拡大観察。
C:白色光観察では,病変の認識は困難である(黄色矢印)。
D:インジゴカルミン色素散布下の内視鏡像。
E:色素散布下拡大観察。星芒状陥凹面には小型ⅢL~Ⅲs型pit,辺縁隆起部にはⅢL型pitを認める。
F:チューブ先端径と比較して腫瘍径1mmと判定。
G:組織ルーペ像(H&E染色)。腫瘍直下の粘膜下層にリンパ球集簇がみられる。
H:10数腺管の腫瘍腺管からなり,中央の腺管では高分化管状腺癌,その辺縁には高度異型腺腫を認める。
I:高分化腺癌の拡大像。
NBI観察により発見された2mmのびらん様の腫瘍性病変である。陥凹面はびらんの白苔として認識され,その周囲の反応性隆起部にも通常の陥凹型腫瘍でみられるⅢL様の反応性pitはみられず,Ⅰ型pitとして認識される。これらの所見からは,炎症によるびらん性変化と思われたが,図Dに示す陥凹面にはⅢs型pitを認め,腫瘍性病変の診断のもと内視鏡治療を施行した。
58歳,男性。
A:NBI観察下で発見された横行結腸の微小陥凹型腫瘍。
B:白色光観察。
C:インジゴカルミン色素散布下拡大観察。
D:クリスタルバイオレット染色下拡大観察。陥凹型腫瘍の多くは陥凹辺縁隆起部にはⅢL様pitを多く認めるが,本症例ではⅠ型pitで構成されており,陥凹面のみにⅢs型pitを認める。
E:陥凹に一致して腫瘍腺管を認める。辺縁の非腫瘍腺管では反応性の過形成腺管として認められる。
F,G:高度異型腺腫の組織像。
横行結腸にNBI観察で発見された4mmのⅡa+Ⅱc型腫瘍であり,O-ring signとして認識される。
63歳,男性。
A:NBI観察によるO-ring signで発見された横行結腸の腫瘍径4mm,Ⅱa+Ⅱc型の陥凹型腫瘍。陥凹面のVesselは乏しく,JNET分類のType2Aと診断。
B:白色光でも発見可能な病変。
C,D:インジゴカルミン色素散布下拡大観察(C)。クリスタルバイオレット染色下拡大観察(D)。C・Dともに陥凹面はⅢs型pitが認められる。
E:組織ルーペ像(H&E染色)。
F:核の類円形化と腺管の構造異型がみられ,高度異型腺腫と診断。
横行結腸に発見された大きさ5mmのⅡa+Ⅱc型腫瘍である。色素散布により陥凹面が強調されⅡa+Ⅱc型またはⅠs+Ⅱc型腫瘍と認識できるが,色素前の所見では単なるⅠs型の腺腫として捉えられる可能性がある。欧米では,resect & discard strategyが注目されているが,前処置不良の状態でのNBI観察,色素散布,拡大観察の使用頻度の低さから考えると,果たしてdiscardは許容されてよいものであろうか。5mm以下の病変では,転移を示すSM癌は少なく,完全摘除されることを条件にdiscardは容認されるかもしれない。しかし,本症例や1mmの病変にも腺癌は存在し,それらは陥凹を伴う病変である。
さらにいうならば,NBI,色素,拡大観察によって,微小病変の陥凹の有無や詳細な情報を得たうえでdiscardを判断すべきであり,陥凹を伴う病変については微小病変であってもdiscardは控えるべきである。
最後に,病理診断は藤盛孝博先生(神鋼記念病院病理診断センター長)に担当いただいており,discardについて,『先達の内視鏡医の名言である,あるから見えるではなく,見るからある,という言葉を内視鏡医を目指すこれからの人たちに送りたい。確かな見視観があってこそのdiscardである』という言葉をいただいた。確かな見視観,それが白色光,NBI,色素,拡大観察,すべての機能を駆使し,病理診断に近い内視鏡診断ができてこそdiscardについて,はじめて議論できるものと私は考える。
79歳,男性。
A:横行結腸に発見された5mmの腫瘍性病変。
B:インジゴカルミン色素散布にてⅡa+Ⅱc型の陥凹型腫瘍であることが明瞭となる。陥凹面は結節状に盛り上がり,Aの色素散布前には全体にⅠs型の隆起性病変として捉えられる。工藤らが提唱するNPG型Ⅰs+Ⅱc病変に進展する病変が考えられる。
C,D:組織像では陥凹部辺縁に構造異型・細胞異型から中分化管状腺癌の腺管群を認め,粘膜内病変と診断。