第17回
特殊な大腸癌の組織松原亜季子(国立がん研究センター中央病院病理科) ほか
大腸癌取扱い規約第7版補訂版では"同一の癌に腺癌と扁平上皮癌が並存するもの。両者が領域を持って存在する場合と混在する場合とがある"と定義されている。取扱い規約では成分の割合についての記載はないが,WHO分類では扁平上皮成分が小胞巣の大きさ以上であるものとされている。なお,肛門管領域を除いては純粋な扁平上皮癌は非常にまれとされている。
大腸癌取扱い規約では"痔瘻の長い既往歴がある肛門管壁内に発生する癌で,粘液癌の形態を取るものが多い"と記載されている。クローン病としばしば合併することが知られている。
内分泌方向への分化を有する癌細胞からなる腫瘍である。消化管の場合は通常型腺癌と併存する場合が多く,この場合WHO分類では混合型腺内分泌細胞癌(Mixed adenoneuroendocrine carcinoma;MANEC)と称する。診断には,各々の成分が30%以上存在し,かつ免疫染色ないし電子顕微鏡で内分泌方向への分化を確認する必要がある。
尖圭コンジローマはHPV感染を原因とする上皮の増殖性疾患であり,カリフラワー状の肉眼像を特徴とする。尖圭コンジローマでのHPV感染はtype6,11などの低悪性度のものであり,通常型扁平上皮癌でみられる高悪性度HPV(type16,18)の感染はみられない。このため扁平上皮癌には進展しないとされているが,疣状癌へのリスクは指摘されている。組織学的には,子宮頸部と同様に表層部にコイロサイトーシスを認めることが多い。
乳頭・乳輪でみられるPaget病のカウンターパートであり,全身的には乳頭,腋窩,肛門・性器周囲といったアポクリン腺領域に好発する。取扱い規約では"表皮内に明調で泡沫状の大型円形の異常上皮細胞(Paget細胞)をまばらに認める"と定義されている。扁平上皮内を非浸潤性に進展することが多いが,その本態は腺癌である。
扁平上皮基底層に存在するメラノサイト由来の悪性腫瘍で,大腸では肛門管あるいは直腸肛門管移行部に発生する。頻度はまれで肛門管腫瘍全体の1~3%とされる。中高年発生が多く,下血あるいは腫瘤を主訴とする。肉眼的には隆起性病変を示す。色素をもつ症例は診断に苦慮することはないが,もたない症例は時に低分化腺癌や悪性リンパ腫などとの鑑別を要する場合がある。
WHO分類では"Medullary carcinoma"として記載されている腫瘍で,日本の取扱い規約では低分化腺癌に分類されている。若年者から高齢者まで広い年代で発生しうるが,若年者発生例はLynch症候群(HNPCC)の可能性を考慮する必要がある。高齢者では女性の右側結腸に発生することが多い。低分化腺癌全体の中では脈管侵襲に乏しく予後良好な亜型であり,マイクロサテライト不安定性(MSI)を示すことでも知られている。
大腸癌取扱い規約には記載がないが,WHO分類の腺癌の項目にまれな腫瘍として記載がある。通常の大腸癌でも一部分所見として時に認められ,この成分の存在は脈管侵襲性が強いため予後不良とされている。組織学的に腹膜癌や卵巣漿液性腺癌との鑑別が問題となる場合もある。
大腸癌の中で少しでも細胞外粘液を伴う腫瘍は15~31%とされている。粘液癌は普通,腫瘍成分の50%以上に細胞外粘液産生を伴う腫瘍とされているため,実際に粘液癌と診断されるのはそのうちの1/2~1/3になる。粘液癌は腫瘍の構成成分により高分化型粘液癌(乳頭腺癌,高分化管状腺癌,中分化管状腺癌由来)と低分化型粘液癌(非充実型低分化腺癌,印環細胞癌)に分類される。
粘液が細胞外に貯留すれば粘液癌と呼ばれるが,腫瘍細胞が粘液分泌能力を喪失した場合は細胞内粘液が貯留することになり,印環細胞癌と呼ばれる。胃の印環細胞癌と違い,腫瘍細胞は腸の杯細胞に類似した性質をもつ。頻度はまれだが,予後はきわめて不良とされる。
取扱い規約ではその他の癌に分類され,特定方向への分化がみられない腫瘍を指す。免疫染色などにより特定の分化傾向が確認できないことと共に癌腫であることを証明することが必要である。