第15回
胃生検診断Group 2のアトラス大竹真一郎(獨協医科大学病理学(人体分子)) ほか
a:初回生検標本の弱拡大
b:初回生検標本の強拡大(この部分の深切り標本で明らかな高分化腺癌;tub1がみられた)
胃癌取扱い規約第14版に示された新Group 2の説明文にGroup 2の診断をつける場合はまずは深切り切片の作製,細胞増殖能やp53免疫染色などの追加検討を行うとある。HE染色で確信がないとき免疫染色をして診断者の考えをサポートする結果が得られたときは嬉しいものであるが逆もある。かえって迷う原因になる(実際的には薦められない)。一方,無駄なこともあるが深切り切片の作製は重要である。回数が多いと標本作製技師から嫌われるが中途半端な状態で再生検を指示して患者さんや主治医に負担をかけるよりは病理医として努力すべきところである。
a:臨床診断IIcの陥凹部から採られた生検で炎症と再生異型が目立つ。癌は考えない。異型はあるが再生上皮である。gastritis with erosion,Group 1。
b:臨床診断IIa or adenoma(ATP/IIa-subtype)の一部から採られた生検である。腸上皮化生の一部にびらんを伴う不規則な腺管がみられるが腫瘍性ではない。gastritis with intestinal metaplasia,Group 1。
c:臨床診断IIc or IIc+IIIの辺縁部から採られた生検である。bと同様に再生上皮に異型がみられる。gastritis with regenerative epithelium,Group 2と診断され,深切り標本作製した。その結果,最終診断はgastritis,Group 1であった。深切り標本の作製はこのような症例では有効である。
安易なGroup 2,indefinite for neoplasia,再生検は避けるべきである。大腸Group 2と異なり再生あるいは腸上皮化生に伴う組織異型とわかればGroup 1,gastritis(規約上はgastritis,Group 1)と診断する必要がある。
a:臨床診断IIc(前庭部大彎)からの生検でtub1と診断されたが念のために深切り標本を作製した。初回生検標本の弱拡大,再生上皮の一部に強い異型が認められる。
b:aの強拡大,悪性を疑うが標本が厚く染色も濃い。
c:a,bと同一ブロックから深切りを行った。標本の厚さ,染色性に留意した。aと同じ標本であるがこの標本からは悪性は考えにくい。
d:bと同じ標本であるがcと同様,再生上皮である。経過観察されているが悪性所見はでていない。標本の厚さや染色性が病理医の判断を間違わせることもある。標本乾燥なども取扱い上注意がいる。
a:出血性びらん,臨床診断はIIc+III疑いであった。病理診断Group 2で経過観察された。結果,次回の生検ではgastritis,Group 1であった。急性病変で出血やびらんを伴う異型は経過をみるのも一つである。深切り標本では上皮成分が消失したり深切りしても結果が変わらないことが多いので必ずしも有効とはいえない。
b:巨大皺襞の生検,臨床診断はスキルスであった。他院で中分化腺癌(tub2)と診断されていた。経過観察後,病変が消失したためセカンドオピニオンが求められた。消化管を専門にする病理医の診断は再生上皮であった。生検時の患者背景に注意が必要である。
c:巨大潰瘍で3型進行癌が疑われた。生検診断は潰瘍瘢痕もしくは潰瘍底組織に低分化腺癌の浸潤ありと診断された。潰瘍底組織もまた深切り標本が役に立たないことが多い。リンパ腫か癌,炎症性細胞浸潤か悪性腫瘍の浸潤かなどの鑑別には時に免疫染色が威力を発揮する。ulcer bed tissue and ulcer edge,Group 2(特殊染色を行い検討する)の診断をpreliminary reportとし免疫染色を行った。本例は良性潰瘍と診断され,経過も良好である。別の症例では癌の浸潤や悪性リンパ腫と診断された症例もあった。Group 2の診断が臨床医にどのように受け止められるかは病理医の熱意と会話である。