第13回
大腸(小腸含む):B細胞性リンパ腫以外のリンパ球炎症性病変冨田茂樹(獨協医科大学病理学(人体・分子) 准教授)
大腸粘膜内にリンパ濾胞を有するポリープ病変H.E.染色(a)。淡い胚中心領域*を有する二次リンパ濾胞は大腸粘膜側に極性をもって存在しているH.E.染色(b)。bと同部の胚中心は胚中心細胞マーカー CD10陽性(c)であるが濾胞リンパ腫からクローニングされた抗アポトーシス因子であるBCL-2が陰性(d)。(CD10およびBCL-2が同時に陽性であれば濾胞リンパ腫である。参照:『大腸癌FRONTIER』Vol.3 No.4, p12, 2010)。
直腸における隆起性病変として存在する反応性病変。近年リンパ節における胚中心進展性異形成との類似性が注目されている。部分的に不明瞭な大小不同を呈する濾胞構造から構成される病変。拡大した濾胞構造はマントル層細胞が外方へ圧迫されているH.E.染色弱拡大(a),強拡大(b)。BCL-2(c)陰性,CD10(d)陽性の胚中心細胞*は部分的に,マントル層細胞が濾胞中心部へ入り込み断片化されている(←で囲まれた部分)。CD10と同じく濾胞細胞マーカーであるBCL-6(e)陽性胚中心領域の断片化が明瞭化する。
大腸におけるT/NK細胞リンパ腫はB細胞性リンパ腫に比較してまれである。びまん性に増殖するリンパ球に全層性置換された腸管像。H.E.染色(a)。濾胞構造が明らかでなく,小型リンパ球のびまん性増殖像。H.E.染色(b),汎T細胞マーカー CD3陽性(c),T細胞分画マーカー CD4陰性(d),CD8陽性(e),NK/T細胞マーカー CD56陽性(f)からは本検体は腸管症型T細胞リンパ腫(TypeII)である。通常T細胞リンパ腫は予後不良因子となるcytotoxic granule(g,h,i)発現を確認するが,本検体はいずれも陽性で予後不良であった。
免疫不全に随伴した吸収不良症候群症例の回腸部粘膜。鈍化した上皮下にリンパ球の集簇像を認めると同時に,部分的に上皮内に介在するリンパ球(intraepithelial lymphocyte;IEL)。H.E.染色弱拡大(a),強拡大(b)。上皮性マーカー AE1/3陽性(c)でCD10陽性の刷子縁(d)が保たれた上皮成分内に介在する小リンパ球 IEL。IELは汎B細胞マーカー CD20陰性(e),汎T細胞マーカー CD3陽性(f),T細胞分画マーカー CD4陰性(g),CD8陽性(f)で腸管症型enteropathy-type(celiac disease:グルテン過敏性腸症)と同様なリンパ球である。
難治性下痢症を呈した症例の回腸部粘膜。H.E.染色(a)。上皮は鈍化し,間質にリンパ球を主体とする炎症性細胞浸潤を認める。内視鏡的には異常が不明瞭なことが多くlymphocytic(microscopic)colitisと呼称されている。このような症例では臨床病理学的にWhipple's disease,collagenous colitisとの鑑別が必要である。Whipple's diseaseではTropheryma whiplleiの存在を反映する微細顆粒状灰白色細胞質を有する細胞の集簇像*(b)。一方,collagenous colitisでは表層上皮の剥離▼▲や10μm以上の膠原線維束(collagenous band,←)の確認がそれぞれ必要である(c)。
吸収不良症候群症例の回腸部粘膜。鈍化,平坦化した上皮下にリンパ球の集簇像とともに陰窩1個あたり15個以上のintraepithelial lymphocyteを認めるtropical sprue 症例。H.E.染色弱拡大(a),強拡大(b)。グルテン制限食で絨毛構造の改善効果を呈したceliac disease症例(c:制限食事療法前,d:制限食事療法5年後)。