第11回
虫垂腫瘍性病変大倉康男(杏林大学医学部病理学教室 教授)
粘液嚢胞腺腫(mucinous cystadenoma)は,虫垂では通常の腺腫に比べて頻度が高い。さまざまな程度に拡張した嚢胞性病変であり,内腔には粘液が貯留している。組織学的には,丈が高く,分岐増生を示す異型上皮が嚢胞壁に認められる。本例のように管状絨毛構造を示すものが多い。核は重層性がみられ,核・細胞質比は中等度の増加を示す。通常の腺腫と同様の組織像であるが,細胞内粘液が豊富なために異型度は低めに捉えられる。粘液量を考慮した細胞異型度の判定が必要である。また,嚢胞内に粘液貯留が著明な場合には腫瘍上皮が脱落していることが多い。上皮が確認できない場合を想定して標本作製を多めにする必要がある。
虫垂全体が嚢胞状に拡張した病変であり,粘液嚢腫(mucocele)と呼ばれる所見を示している。嚢胞内面に細胞内粘液が豊富な1層の高円柱上皮がみられ,一部に小乳頭状構造が認められる。核は重層性を軽度に示す。平坦な部分では腫瘍性かどうかの判断が難しいところがある。一部に小乳頭状構造がみられたこと,細胞異型の所見から,粘液嚢胞腺腫と診断している。嚢胞内の粘液量はさまざまであるが,粘液が多く,拡張したものでは,上皮が萎縮あるいは脱落しているために,病変の質的判定に苦慮することがある。
虫垂体部から尾部に広がる腫瘍性病変であり,漿膜側に浸潤し,粘液結節の形成がみられる。粘膜内には管状絨毛構造を示す腫瘍腺管が密在する。核の重層性がみられ,核・細胞質比は中等度から高度の増加を示す。細胞内粘液が豊富な腺管がみられる。粘膜部の細胞異型度が高度な腺管と同様の腫瘍腺管が不規則な分岐増生を示して浸潤し,周囲間質には線維増生がみられる。高異型度の腫瘍腺管は癌と判定され,腺腫成分を伴う粘液嚢胞腺癌である。
虫垂全体に腫瘍がみられる。不規則な分岐増生を示す異型腺管がみられ,虫垂壁内に進展している。異型腺管の核は腫大し,大小不同,配列の乱れがみられる。核・細胞質比は高度の増加を示す。腺癌の所見である。癌腺管は粘液産生が豊富であり,壁内に粘液貯留が認められる。
虫垂のほぼ全体に腫瘍がみられる。割面では大小の多房性の粘液結節がみられる。粘液産生が豊富な異型腺管が不規則な分岐を伴い嚢胞状に拡張し,浸潤している。内腔に多量の粘液が貯留し,粘液結節を形成している。異型腺管の核は軽度の腫大を示し,軽度の重層性にみられるが,核・細胞質比は軽度から中等度の増加である。癌の異型所見は認められず,粘液嚢胞腺腫と診断される。腫瘍腺管は虫垂壁内から漿膜側に広がり,粘液結節の形成が認められる。臨床的に腹膜偽粘液腫と診断されるが,合致する所見である。組織学的に悪性所見はみられないが,臨床的には悪性とされる病変である。