第9回
肛門管病変稲次直樹(医療法人健生会奈良大腸肛門病センター 顧問)ほか
総排泄孔の遺残上皮に由来する癌と考えられており,皮膚の基底細胞癌に類似するため類基底細胞癌と呼ばれる。その成因にはhuman papilloma virus(HPV)16,18の関与が指摘されている。類基底細胞癌の発生頻度は,欧米では肛門管癌の20~30%,本邦では1.6%(鮫島伸一ら,2005)と報告されている。組織学的に充実性腫瘍胞巣を形成し,胞巣の辺縁で核の柵状配列を有し部分的に角化を伴う場合が多い。転移能をもつ腫瘍で,基底細胞癌とは病態が異なり扁平上皮癌の亜型とみなされる。
乳房外Paget病のひとつで,肛門部に発生したものをいい,本邦において乳房外Paget病の5.2~19.8%(大原國章,1996),肛門部悪性腫瘍の0.6%(隅越幸男,1982)との報告がある。組織学的には,豊富で淡明な細胞質と明瞭な核小体・不整な類円形核を有するPaget細胞が,肥厚した表皮内に孤在性ないし集塊を形成し増殖する。また,時に腺腔形成や印環細胞の形態を示すこともある。腫瘍細胞が表皮基底膜を破って表皮下に増殖・浸潤すればPaget癌と呼ばれる。
直腸・肛門管癌が肛門扁平上皮内に連続性に上皮内進展し,Paget病と同様の組織像を呈することがある。これはPagetoid spreadと呼ばれる。免疫染色では通常,Paget病はGCDFP(gross cystic disease fluid protein)15陽性・CK(cytokeratin)20陰性で,直腸・肛門管癌のPagetoid spreadではGCDFP 15陰性・CK20陽性となり両者は鑑別される。
Bowen病は,表皮内扁平上皮癌(上皮内癌)で臨床的一表現型にすぎない。成因にHPVとの関連が示唆されており,中でもHPV16,18が関係するといわれている。緩徐に発育する腫瘍で,高齢者に多く,通常は体幹の皮膚に好発する。肛門部での発生はまれで,全Bowen病のうち肛門部に発生するものは0.23%(江川清文,1999),肛門部悪性腫瘍の2.4%(松田圭二ら,2003)と報告がある。
組織学的に,異型細胞が上皮全層にわたって密に増殖し,多核細胞(clumping cell)・異常角化細胞(dyskeratotic cell)がみられることを特徴とする。
痔瘻癌は男性に多く,長期経過した痔瘻に合併する癌で,特に10年以上の経過例に多い。組織学的に痔瘻の癌化を証明することは困難で,有痛性硬結の存在・コロイド物質の排出・近傍に原発の癌がない・瘻管開口部が肛門管ないし肛門陰窩にある,などの臨床的定義(隅越幸男,1981)で診断される。肛門部悪性腫瘍の6.9%(鮫島伸一ら,2005)と報告がある。組織型は粘液癌が多く,その他には高分化型腺癌,扁平上皮癌,印環細胞癌もみられ,瘻管壁とそれに連続する癌を認める。早期診断が困難で,進行して発見されることが多い。
肛門腺を発生母地とした癌で,粘液癌が多い。肛門腺は加齢により扁平上皮化生をきたし扁平上皮癌が発生することもある。病変は主に管外性に発育することから早期発見が困難な腫瘍である。肛門部悪性腫瘍の14.7%(鮫島伸一ら,2005)と報告がある。肛門腺由来の肛門管癌の診断には肛門腺内に上皮内癌を証明することが重要で,肛門腺を置換するような癌細胞が認められれば診断は可能である。
免疫染色では通常,肛門腺由来腺癌ではCK7陽性・CK20陰性,直腸型腺癌ではCK7陰性・CK20陽性となる。