第8回
大腸内分泌細胞腫瘍岩下明徳(福岡大学筑紫病院病理部・病院長)ほか
a :内視鏡的粘膜下層剥離術にて切除された直腸カルチノイドのルーペ像。腫瘍は粘膜下層を主体に発育している。
b,c:比較的小型で均一な腫瘍細胞が索状,小胞巣状を呈する(HE染色,×100)。
d :Grimelius染色では細胞質内に茶褐色調の顆粒がみられ(←),好銀性細胞(argyrophil cell)を確認できる(Grimelius,×200)。
e :免疫組織化学的に神経内分泌マーカーのうちのひとつであるsynaptophysinがびまん性に陽性を示す(synaptophysin,×100)。
カルチノイド腫瘍は原腸系臓器に広く分布するアミン・ペプタイド産生内分泌細胞の幼弱細胞に起源する腫瘍,つまり内分泌細胞から構成され特異な組織像を示す上皮性腫瘍で,悪性度の低い一種の癌腫と位置づけられている。大腸では直腸に好発し,肉眼的に黄色調を呈する粘膜下腫瘍の形態をとる。組織学的には比較的小型で均一な腫瘍細胞が索状,リボン状,そして小胞巣状を呈し,間質は狭く毛細血管に富む特徴的な形態をとる。核分裂像はほとんどみられず,Ki-67 labeling indexも1.0%以下である。予後は比較的良好であるが,大きさや深達度によっては脈管侵襲や転移をきたす。
a,b:中等度異型を示す管状腺腫と並存し,内分泌細胞癌が脈管を介し漿膜下層まで浸潤している(←)(b:HE染色,×25)。
c,d:腫瘍はシート状,充実結節状に増殖している(HE染色,×50)。
e,f:腫瘍内に壊死巣や扁平上皮化生がみられる(HE染色,×50)。
内分泌細胞癌は先行する粘膜内高・中分化型管状腺癌の癌腺管深部内に,腺癌細胞の分化により出現する増殖能の高い腫瘍性内分泌細胞の塊状増殖により,腺内分泌細胞癌を経て形成される場合が最も多いと考えられている。発生頻度は全大腸悪性腫瘍中0.1~1.0%程度の比較的まれな癌で,発生部位は直腸,S状結腸,盲腸の順に多い。組織学的に腫瘍細胞は高N/C比で細胞質に乏しく,核は円形から短紡錘形で大小不同や多形性が目立つ。充実結節状,シート状に増殖し偽ロゼット構造や壊死巣を伴う。まれに内分泌細胞癌細胞の扁平上皮化生もみられる。核分裂像は多く,細胞増殖能も高い。腺癌・腺腫との並存と組織学的移行部が観察される場合がある。高率に脈管侵襲や転移をきたすため予後不良である。
g :癌細胞は弱好酸性の細胞質と円形から短紡錘形の核を有し,核小体は目立たない。多数の核分裂像がみられる(HE染色,×200)。
h :免疫組織化学的染色では,CD56がびまん性に陽性を示す(CD56,×100)。
a :杯細胞カルチノイドが虫垂の粘膜深層から粘膜下層以下を中心に全層に浸潤している(HE染色,×10)。
b :杯細胞ないし印環細胞類似の細胞が,小充実胞巣状に配列している(HE染色,×100)。
c :一部では非杯細胞性腫瘍細胞が小腺管状に配列している(HE染色,×50)。
d :GrimeliusとAlcian blueの重染色を行うと,おそらく粘液と好銀性顆粒を同時に有する細胞を認める(←)(Grimelius-alcian blue重染色,×200)。
e,f:静脈侵襲やリンパ節転移がみられる(e:Victoria blue-HE染色, ×50, f:HE染色,×25)。
杯細胞カルチノイドは虫垂のみに発生し,カルチノイド類似像と腺癌類似像の両方を有するまれな腫瘍である。組織学的にほぼ均一に小型で,弱好酸性の細胞質をもつ細胞と杯細胞ないし印環細胞類似の細胞が,小充実胞巣状,索状,一部腺管状に配列し,その主座は粘膜深層から粘膜下層以下に存在する。これら腫瘍細胞は粘液産生細胞,好銀性細胞,銀還元性細胞,Paneth細胞,粘液と銀顆粒を同一胞体内に有する細胞など種々の成熟型細胞からなる。神経周囲浸潤,脈管侵襲や転移をきたしその予後は通常のカルチノイドに比べてかなり悪いため,腺癌の一種と考えられる。