第7回

化学療法後の肝
Chemotherapy-Associated Liver Damage

小池淳樹(聖マリアンナ医科大学診断病理学 准教授)ほか

1.FOLFOX化学療法後の肝障害,極型例

FOLFOX化学療法後の肝障害,極型例FOLFOX化学療法後の肝障害,極型例
FOLFOX化学療法後の肝障害,極型例FOLFOX化学療法後の肝障害,極型例

mFOLFOX6を12コース後に大腸癌肝転移を切除した症例(いわゆるBlue liverの症例)。化学療法後肝障害の極型例と考えられる。弱拡大では,斑状の類洞の拡張(←)が認められ,peliosis hepatis様の嚢胞様拡張をみる類洞(*)も観察される。病変の分布は,肝小葉の中間帯にみられることが多いが,中心静脈周囲や門脈域周辺にみられることもある。(HE染色,対物レンズ×10)

同症例の病変部を拡大すると,拡張した類洞内には,赤血球のほか,紡錘形細胞や単核球のうっ滞が認められる。また,剖検肝でみられることの多い肝細胞索と類洞内皮との解離(Disse腔の拡大と解釈される)が観察される。(HE染色,対物レンズ×40)

2.FOLFOX化学療法後の肝障害,典型例1

FOLFOX化学療法後の肝障害,典型例1FOLFOX化学療法後の肝障害,典型例1
FOLFOX化学療法後の肝障害,典型例1FOLFOX化学療法後の肝障害,典型例1

mFOLFOX6を7コース後に大腸癌肝転移を切除した症例。極型例のような嚢胞状拡張は認められないが,中間帯を主体とする斑状の類洞の拡張がみられ,病変内の肝細胞索には著明な萎縮が認められる。拡張した類洞内に赤血球が充満し,pinkishにみえる(*)。(Masson trichrome染色,対物レンズ×4)

同症例の病変部分には,細網線維の集積(←)が認められ,類洞の拡張とともに肝小葉の萎縮が示唆される。(鍍銀染色,対物レンズ×10)

2.FOLFOX化学療法後の肝障害,典型例1の続き

FOLFOX化学療法後の肝障害,典型例1の続きFOLFOX化学療法後の肝障害,典型例1の続き
FOLFOX化学療法後の肝障害,典型例1の続きFOLFOX化学療法後の肝障害,典型例1の続き
FOLFOX化学療法後の肝障害,典型例1の続きFOLFOX化学療法後の肝障害,典型例1の続き
FOLFOX化学療法後の肝障害,典型例1の続きFOLFOX化学療法後の肝障害,典型例1の続き

障害部と非障害部の境界を観察すると,非障害部に比較して障害部の肝細胞索の萎縮が顕著で,類洞の拡張とうっ血が明らかであることがわかる。(HE染色,対物レンズ×20)

類洞内皮細胞の分布をCD4の免疫染色標本で観察すると,非障害部の類洞にはCD4陽性血管内皮細胞の被覆が確認されるのに対し(←),障害部ではこれが消失している(*)ことがわかり,この病変が内皮細胞障害を伴うものであることが理解できる。[免疫染色(CD4),対物レンズ×40]

障害部にはCD68陽性のマクロファージの集積がみられる。[免疫染色(CD68),対物レンズ×20]

肝細胞索の著明な萎縮と肝細胞索間のうっ血が認められ,内腔の高度の狭窄あるいは閉塞を伴う類洞毛細血管が観察される(←)。FOLFOX肝障害は,類洞内皮細胞の障害によるDisse腔の拡大が関与している可能性が示唆される。(Masson trichrome染色,対物レンズ×100)

3.FOLFOX化学療法後の肝障害,典型例2

FOLFOX化学療法後の肝障害,典型例2FOLFOX化学療法後の肝障害,典型例2
FOLFOX化学療法後の肝障害,典型例2FOLFOX化学療法後の肝障害,典型例2
FOLFOX化学療法後の肝障害,典型例2FOLFOX化学療法後の肝障害,典型例2

mFOLFOX6を12コース後に大腸癌肝転移を切除した症例。中心静脈周囲から小葉辺縁に沿うように類洞の拡張と肝細胞索の萎縮が認められる。(HE染色,対物レンズ×20)

同症例の同部位をMasson trichrome染色で観察すると,中心静脈周辺(中心帯)優位の肝細胞障害が認められ,Disse腔の拡大を伴っていることがわかる(←)。(Masson trichrome染色,対物レンズ×20)

同症例の同部位を鍍銀染色で観察すると,障害部位に一致した細胞線維の集積が認められ,病変を認識しやすい。(鍍銀染色,対物レンズ×20)

4.化学療法後の肝障害,化学療法関連脂肪性肝炎が疑われた例

化学療法後の肝障害,化学療法関連脂肪性肝炎が疑われた例化学療法後の肝障害,化学療法関連脂肪性肝炎が疑われた例
化学療法後の肝障害,化学療法関連脂肪性肝炎が疑われた例化学療法後の肝障害,化学療法関連脂肪性肝炎が疑われた例
化学療法後の肝障害,化学療法関連脂肪性肝炎が疑われた例化学療法後の肝障害,化学療法関連脂肪性肝炎が疑われた例
化学療法後の肝障害,化学療法関連脂肪性肝炎が疑われた例化学療法後の肝障害,化学療法関連脂肪性肝炎が疑われた例

化学療法関連脂肪性肝炎はFOLFIRIに起因することが多いとされるが,本例はmFOLFOX6による脂肪性肝炎が疑われた。

mFOLFOX6を6コース後に大腸癌肝転移を切除した症例。弱拡大では,中(肝細胞核より大きく正常肝細胞よりは小さい)から大(肝細胞より大きい)滴性の脂肪沈着が,小葉の1/3~1/2の面積を占める程度で認められる。(HE染色,対物レンズ×20)

同症例の拡大像では,多くの肝細胞内に脂肪滴が充満しており,類洞の狭小化を伴っている。一部の類洞内には,好中球を主体とする炎症細胞の停滞(←)が認められ,脂肪性肝炎[特に非アルコール性脂肪性肝炎(non-alcoholic steatohepatitis;NASH)]の像に類似している。(HE染色,対物レンズ×40)

鍍銀染色では,門脈域と中心静脈を橋渡しするような,小葉を分断する架橋形成性線維化(←)が認められる。(鍍銀染色,対物レンズ×20)

Masson trichrome染色では,一部に類洞壁の肥厚や肝細胞を取り囲むように進展する繊細な線維化が認められ(←),アルコール性肝線維症(alcoholic liver fibrosis;ALF)あるいは非アルコール性脂肪性肝疾患(non-alcoholic fatty liver disease;NAFLD)の線維化の特徴に類似している。(Masson trichrome染色,対物レンズ×20)

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