第6回
癌以外の悪性腫瘍三富弘之(順天堂大学医学部人体病理病態学講座 先任准教授)ほか
消化管に発生する悪性リンパ腫のうち,大腸に発生するものは約17%と少ない。その中では,びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫(DLBCL)が最も多く,次いで節外性粘膜関連リンパ組織型濾胞辺縁帯B細胞性リンパ腫(MALTリンパ腫)が多く,頻度はきわめて低いがマントル細胞リンパ腫,濾胞性リンパ腫,T細胞性リンパ腫も発生する(二村ら,胃と腸 41,2006)。DLBCLの腫瘍細胞は小型リンパ球の2倍を超える大きさの核,あるいは組織球とほぼ同大か,それよりも大きな核を有する大型細胞のびまん性増殖を特徴とし,胚中心芽細胞型,免疫芽球型,多型型などの亜型が存在する(阿部,病理と臨床 21,2003)。
本邦報告例の集計(嶋田ら,外科治療 80,1999)では,消化管原発の悪性黒色腫の発生部位は直腸肛門部300例,食道143例,小腸9例,結腸5例,胃2例で,海外報告例においても結腸原発悪性黒色腫はきわめて少ない(Avitalら,Am Surg 70,2004)。悪性黒色腫の典型的な組織像は,細胞質内にメラニンを有し,好酸性大型の核小体と時に核溝や核内偽封入体を伴う多形性の目立つ腫瘍細胞の増生とされるが,悪性黒色腫には多様な組織像を呈することがあり,組織診断に苦慮することも少なくない。腫瘍細胞は小型リンパ球様から大型多核細胞まで,細胞質は好酸性,好塩基性,泡沫状,淡明,印環細胞様,横紋筋芽細胞様などが存在し,細胞質内のメラニンの量も核が同定できないほど多量のものからまったくないもの(無色素性悪性黒色腫)まで,さらに細胞増殖形態も偽腺管様,偽乳頭状,索状,血管周皮腫様などさまざまな形態をとる(Rosaiら,2004)。
GISTは消化管の間葉系腫瘍の大部分を占める一つの腫瘍単位で,高頻度にc-kit遺伝子の機能獲得性突然変異を有しており,消化管運動のペースメーカー細胞であるカハールの介在細胞を起源とする腫瘍との考え方もある(廣田,胃と腸 36,2001)。発生部位別にみると胃が約70%,小腸が20~30%,食道と大腸は10%以下と少ない(長谷川,病理と臨床 20,2002)。組織学的には紡錘細胞型と上皮様細胞型に分けられ,前者が70~80%で,後者が20~30%を占める。前者では紡錘形の腫瘍細胞が,錯綜する束状,渦巻き状,花むしろ状配列をとりながら増生する。核は両端が鈍な細長い葉巻状,細胞質は好酸性で,核の柵状配列や核周囲の空胞化もみられる。一方,後者は好酸性~空胞状,あるいは淡明で豊富な胞体をもつ上皮様の腫瘍細胞が充実性あるいは粘液腫状間質を伴ってシート状に配列する(大重ら,胃と腸 43,2008)。確定診断にはこのような組織像の詳細な観察に加え,c-kit遺伝子産物(KITレセプター;CD117)あるいはCD34の免疫染色での陽性所見の確認が必須である。GISTの悪性度の評価として,腫瘍径2cm以上,高細胞密度,高倍率50視野で5個以上の核分裂像の存在,細胞増殖活性の指標となるKi-67免疫染Fでの標識率の評価が有用とされる。
わが国の消化管カルチノイド腫瘍は大腸に最も多く(岩渕ら,胃と腸 24,1989),大腸内では99%以上が直腸に発生する(斉藤ら,胃と腸 40,2005)。2000年に示された大腸内分泌腫瘍のWHO分類では,高分化型内分泌細胞腫瘍,低分化(小細胞)型神経内分泌腫瘍,大細胞神経内分泌癌の3つに分類されており,カルチノイド腫瘍は高分化型内分泌細胞腫瘍に相当する(Capellaら,2000)。カルチノイド腫瘍は小型で均一な腫瘍細胞からなり,細胞質は弱好酸性微細顆粒状,核は均一小型の円形~卵円形で微細な染色質を有し,核分裂像はほとんどみられない。腫瘍胞巣は個細胞~小集団,索状,吻合リボン状,結節状,腺房・腺管状,シート状と多彩であるが,Sogaらの分類(Cancer 28,1971;A型:充実結節状,B型:索状・吻合リボン状,C型:腺房・腺管状,ロゼット様)が一般に受け入れられている(岩下ら,胃と腸 40,2005)。