第5回
進行癌味岡洋一(新潟大学大学院医歯学総合研究科分子・診断病理学分野 教授)
大腸癌取扱い規約第7版(2006年3月)から新たに加えられた組織型。乳頭状(絨毛状)・鋸歯状構造を示す癌であり,第7版以前の規約では高分化腺癌に含まれていた。鋸歯状腺腫と同様に胃型粘液形質を高発現し,進行癌では大量の細胞外粘液を産生して粘液癌の形態をとることも多い。鋸歯状構造を呈するものでは発育深部で脱分化(低分化化)傾向がある。純粋乳頭腺癌はまれで,大部分は高分化管状腺癌と混在または連続している。実際の病理診断ではpap-tub1という表現が妥当と思われる。
腺管形成の明らかな癌で,進行大腸癌の大部分を占める。明瞭で大きな,または分岐・癒合が目立たない管状構造を呈するものは高分化,腺管癒合・腺管内腺管構造・篩状構造を呈するものや,中型~小型管状構造からなるものは中分化とされる。しかし,両者の厳密な区別が困難なものも少なくなく,そうした病変に対して筆者はtub1-tub2という組織分類名を用いている。また,ほとんどの進行癌では両者が混在しており,病理診断に際しては,tub1>tub2など,その多寡を表現することが好ましい。
大腸癌取扱い規約第7版から,胃癌と同様に,充実型(solid type)と非充実型(non-solid type)とに亜分類された。充実型は非充実型に比べ予後良好だが,充実型の中には高悪性度の内分泌細胞癌が含まれている可能性があるので注意を要する(後述する免疫染色などで確認する必要がある)。進行大腸癌の非充実型では癌細胞が個々ばらばらになるものは少なく,微小不整腺管を形成するものや胞巣状構造または索状構造を示すものが主体である。
多量の細胞外粘液の産生により粘液結節を形成する癌。「多量」の定義が曖昧なため,病理医により診断が一致しない可能性が高い組織型である。一般には,粘液結節が病変最大割面で半分以上の面積を占めるもの,とされているが,面積の母数に残存粘膜内部も含めるかどうかによっても診断は異なる。大腸癌取扱い規約第7版では,高分化型腺癌(pap,tub1,tub2)に由来するものと低分化型腺癌(por2,sig)に由来するものとがあるとしている。筆者は,粘液癌を単独の組織診断名としては用いず,由来癌組織型にmucを付記している("pap-tub1,muc"など)。
細胞内に粘液が貯留し印環状形態を呈する癌。大腸癌では印環細胞癌の頻度はきわめて低く,生検で印環細胞癌を認めた場合は,胃癌の転移・播種を第一に考える必要がある。大腸原発の印環細胞癌はそのほとんどが粘液結節を形成し,いわゆる粘液癌の形態をとる。
カルチノイドとともに,神経内分泌顆粒を産生する腫瘍。カルチノイドに比べ異型は強く悪性度も高い。脈管侵襲が高度で肝転移やリンパ節転移をきたすことが多い。好酸性の細胞質と大きさがほぼ均一な小型~中型核をもつ癌細胞が,充実胞巣状~シート状に増生し,血管間質に富む。腺癌に由来すると考えられている。低分化腺癌充実型との鑑別には,クロモグラニンA,NCAM,シナプトフィジン,NSA等の神経内分泌マーカーの免疫染色や電顕的検索で神経内分泌顆粒を証明する必要がある。
大腸粘膜に発生することはきわめてまれ。日常経験する扁平上皮癌は,肛門管や肛門皮膚に発生した扁平上皮癌の直腸側進展であるが,一般の扁平上皮癌に比べ角化に乏しい傾向があり,癌真珠を認めることは少ない。組織診断に際しては単細胞角化の有無に注目する。