第1回
大腸非腫瘍性ポリープ西上隆之ほか(兵庫医科大学病理学(分子病理部門) 教育教授)
わが国に多い疾患で,胃・小腸・大腸に多発性のポリープがみられる。臨床的には手足の爪の萎縮,脱毛,皮膚の色素沈着,味覚異常,吸収不良などを認める。遺伝性疾患ではないが,胃癌を7.5%,大腸癌を15%合併する1)。組織学的には嚢胞状に拡張した腺管がみられる。若年性ポリープの組織像に似るが,本症ではポリープ以外の粘膜にも,拡張した腺管を認めることで鑑別可能である。
若年に多いが高齢者にみられることもある。直腸,S状結腸に好発し,臨床的に血便,肛門からの脱出をみる。ポリープがある程度の大きさになると有茎性となる。組織学的には,異型をみない嚢胞状に拡張した腺管が特徴的で,表層上皮は剥離している。したがって,毛細血管の増生,炎症細胞浸潤がみられる。多発性の場合,約1/3に家族歴がみられ,常染色体優性遺伝を示す。PTEN遺伝子2)やSMAD4遺伝子の異常を認める。単発のものは良性であるが,多発の場合,約20%に癌化が報告されている3)。
胃から直腸までの消化管ポリープと,手掌,足底および口唇を含む口腔粘膜の色素沈着を特徴とする,常染色体優性遺伝のPeutz-Jeghers症候群にみられるポリープであるが,本症候群を伴わない場合もある。消化管や他臓器に癌を合併する頻度が高い4)。組織学的には過形成を示す腺管の増生と,粘膜筋板の樹枝状増生が特徴で,腺管が粘膜下層,固有筋層内に迷入することがある。大きさに比例し悪性腫瘍の合併頻度が増すといわれているので,若年でもポリープが大きい場合,注意が必要である。
本症は1985年にWilliams5)らにより提唱された疾患概念である。臨床的には発赤,蛸いぼ状,芋虫状の隆起で表面に白苔が付着する。芋虫状隆起が大きいと大腸癌と紛らわしいことがある。直腸,S状結腸に多くみられ,時にスキップしてみられる。粘膜脱症候群(MPS)の一亜型と考える学者もいるが,上行結腸や胃に発生した症例もみられるので,関連がないと考える学者が増えている。組織学的には,表層上皮は剥離していることが多く,表層にはリンパ球を中心とする炎症細胞浸潤を伴う肉芽組織がみられ,その下方に過形成腺管を認める。
粘膜と粘膜下層からなる長い有茎性ポリープで,ポリープ先端部は通常正常上皮で被覆されている。組織学的には浮腫状の疎性結合織や線維化を認める粘膜下層からなり,拡張した血管やリンパ管を伴うことが特徴である。
大腸または小腸の粘膜下,または膜下に含気性の嚢胞状の気腫が形成される病態である。誘因としてトリクロルエチレンなどの有機溶剤などの慢性曝露,膠原病,ステロイド投与,腸管内圧の上昇,慢性閉塞性呼吸器疾患などがあげられるが,誘因が特定できないものがある。組織学的には嚢胞状空隙および嚢胞周囲の組織球,異物型の多核巨細胞の集簇を認めることがある。
大量または反復性の消化管出血の原因となる。海綿状血管腫が最も多く,その他,毛細血管性血管腫,静脈性血管腫がある。
本疾患は成熟脂肪細胞よりなり,多くは粘膜下層に主座をみる。腫瘤が大きくなると腸重積をきたし,表層上皮が欠損し,表面に肉芽を形成する。その所見で脂肪肉腫と診断されることがあるが,腸管の脂肪肉腫はきわめてまれなので,脂肪肉腫の診断は慎重にする必要がある。
多くは5mm以下の比較的小さな白色,扁平なポリープで,直腸,S状結腸に好発する。時に右側結腸に10mm以上の大きいものをみることがある。組織学的には,粘膜筋板の疎開を伴い,腺管の延長,腺腔の拡大および弱好酸性の細胞質を有する上皮が鋸歯状を呈する。また,杯細胞の著明な減少をみる。
本症は排便時の過度のいきみによって粘膜脱が生じ,血流障害によって発症すると考えられている。好発部位は直腸前壁で肛門縁から4~10cmに好発するが,隆起型は直腸下部に多い。組織学的には線維筋症と表現される平滑筋,線維組織の増生および血管の増生である。潰瘍型では潰瘍周囲の幼若な再生腺管は杯細胞の減少,配列の乱れを示し,悪性と見誤られることがある。
多くは先天的なリンパ管系の組織奇形と考えられている。無症状で発見されることがほとんどである。内視鏡所見としては,表面平滑で軟らかい腫瘍で,色調はやや蒼白ないし灰白調である。