特別講義
大腸SM癌の種々相藤盛孝博(獨協医科大学病理学教授)
※1~8 〔藤盛孝博(著):消化管の病理学(第2版),p29-34,第2章 大腸SM癌の取扱い,b.大腸SM癌の種々相,医学書院,2008より許諾を得て掲載〕
リンパ節転移は陰性。浸潤実測値を基準線から測定するか粘膜筋板破壊例として表層から測定するかが難しい。aはHE 染色,bはp53 染色である。病巣中心部の粘膜筋板は消失している。このような症例では脈管内浸潤や簇出といった所見も慎重に評価する必要がある。
検体の大きさは,9×5×5 mm 2分割で切り出し。(a)と(b)は連続切片でミラーになっている。それぞれで浸潤距離と脈管侵襲の所見が異なる。特殊な症例であるが遠隔転移(肺)が認められた。↑は拡大した脈管で内皮細胞が確認できる。
aとbで浸潤距離が異なる。aの測定が正しいと思うが本例では脈管侵襲の評価が重要であった。
注意:粘膜筋板を無理に想定しないこと!
紛らわしい病変は粘膜筋板判定不能病変とすること(aの測定)
破線が粘膜筋板の連続性を点で追ったものであるが←→部分は粘膜筋板が破壊されており,本例もこの部分は表層からの測定が望ましい。本例はリンパ節転移陰性であったが,脈管内侵襲は陽性であった。budding/sprouting(簇出)は陰性であった。SM, massive + budding/sprouting, negative
a : HE 染色,b : desmin 染色。粘膜筋板破壊例でリンパ節転移陽性であった。脈管内侵襲も陽性であった。基準線が引けない症例である。これらを有茎性の粘膜筋板錯走と同じ基準線を引いては絶対にいけない症例である。浸潤実測値は表層から測定した。潰瘍を形成する病変では,腫瘍部が脱落しているので腫瘍の浸潤実測値を比較検討する臨床的意義はないであろう(図2-15)。
本例はリンパ濾胞の存在と,粘膜筋板がわずかに残っていた症例である。病巣としては潰瘍形成性病変であり,組織からも浸出物の被覆と間質における肉芽組織が認められる。図の右半分は肉芽組織に埋没した癌組織である。潰瘍形成と粘膜筋板の成り立ちから考えると,別の面では粘膜下に粘膜筋板を破壊して増殖していることが想定される。しかも脈管内侵襲陽性である。このような症例の取扱いには注意が必要であるが,潰瘍形成性の病変を粘膜切除しないという基本的な考え方が重要なのかもしれない。本例はリンパ節転移陽性である。
リンパ節転移を認めた症例であるが,組織像の優位性をもって組織型を決定すると,本例は高分化腺癌であった。しかし,粘膜部に低分化腺癌が増生しており,明らかに通常の大腸癌とは異なる。組織型決定に優位性よりも浸潤部での簇出を重要視する理由と同じである。大腸SM 癌プロジェクト症例の中で課題を提供した症例であった。
a~dは大腸粘膜下浸潤癌の取扱いに必要な特殊染色である。
〔大腸癌研究会(編):大腸癌取扱い規約. 第7版補訂版, p41, 図14 SM癌の浸潤距離の測定法,
金原出版, 2009をもとに作成〕
*head invasionとそれ以外でリンパ節転移のあったものは,いずれも脈管侵襲陽性であった。(Kitajima K, et al: J Gastroenterol. 2004;39:534-43, 2004より改変引用)
有茎性の診断は内視鏡診断であること,非有茎性での粘膜筋板同定困難な症例は,無理に粘膜筋板を推定しないで表層から浸潤距離を測定すること,などが注意事項としてあげられる。仮に,浸潤距離を深く測定したとしても表の結果でわかるように,SM2以深は浸潤距離でリンパ節転移率は変化しない。SM2では簇出が大切である。有茎性の基準線が粘膜筋板の上端ではなく,Haggitt level 2,内視鏡的にみた頭部下端にあることに注意がいる。現状では有茎性でも粘膜筋板が明らかであればその下から浸潤距離を実測することになっている。基準線を設けるのはあくまで有茎性で頭部の癌巣が粘膜筋板や間質が錯綜することによって実測の出発点がみとめられない,あるいは難しい症例(粘膜筋板錯綜例)では基準線から測定することになっている。今後有茎とそれ以外に分けること,有茎では全例で基準線から測定するということも検討する必要があるであろう。