この度、2017年1月から杉原健一前会長の後任として大腸癌研究会会長を拝命しました渡邉聡明でございます。これまで日本の大腸癌の研究・臨床の発展に中心的役割を果たしてきた大腸癌研究会の会長を務めさせて頂くことは、極めて光栄であるとともに、その責務の重さに身の引き締まる思いでおります。
本研究会が行ってきた活動を代表するものとして大腸癌取り扱い規約があります。1977年に陣内伝之助初代会長により大腸癌取り扱い規約第1版が上梓されました。それ以来、我が国における大腸癌の診療・研究はまさにこの取り扱い規約を「共通言語」として用い、発展してきたことは皆様周知のところであります。取り扱い規約はその後改訂され、2011年には第8版が発刊されました。現在は、2018年発刊を目指すべく取り扱い規約第9版の改訂作業が進められています。現在、世界で広く用いられているTNM分類がある中で、日本の規約をどの様に位置づけるのかが問題となり、規約改定委員会を中心として改訂準備が進められています。研究会では臨床上の大きな指針として、ガイドラインも発刊しています。ガイドラインはこれまで、我が国における大腸癌診療の均てん化に大きな役割を果たしてきたと思います。今でこそ多くのガイドラインが用いられていますが、以前はガイドラインの作成に慎重な意見も多くありました。その様な中、大腸癌研究会では2005年に大腸癌治療ガイドライン初版を発刊し、2006年には一般向けの「大腸癌治療ガイドラインの解説」も発刊いたしました。大腸癌治療ガイドラインはその後、診療方針の変化に対応するため2009年、2010年、2014年、2016年に改訂版が発刊されました。さらに、2010年版、2014年版、2016年版に対しては英語版も発表され、海外に向けても本邦の治療体系が紹介され、実際に多くの英文論文のこのガイドラインは引用されています。さらに、遺伝性大腸癌に対するガイドラインも発刊され日常診療への指針が示されています。
もう一つの本研究会の大きな柱がプロジェクト研究です。プロジェクト研究である特定の疑問に答えるべく期限を決めて取り組みを行っています。2017年1月現在、9つのプロジェクト研究が進行中であります。これまでに多くのプロジェクト研究が立ち上がり、様々なクリニカルクエスチョンに対する検討が行われ、方針が示されてきました。大腸癌の発生から診断、治療に至るまで幅広い内容の研究が行われております。
近年の内視鏡的治療やステント技術の向上、化学療法や放射線療法の進歩などに伴い、大腸癌に対するmultidisciplinaryな診療の重要性が高まっております。当研究会では以前より内科系や外科系のみならず病理系、放射線系の施設にも幅広くご参加頂き、領域を越えた横断的な研究・議論を行って参りました。今後もこういった様々の領域の先生方のお力添えを頂きまして、これまで諸先輩方が積み上げてこられた研究成果を元に、大腸癌研究会がさらなる飛躍を遂げることを目指し会長就任のご挨拶とさせて頂きます。