2007年1月から、武藤徹一郎前会長から大腸癌研究会の会長を引きつぎました。歴史ある、また、日本の大腸癌の研究・臨床の基礎や方向性を牽引している大腸癌研究会の会長を務めることは、非常に光栄であると共に重責を感じています。
大腸癌研究会は「大腸癌に関する研究を行い、その診断ならびに治療の進歩を測ることを目的」として、1973年に設立されました。その後、大腸癌取扱い規約を作成し、共通の基準で手術所見や病理所見を記載することにより、大腸癌の病態を明らかにし、治療法の改善と成績の向上に寄与してきました。これら諸先輩の努力により、日本の大腸癌の診断・治療は世界のトップレベルに達しています。
陣内伝之助初代会長の書かれた大腸癌取扱い規約の初版の序には「すべてこの種の規約の作成は現時点に即してなされるもので、いったん決定してもその後における学問の発展、手術の進歩に伴って補正されてゆくべきもので」と記載されています。この理念に従って、規約の不備な点、不明確な点、また、学問や臨床の進歩に伴い新たに出現した問題点などを解決すべく、委員会やプロジェクト研究が設置され、熱心な活動が繰り広げられ、2006年3月には「大腸癌取扱い規約 第7版」が出版されました。現在、7つの委員会と12のプロジェクト研究がさらなる問題の解決に当たっています。この他にも、早急に解決すべき問題もあり、新たなプロジェクトを立ち上げる予定です。
前述しましたように日本の大腸癌の診断・治療は世界のトップレベルです。正確に述べますと、学会や大腸癌研究会、英文論文で紹介される大腸癌治療専門施設での大腸癌の診断や治療は世界のトップレベルです。また、これらの大腸癌治療専門家の間には治療方針に一定のコンセンサスが得られています。しかし、近年急増した大腸癌の多くは必ずしも大腸癌を専門としている施設で治療を受けているとは限りません。このことから、大腸癌研究会では、日本全体の大腸癌治療の改善に向けて「大腸癌治療ガイドライン 医師用2005年版」を、また、一般向けに「大腸癌治療ガイドラインの解説」の作成を企画し、前者は2005年7月に、後者は2006年1月に出版されました。今後は様々な手段を通じて、この標準治療や治療方針の普及に努める必要があります。幸い両者とも売れ行きは好調で、2007年1月現在「大腸癌治療ガイドライン 医師用2005年版」は21,000冊、「大腸癌治療ガイドラインの解説」は19,000冊販売されています。
大腸癌研究会は、これまで大腸癌の診断や治療法、病理所見の記載法に関する検討を行いながら、リンパ節の郭清範囲の妥当性を示すことにより、外科治療成績の向上に寄与してきました。近年、前向き試験の重要性が認識されるようになり、武藤前会長の頃から前向き試験の検討が行われてきました。今後はそれを具体化し、標準治療を念頭に置いたエビデンス作りの臨床試験を行いたいと思います。
また、インターネットが情報交換の場としてますます重要性が増してきています。日本の大腸癌の研究・臨床の基礎や方向性を牽引している大腸癌研究会として、それらの情報の発信基となるべくホームページの充実をはかることにより、研究会に参加している方々ばかりでなく、大腸癌の研究・診療に従事している方々、さらには一般の人々にも多くの情報を伝えてゆきたいと思います。