各論
1 Stage 0~Stage Ⅲ大腸癌の治療方針
1)内視鏡治療
適応の原則
リンパ節転移の可能性がほとんどなく,腫瘍が一括切除できる大きさと部位にある。
内視鏡的切除の適応基準
(1)粘膜内癌,粘膜下層への軽度浸潤癌。
(2)大きさは問わない。
(3)肉眼型は問わない。
- 本法は内視鏡的に大腸の病巣部を切除し,切除組織を回収する方法である。
- 治療法にはスネアポリペクトミー(ポリペクトミー)注1,内視鏡的粘膜切除術(EMR:endoscopic mucosal resection)注2と内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD:endoscopic submucosal dissection)注3,また,ESDの亜型としてprecutting EMR注4,hybrid ESD注5がある。
- 内視鏡治療の適応と治療法を決める際には,腫瘍の大きさ,予測壁深達度,形態に関する情報が不可欠である。
注 1 ポリペクトミー
病巣茎部にスネアをかけて高周波電流によって焼灼切除する方法。主として隆起型病変に用いられる。
注 2 EMR
粘膜下層に生理食塩水などを局注して病巣を挙上させ,ポリペクトミーの手技により焼灼切除する方法。スネア法,吸引キャップ法(EMRC),などがある。主として表面型腫瘍や大きな無茎性病変に用いられる。
注 3 ESD
病変周囲,粘膜下層にヒアルロン酸ナトリウム溶液などを局注して病巣を挙上させ,専用のナイフで病変周辺の切開,粘膜下層の剝離を進め腫瘍を一括切除する手技である。主として,EMRで一括切除できない大きな腫瘍,特に早期癌が適応である。
注 4 Precutting EMR
ESD用ナイフあるいはスネア先端を用いて病変周囲切開後,粘膜下層の剝離を全く行わずにスネアリングを施行する手技。
注 5 Hybrid ESD
ESD専用ナイフあるいはスネア先端を用いて病変周囲切開後,粘膜下層の剝離操作を行い最終的にスネアリングを施行する手技。
コメント
①内視鏡的切除の目的には診断と治療の両面がある。本法は切除生検(excisional biopsy)であり,切除標本の組織学的検索によって治療の根治性と外科的追加腸切除の必要性を判定する。(CQ 1)
②cT1高度浸潤癌の診断指標として,「緊満感,びらん,潰瘍,ヒダ集中,変形・硬化像」などの内視鏡所見,X線造影検査,色素内視鏡観察,NBI/BLIなどの画像強調観察6),拡大内視鏡観察,内視鏡超音波検査所見などを参考にする。
③内視鏡的切除後の治療方針の決定に際しては,切除標本の緻密な組織学的検索が必須である。そのため,下記の点に留意する。
- ポリペクトミー標本では切除断端に墨汁などによるマーキングを施し,切除断端を含む最大割面を観察する。
- EMR標本やESD標本では切除標本を伸展固定し,粘膜筋板と垂直な割面を作製する。
- 治療内容(切除法,併用療法の有無,一括切除か分割切除か,その選択理由など)と切除標本の肉眼所見を記載することが望ましい。
④切除断端および最深部の癌浸潤状況を正確に診断するには,一括切除が望ましい。
- ポリペクトミーやスネアEMRで無理なく一括切除できる限界は2 cmである。(CQ 2)
- 大腸のESDは,2012年4月に「早期悪性腫瘍」に対して保険適用が認可された「大きさにかかわらず一括切除が可能な内視鏡的切除手技」であるが,技術的難易度が高く合併症(穿孔)の危険性が高いので,施行術者の技量を考慮して施行する。径2~5 cmまでの病変が保険適用になっていたが,2018年4月の改訂で腫瘍径の上限が撤廃され,また適応が最大径2 cm以上の早期大腸癌となった。2 cm以下でも線維化を伴う早期大腸癌も適用になっている。(CQ 2)
- EMR using a cap(EMRC)は,結腸病変に用いると穿孔の危険性が高いとする報告がある。
- 術前診断で腺腫に伴う癌(粘膜内癌)と確信できれば癌部の分断を避け腺腫部分に関しての分割切除を行ってもよいが,一般的に分割切除では不完全切除率が高く,局所再発率が高いことに留意する。また正確な組織学的判定が困難となるような多分割切除は避けるべきである。
⑤内視鏡的切除後は,切除局所を詳細に観察し遺残病変の有無を確認する。
- 遺残病変の診断には色素撒布・拡大観察が有用である。
- 粘膜内病変の遺残があれば追加治療(内視鏡的追加切除,ホットバイオプシー,焼灼など)を行う。
⑥内視鏡治療後の経過観察
- pTis癌で分割切除,水平断端陽性の場合には,6カ月前後に大腸内視鏡検査にて局所再発の有無を調べる。(CQ 3)
- pT1癌で経過観察する例では,局所再発のみでなくリンパ節再発や遠隔転移再発の検索も必要であり,内視鏡検査に加えてCT検査などの画像診断や腫瘍マーカーなどを用いた経過観察が必要である。(CQ 3)
- pT1癌内視鏡治療後の再発は3年以内であることが多いが,それ以上遅れて再発することもあり注意が必要である。
2)手術治療
手術の原則
- 大腸癌手術におけるリンパ節郭清度は,術前の臨床所見(c)および術中所見(s)によるリンパ節転移の有無と腫瘍の壁深達度から決定する。
- 術前・術中診断でリンパ節転移を認める,または疑う場合は,D3郭清を行う。
- 術前・術中診断でリンパ節転移を認めない場合は,壁深達度に応じたリンパ節郭清を行う。
- (1)
- pTis癌はリンパ節転移をきたさないのでリンパ節郭清の必要はないが(D0), cTis癌で腸管切除を行う場合にはD1郭清を行ってもよい。
- (2)
- pT1癌には約10%のリンパ節転移があること,中間リンパ節転移も約2%あること(表3)から,cT1癌ではD2郭清が必要である。
- (3)
- cT2癌の郭清範囲を規定するエビデンスは乏しいが,少なくともD2郭清が必要である。しかし,pT2癌には主リンパ節転移が約1%あること(表3),および術前深達度診断の精度を考慮し,D3郭清を行ってもよい。
- 直腸癌における側方郭清の適応については,CQ 5を参照。
直腸癌の手術治療
- 直腸切除の原則は,TME(total mesorectal excision)またはTSME(tumor-specific mesorectal excision)である。
〔括約筋温存の適応基準〕
- 腫瘍学的に遺残のない切除(肛門側切離端・外科剝離面ともに陰性=DM0,RM0)が可能であること,術後の肛門機能が保たれることが,括約筋温存の適応の必要条件である。
〔自律神経温存〕
- 癌の進行度,肉眼的な神経浸潤の有無などを考慮して,根治性を損なわない範囲で,排尿機能,性機能温存のため自律神経の温存に努める。
〔側方郭清の適応基準〕
- 側方郭清の適応基準は,腫瘍下縁が腹膜反転部より肛門側にあり,かつ壁深達度がT3以深の症例である。(CQ 5)
腹腔鏡下手術
- 腹腔鏡下手術の適応は,癌の部位や進行度などの腫瘍側要因および肥満,開腹歴などの患者側要因だけでなく,術者の経験,技量を考慮して決定する。(CQ 4)
コメント
〔切離腸管長〕
①D1,D2,D3郭清では,『大腸癌取扱い規約』に定める腸管傍リンパ節が郭清されるよう,切離腸管長を決定する。
②結腸癌における腸管傍リンパ節の範囲は,腫瘍と支配動脈の位置関係によって定義される。腫瘍辺縁から10 cm以上離れた腸管傍リンパ節の転移は稀である。現在,大腸癌研究会プロジェクト研究として,転移陽性の腸管傍リンパ節と原発巣との距離に関する多施設コホート研究が進行中である。
③直腸癌における腸管傍リンパ節の範囲は,口側は最下S状結腸動脈流入点,肛門側は腫瘍辺縁からの距離によって定義される。cStage 0~cStage Ⅲの症例では,RS癌およびRa癌で3 cm以上,Rb癌で2 cmを超える直腸壁内および間膜内の肛門側進展は稀であることから,切離腸管長および直腸間膜の切離長は,この範囲を含む遠位(肛門側)切離端を確保することを目安に決定する。
④pT4,pN2,M1(Stage Ⅳ),低分化な組織型の直腸癌症例では肛門側進展を有する頻度が高く,進展距離が長い傾向があることに留意する。
〔TME/TSME〕
- 直腸間膜全切除(TME)とは肛門管直上までの直腸間膜をすべて切除する術式である。TSMEとは腫瘍の位置に応じた直腸間膜を部分的に切除する術式である。
〔括約筋間直腸切除術〕
- 括約筋間直腸切除術(ISR:intersphincteric resection)は,肛門に近い下部直腸癌に対し,内肛門括約筋を合併切除することにより肛門側切離端を確保し,永久人工肛門を回避する術式である。
- 適応の原則は,①外科剝離面の確保が可能であること(外肛門括約筋・肛門挙筋への浸潤が無いこと),②肛門側切離端の確保が可能であること(T2・T3では2 cm以上,T1では1 cm以上を基準とするのが一般的)である。低分化な組織型の症例や,肛門括約筋のトーヌスが低下している症例は適応から除外することが望ましい。
- 14論文のsystematic reviewでは,R0切除率97.0%,縫合不全発生率9.1%,局所再発率6.7%であり,許容される結果であると報告されている27)。しかし,大腸癌研究会のアンケート調査による2,125例の検討では,5年生存率は大腸癌全国登録の下部直腸癌症例と同等であったが,5年局所再発率(吻合部再発含む)は11.5%と比較的高率であった。明らかに壁深達度が深くなるにつれ局所再発率は高くなるため(T1で4.2%,T2で8.5%,T3で18.1%,T4で36.0%28)),適応の判断には精度の高い術前深達度診断が重要である。
- 肛門括約筋の切除範囲が広くなるに従って便失禁などの術後排便機能の低下が問題となる。特に術前放射線療法施行例,縫合不全例,高齢者では排便機能低下の頻度が高いことが報告されている。
- 手技が高難度であること,術後排便機能などの患者QOLに与える影響が大きいことから,組織型や壁深達度などの腫瘍側要因,年齢や括約筋のトーヌスなどの患者側要因だけでなく,術者の経験,技量を考慮して慎重に適応を決定する。
〔自律神経温存〕
- 直腸癌手術に関連した自律神経系には,腰内臓神経*,上下腹神経叢*,下腹神経*,骨盤内臓神経#,骨盤神経叢がある。(*交感神経,#副交感神経)
- 排尿機能については片側の骨盤神経叢が温存されれば〔AN1~4〕一定の機能は維持される。
- 下腹神経は射精機能を,骨盤内臓神経は勃起機能を司る。男性性機能の維持には両側の自律神経系の全温存〔AN4〕が必要である。
- 側方郭清の施行の有無に関わらず,自律神経系を全温存しても排尿機能や男性性機能が障害されることがある点に留意する。
〔直腸局所切除〕
- 第2Houston弁(腹膜反転部)より肛門側にあるcTis癌,cT1癌(軽度浸潤)が主な対象となる。
- 直腸局所切除のアプローチ法は経肛門的切除,経括約筋的切除,傍仙骨的切除に分類される。
- 経肛門的切除には,直視下に切除・縫合する方法と経肛門的内視鏡下切除術がある。直視下に切除・縫合する方法には,用手的に切除・縫合する従来法と,自動縫合器を用いる方法がある。
- 直腸局所切除の目的には診断と治療の両面がある。本法は切除生検(excisional biopsy)であり,切除標本の組織学的検索によって,治療の根治性と追加治療(リンパ節郭清を伴う腸切除)の必要性を判定する。判定基準は,「CQ 1:内視鏡的切除されたpT1大腸癌の追加治療の適応基準」に準ずる。
〔大腸癌全国登録の集計データ〕
①表3,表4,表5に組織学的壁深達度別のリンパ節転移度,Stage別の治癒切除率,5年生存率を示した。
②pStage 0~pStage Ⅲの治癒切除例の5年生存率は,全症例では82.2%,結腸癌では83.8%,RS癌では81.7%,Ra・Rb癌では79.3%であった(2000~2004年症例)。
サイドメモ
■「奏効率」と「奏効割合」,「生存率」と「生存割合」に関して
「率(rate)」は,本来,死亡率やハザードなど「速度」の概念があり,分母には時間の尺度を持つことが正しいが,「奏効率」や「生存率」は分子も分母も人数であり速度の概念を含まないので,「割合(proportion)」とすることがより正確であるという報告がある。これを受けて,JCOGプロトコールマニュアルversion 3.3(2018年12月時点での最新版)は,「奏効割合」,「生存割合」に統一されている。本ガイドラインでは,奏効に関しては,「奏効割合」が広く認知されてきていること,『大腸癌取扱い規約第9版』にて「奏効割合」が定義されていることを受けて,「奏効割合」で統一した。一方,生存に関しては,依然として一般に広く「生存率」が汎用されていることから,「生存率」で統一した。
2 Stage Ⅳ大腸癌の治療方針
- Stage Ⅳ大腸癌では以下のいずれかの同時性遠隔転移を伴う。
肝転移,肺転移,腹膜転移,脳転移,遠隔リンパ節転移,その他の転移(骨,副腎,脾など)。
- 遠隔転移巣ならびに原発巣がともに切除可能な場合には,原発巣の根治切除を行うとともに遠隔転移巣の切除を考慮する。
- 遠隔転移巣が切除可能であるが原発巣の切除が不可能な場合は,原則として原発巣および遠隔転移巣の切除は行わず,他の治療法を選択する。
- 遠隔転移巣の切除は不可能であるが原発巣切除が可能な場合は,原発巣の臨床症状や原発巣が有する予後への影響を考慮して,原発巣切除の適応を決める。(CQ 6)
コメント
①遠隔転移の頻度を(表6)示す。
②肝転移を伴う場合
- 転移巣が切除可能であれば,原発巣切除の根治性を確認して,肝転移巣切除を行う。
- 切除のタイミングについては,原発巣と肝転移巣との同時切除も安全に行われるが39),肝切除の難度や患者の全身状態などにより,異時切除も行われる。しかし,同時切除と異時切除のどちらが長期予後に寄与するかは明らかではない。
③肺転移を伴う場合
- 転移巣が切除可能であれば,原発巣切除のうえ,肺転移巣切除を考慮する。
- 原発巣切除後に改めて肺転移巣を切除する異時切除が一般的である。
④腹膜転移を伴う場合(CQ 7)
- P1は完全切除が強く推奨される。
- P2で容易に切除可能なものは完全切除を推奨する。
- P3の切除効果は確立されていない。
⑤遠隔リンパ節転移を伴う場合
- 遠隔リンパ節転移の切除を考慮してよいが,明確な治療効果は示す比較試験はない。近年,大動脈周囲リンパ節転移に対し,切除することで根治や生存期間の延長を得られる症例が一定の頻度である報告がなされている。
⑥その他の遠隔転移(骨,脳,副腎,脾など)を伴う場合
- これらの転移巣については切除の報告はあるが,生命予後への明確な効果は示されていない。
⑦複数部位への遠隔転移を伴う場合
- 肝と肺への転移が代表的なものである。
- 原発巣と肝・肺転移巣の切除が安全かつ容易であれば,切除が推奨される。(CQ 8)
⑧遠隔転移巣切除後の補助療法
- 遠隔転移巣治癒切除後の補助化学療法の有効性を明確に示すエビデンスは十分でないが,再発率が高いことを鑑みて,その実施が推奨される。(CQ 19)
⑨遠隔転移巣への切除以外の治療法
- 全身薬物療法,局所薬物療法,熱凝固療法,放射線照射療法などが行われる。
3 再発大腸癌の治療方針
- 再発大腸癌の治療目的は,予後向上とQOLの改善である。
- 治療法としては,手術療法,全身薬物療法,放射線療法が中心であり,動注化学療法,熱凝固療法などの施行は推奨されない。(CQ 13,CQ 24)
- 期待される予後,合併症,治療後のQOLなどのさまざまな因子を考慮し,患者への十分なインフォームド・コンセントのもとに治療法を選択する。
- 再発臓器が1臓器の場合,手術にて再発巣の完全切除が可能であれば積極的に切除を考慮する。
- 再発臓器が2臓器以上の場合,それぞれが切除可能であれば切除を考慮してもよい。切除可能な肝肺転移に対しては有効性が示されており,切除することを推奨する。(CQ 8)
- 切除可能な肝あるいは肺転移に対して不顕性転移を除外するために一定の観察期間を置いてから切除を行うという見解がある。
- 切除不能と判断された肝転移や肺転移に対し,全身薬物療法が奏効して根治切除が可能になる症例が存在する。(CQ 10)
- 切除可能な再発病変に対する術前化学療法の有効性・安全性は明らかでなく,適応は慎重に考慮すべきである。(CQ 9)
- 再発巣切除後の補助化学療法については,5-FUまたはUFT/LVが肝転移切除後の無再発生存期間を延長するという報告のほかは,明らかな有効性を示したデータはない。(CQ 19)
コメント
〔血行性再発(肝・肺・脳転移など)〕
(血行性転移の治療方針参照))
〔リンパ節再発・腹膜再発〕
①一般に,原発巣治癒切除後のリンパ節再発あるいは腹膜再発は全身性疾患の一環として出現しているとみなすのが妥当であり,切除不能な進行再発大腸癌に対する薬物療法の項を参考に全身薬物療法を実施する(切除不能進行再発大腸癌に対する薬物療法参照)。
②限局したリンパ節再発あるいは腹膜再発で病勢制御ができている場合に限り,切除を行う場合もあるが,その有効性は明らかでない。耐術能や術後のQOLを十分に考慮したうえで適応を決定すべきである。
③限局したリンパ節再発では放射線療法が有効な症例もある。
④腹膜再発に対する腫瘍減量手術(cytoreductive surgery)と腹腔内温熱化学療法(hyperthermic intraperitoneal chemotherapy:HIPEC)については,CQ 7 を参照。
〔直腸癌局所再発〕
①再発巣の進展範囲を画像診断にて評価し,再発形式や症状,身体的所見なども参考にして,完全切除が期待できる症例にのみ切除を推奨する。(CQ 14)
②延命効果や症状緩和を目的とした姑息的切除の有効性については議論が多く,慎重に適応を検討すべきである。
③完全切除が期待できない場合は,全身薬物療法が継続的な病勢制御の観点から治療の第一選択となる。しかし,放射線照射により症状緩和などの良好な局所効果が期待できる面もあり,症状の有無,期待される効果,予測される有害事象を十分に考慮すれば,化学放射線療法または放射線療法も治療選択肢となりうる。(CQ 26)
4 血行性転移の治療方針
1)内視鏡治療
- 肝転移の治療は,肝切除,全身薬物療法,肝動注療法および熱凝固療法がある。
- 根治切除可能な肝転移には肝切除が推奨される。
- 肝切除術には系統的切除と部分(非系統的)切除がある。
肝切除の適応基準
(1)耐術可能。
(2)原発巣が制御されているか,制御可能。
(3)肝転移巣を遺残なく切除可能。
(4)肝外転移がないか,制御可能。
(5)十分な残肝機能。
- 切除不能な肝転移で全身状態が一定以上に保たれる場合(PS 0~PS 2)は,全身薬物療法を考慮する。
- 熱凝固療法にはマイクロ波凝固療法(microwave coagulation therapy:MCT)とラジオ波焼灼療法(radiofrequency ablation:RFA)がある。
- 全身状態が不良(PS≧3)あるいは有効な薬剤がない場合は対症療法(best supportive care:BSC)を行う。
コメント
〔肝切除〕
①肝切除は,コホート研究やランダム化比較試験から導き出された結論ではないが,選択された症例に対しては他の治療法では得られない良好な成績が示されている。
②肝切除後の5年生存率は35~58%である64‒67)。本邦で行われた多施設集計では,肝切除585例の3年生存率は52.8%,5年生存率は39.2%であった。
③転移巣の数,大きさ,部位および予測残肝容量を総合的に評価し,転移巣の完全切除が可能か否かを判定する。
④10 mm未満の病変に対する感度は,CTよりMRI(magnetic resonance imaging)が有意に高いことが報告されている。FDG-PET(positron emission tomography)の肝転移診断と治療に対する有効性はエビデンスが十分でなく確立されていない。
⑤切除断端に癌が露出しない切除が重要である。
- 切除断端距離は,1 cm以上を推奨する報告と75,76),癌の露出がなければよいとする報告がある。
⑥同時性肝転移では,原発巣の切除を先行し,原発巣の根治性を評価してから肝転移を切除してもよい。
- 同時性肝転移の切除時期については,明確な結論は得られていない。
⑦肝門部リンパ節転移例の予後は不良であることから,肝門部リンパ節転移は肝切除の適応の除外因子としている報告がある。
- 本邦の集計では,肝門部リンパ節転移例で郭清した場合の5年生存率は12.5%であった。
⑧制御可能な肝外転移(主に肺転移)を合併した肝転移例において,肝切除の有効性を示している報告がある。(CQ 8)
⑨残肝再発に対する再肝切除で21~52%の5年生存率が報告されている。残肝再発例に対しても前述の肝切除の適応基準に照らして切除を考慮する。
⑩肝切除後の補助化学療法の有効性を明確に示すエビデンスは十分でないが,再発率が高いことを鑑みて,その実施が推奨される。(CQ 19)
⑪切除可能な肝転移に対する術前化学療法の有効性と安全性は確立されていない。(CQ 9)
〔切除以外の治療法〕
①切除不能肝転移例には全身薬物療法を行う。
②切除不能肝転移例に対して肝動注療法あるいは熱凝固療法を行うことは,一般的には推奨されない。(CQ 13,CQ 24)
③本邦においては,体幹部定位放射線治療や密封小線源治療の有効性を支持するデータは存在しない。
④全身状態が不良な場合は対症療法(BSC)を行う。
2)肺転移の治療方針
- 肺転移の治療には,肺切除と全身薬物療法,放射線療法がある。
- 肺転移巣の切除が可能であれば肺切除を考慮する。
- 肺切除には系統的切除と部分(非系統的)切除がある。
肺切除の適応基準
(1)耐術可能。
(2)原発巣が制御されているか,制御可能。
(3)肺転移巣を遺残なく切除可能。
(4)肺外転移がないか,制御可能。
(5)十分な残肺機能。
- 切除不能肺転移で全身状態が一定以上に保たれる場合は,全身薬物療法を考慮する。
- 耐術不能な場合でも,原発巣と肺外転移が制御されているか,制御可能で,5 cm以内の肺転移個数が3個以内であれば体幹部定位放射線治療も考慮する。
- 全身状態が不良な場合は適切なBSCを行う。
コメント
〔肺切除〕
①コホート研究やランダム化比較試験から導き出された結論ではないが,適切に選択された症例に対する肺切除は他の治療法では得られない良好な成績が示されている。
②肺切除後の5年生存率は30~68%である。大腸癌研究会プロジェクト研究で行われた多施設集計では肺切除例の5年生存率は46.7%,累積5年無再発生存率は33.7%であり,非切除例の5年生存率は3.9%であった。
③同時性肺転移では,原発巣の切除を先行し,局所の根治性を評価することが望ましい。したがって,原則的に同時性肺転移は異時切除となる。
④転移巣の数,大きさ,部位および気管支内進展を評価し,切除断端距離を確保した転移巣の完全切除ができる術式を決定する。
⑤肺門・縦隔リンパ節郭清の意義は定まっていない。予後不良因子として,転移個数,両側肺転移,肺門・縦隔リンパ節転移,肺切除前血清CEA値,原発巣因子(T因子,N因子),無病期間(disease-free interval:DFI)などが報告されている。
⑥制御可能な肺外転移例(主に肝転移)では,肺切除の有効性を示唆する報告がある。
⑦残肺再発に対する再肺切除で20~48%の5年生存率が報告されている。肺切除後の残肺再発に対しても前述の肺切除の適応基準に準じて慎重に切除の適応を考慮する。
⑧これまで肺転移術後補助化学療法の効果を大規模に検討した報告はない。(CQ 19)
3)脳転移の治療方針
- 脳転移は全身疾患としての一分症として発見されることが少なくないが,治療効果が期待される病変に対しては,手術療法あるいは放射線療法を考慮する。
- 全身状態,他の転移巣の状況を考慮し,脳転移巣の大きさ,部位,脳転移個数を評価して最適な治療法を選択する。
- 切除不能例には放射線療法を考慮する。
〔手術療法〕
脳切除の適応基準
(1)耐術可能。
(2)原発巣が制御されているか,制御可能。
(3)数カ月以上の生命予後。
(4)切除により重大な神経症状をきたさない。
(5)他臓器の転移がないか,制御可能。
〔放射線療法〕
- 脳神経症状や頭蓋内圧亢進症状などの症状緩和と局所制御による延命を目的とする。
- 多発性脳転移例や外科切除の対象とならない孤立性脳転移例では全脳照射を考慮する。
- 脳転移個数がおよそ3~4個以内で3 cm以下であれば,定位放射線照射を考慮する。
コメント
〔手術療法〕
①脳転移の約90%の症例は他臓器に転移を伴い,切除術を施行しても予後は不良である。
②孤立性脳転移に対する切除後の平均生存期間は30~40週と報告されているが,十分な症例集積に基づく手術療法の有効性の評価は定まっていない。
③脳転移切除後に全脳照射を追加する意義に関しては議論の分かれるところである。
〔放射線療法〕
①改善率は60~80%である。
②定位放射線照射では局所制御が80~90%に得られる。
③システマティックレビューによると定位放射線照射後,全脳照射後,BSC後の生存期間中央値は6.4カ月,4.4カ月,1.8カ月であった。
④予後因子として,年齢,PS,脳転移個数,頭蓋外病変の制御の有無がある。
⑤現時点では,転移の個数にかかわらず全脳照射が行われることが多く,数年の予後が期待できる場合には定位放射線照射を加えることを考慮する。定位放射線照射を行う場合には,QOLの高さから単独治療も治療選択肢として考慮されるが,全脳照射に比し頭蓋内再発率が高いため,適切な間隔での画像検査が必要である。
4)その他の血行性転移の治療方針
- 副腎,皮膚,脾などの血行性転移に対しても,切除可能な場合は切除を考慮する。しかし,これらの転移は他の臓器の転移を伴うことが多く,薬物療法あるいは放射線療法が適用されることが多い。
5 薬物療法
- 薬物療法には,術後再発抑制を目的とした補助化学療法と,延命や症状緩和などを目的とした切除不能進行再発大腸癌に対する薬物療法がある。
- 本邦の保険診療として,大腸癌に対する適応が認められている主な薬剤には以下のものがある。
- 殺細胞性抗癌薬:
- fluorouracil(5-FU), 5-FU+levofolinate calcium(l-LV), tegafur uracil (UFT), tegafur gimeracil oteracil potassium(S-1), UFT+calcium folinate(LV), capecitabine(Cape), irinotecan hydrochloride hydrate(IRI), oxaliplatin(OX), trifluridine/tipiracil hydrochloride(FTD/TPI)など
- 分子標的治療薬:
- bevacizumab(BEV), ramucirumab(RAM), aflibercept beta(AFL), cetuximab(CET), panitumumab(PANI), regorafenib hydrate(REG)
- 免疫チェックポイント阻害薬:
- pembrolizumab(Pembro)
1)補助化学療法
- 術後補助化学療法は,R0切除が行われた治癒切除例に対して,再発を抑制し予後を改善する目的で,術後に実施される全身薬物療法である。
適応の原則
(1)R0切除が行われたStage Ⅲ大腸癌(結腸癌・直腸癌)。
(2)術後合併症から回復している。
(3)Performance status(PS)が0~1である。
(4)主要臓器機能が保たれている。
(5)重篤な術後合併症(感染症,縫合不全など)がない。
- 高齢者での適応については CQ 17 参照。
- 再発リスクが高いStageⅡ大腸癌には,術後補助化学療法の適応を考慮する。(CQ 18)
- 遠隔転移巣切除後の補助化学療法の適応ついては,CQ 19 参照。
臨床試験において有用性が示され,本邦で保険診療として使用可能な術後補助化学療法レジメンは以下のとおりである。
コメント
①術後補助化学療法の実施や治療レジメンは,腫瘍因子(病理学的Stage,組織型,原発巣部位,バイオマーカーなど)から期待される術後再発抑制効果だけでなく,治療因子(有害事象,QOL,治療コストなど),患者因子(年齢,併存疾患,想定される副作用に対する嗜好,治療意欲など)を考慮して,適切なインフォームド・コンセントのもとに決定する。術後補助化学療法は,術後8週頃までに開始することが望ましい。
②Dukes’ BおよびDukes’ Cを対象とした3つのランダム化比較試験(RCT)の統合解析にて,5-FU+l-LVは手術単独と比較し全生存期間の延長を示した。さらに,Stage Ⅲ結腸癌を対象としたOX併用療法は,欧米で実施された3つのRCTにて,5-FU+l-LVと比べて有意な再発抑制および予後改善効果が確認された。一方,UFT+LVおよびCapeは5-FU+l-LVに対する非劣性が示されている。S-1はUFT+LVに対する非劣性が示されている。一方で,S-1のCapeに対する非劣性は示されなかった。(CQ 15)
③Stage Ⅲ結腸癌を対象とした術後補助化学療法における,OX併用療法の投与期間が,本邦のRCT(ACHIEVE試験)を含む6つのRCTの統合解析で比較された。3カ月投与群は,全対象では6カ月投与群に対する非劣性が示されなかったが(IDEA collaboration),CAPOX投与例では,特に再発低リスク例において6カ月投与群と同程度の再発抑制効果を示した。ACHIEVE試験でも,3カ月投与群と6カ月投与群の3年無病生存率は同程度であった。感覚性末梢神経障害の発現は3カ月投与群で有意に少なかった。一方,StageⅡB/Ⅲ(TNM‒6版)結腸癌を対象とした術後補助化学療法における,UFT+LVの18カ月投与の6カ月投与に対する優越性は示されなかった。また,Stage Ⅲ結腸癌に対するCapeの12カ月投与の6カ月投与に対する無病生存期間についての優越性は示されなかった。(CQ 16)
④直腸癌を対象とした術後補助化学療法は,結腸癌と比べてエビデンスが少ないものの,抗癌薬の効果は結腸癌と大きく異ならないと考えられることから,結腸癌のエビデンスも参考にして実施する。Stage Ⅲ直腸癌(肛門管Pを含む)を対象とした術後UFT単独(1年間)は,手術単独と比べて有意な再発抑制および予後改善が,国内のRCT149)で示された。その後,StageⅡ/Ⅲ直腸癌(RSを除き肛門管Pを含む)を対象として,S-1(1年間)は,UFT単独(1年間)と比べて有意な再発抑制効果が示された。(CQ 15)
⑤StageⅡ結腸癌を対象とした術後補助化学療法において,UFT単独投与(1年間)は手術単独と比べて有意な再発抑制効果は本邦のRCTで示されなかった。(CQ 18)
⑥Stage Ⅱ/Ⅲ結腸癌を対象とした術後補助化学療法において,5-FU+l-LVにIRIを併用した場合の上乗せ効果は示されておらず,IRIの併用は推奨されない。分子標的治療薬の有効性も示されておらず,分子標的治療薬の併用は推奨されない。
⑦肝転移治癒切除例を対象とした術後補助化学療法において,UFT+LVは手術単独と比べて有意な再発抑制効果が本邦のRCTで示された。(CQ 19)
2)切除不能進行再発大腸癌に対する薬物療法
- 薬物療法を実施しない場合,切除不能と判断された進行再発大腸癌の生存期間中央値(MST:median survival time)は約8カ月と報告されている。最近の薬物療法の進歩によってMSTは30カ月を越えるまで延長してきたが,いまだ治癒を望むことは難しい状況である。
- 薬物療法の目標は腫瘍の進行を遅延させ,延命と症状コントロールを行うことであるが,薬物療法が奏効し,転移巣が治癒切除された場合には,治癒が得られる場合もある。
- PS 0~2の患者を対象としたランダム化比較試験において,薬物療法群は抗癌薬を用いない対症療法(BSC)群よりも有意に生存期間が延長することが示されている。
- 薬物療法を考慮する際には,最初にその適応可否について判断する。
- 薬物療法の適応となる(fit)患者とは,全身状態が良好で,かつ主要臓器機能が保たれ,重篤な併存疾患がなく,一次治療のOX,IRIや分子標的治療薬の併用療法に対する忍容性に問題はない,と判断される患者である〔一次治療の方針を決定する際のプロセス参照〕。
- 薬物療法の適応に問題がある(vulnerable)患者とは,全身状態や,主要臓器機能,併存疾患などのため,一次治療のOX,IRIや分子標的治療薬の併用療法に対する忍容性に問題がある,と判断される患者である〔一次治療の方針を決定する際のプロセス参照〕。
- 薬物療法の適応とならない(frail)患者とは,全身状態が不良,または主要臓器機能が保たれていない,重篤な併存疾患を有するなどのため,薬物療法の適応がないと判断される患者である〔一次治療の方針を決定する際のプロセス参照〕。
- 薬物療法が適応可能と判断される患者に対しては,一次治療開始前にRAS(KRAS/NRAS)遺伝子検査,BRAFV600E遺伝子検査を実施する。
- CET,PANIはRAS(KRAS/NRAS)遺伝子野生型にのみ適応される(コメント⑨)。
- Pembroは高頻度(high-frequency)マイクロサテライト不安定性(microsatellite instability[MSI-H])にのみ適応される。(CQ 23)
適応の原則
(1)病理組織診断にて結腸または直腸の腺癌であることが確認されている。
(2)治癒切除不能と診断されている。
(3)全身状態や,主要臓器機能,重篤な併存疾患の有無により薬物療法の適応がある(fit)または薬物療法の適応に問題がある(vulnerable)と判断される(各薬剤の添付文書を参照のこと)。
臨床試験において有用性が示されており,かつ保険診療として国内で使用可能なレジメン注1
- FOLFOX+BEV
- CAPOX+BEV
- SOX+BEV
- FOLFIRI+BEV
- S1+IRI注2+BEV(コメント⑤を参照)
- FOLFOX+CET,FOLFOX+PANI
- FOLFIRI+CET,FOLFIRI+PANI
- FOLFOXIRI+BEV
- Infusional 5-FU+l-LV+BEV
- Cape+BEV
- UFT+LV+BEV
- S-1+BEV
- CET or PANI
(a)OXを含むレジメンに不応・不耐となった場合
- FOLFIRI+BEV
- CAPIRI注3+BEV(コメント⑥を参照)
- FOLFIRI+RAM
- FOLFIRI+AFL注4(コメント⑦を参照)
- S-1+IRI+BEV
- IRI+BEV
- FOLFIRI+CET,FOLFIRI+PANI
- IRI+CET,IRI+PANI
- Pembro注5(コメント⑪を参照)
(b)IRIを含むレジメンに不応・不耐となった場合
- FOLFOX+BEV
- CAPOX+BEV
- SOX+BEV
- FOLFOX+CET,FOLFOX+PANI
- Pembro注5(コメント⑪を参照)
(c)OX,IRIの両方を含むレジメンに不応・不耐となった場合
- (IRI+)CET,(IRI+)PANI
- Pembro注5(コメント⑪を参照)
- (IRI+)CET,(IRI+)PANI
- REG
- FTD/TPI
- Pembro注5(コメント⑪を参照)
注1 下線は第Ⅲ相試験で有効性が検証されたレジメン。
注2 S-1+IRI
S-1体表面積に応じて40~60 mg/回 1日2回内服 2週内服2週休薬;IRI 125 mg/m2 1日目,15日目,4週毎に繰り返す。
または,S-1体表面積に応じて40~60 mg/回 1日2回内服 2週内服1週休薬;IRI 150 mg/m2 3週毎に繰り返す。
注3 CAPIRI
Cape 800 mg/m2/回 1日2回内服 2週内服1週休薬;IRI 200 mg/m2 3週毎に繰り返す。ただし,UGT1A1遺伝子多型がホモ型,*6/*28のダブルへテロ型ではIRIの投与量は150 mg/m2とする。
注4 FOLFIRI+AFL
FOLFIRI 2週毎に繰り返す;AFL 4 mg/kg 2週毎に繰り返す。
注5 Pembro
Pembro 200 mg/body 3週毎に繰り返す。
コメント
①治療実施上の注意点
- 全身状態が不良,または主要臓器機能が保たれていない,重篤な併存疾患を有する患者は原則的には薬物療法の適応はない。
- 治療前には,PS,バイタルサイン,体重,自覚症状などの身体所見,血液検査結果,尿検査所見などを確認し,投与不可と判断される異常を認めた場合は治療の延期を考慮する。
- 治療継続時には,前項のほか,前回投与時後の治療関連有害事象などを検討して薬物療法継続の可否を判断し,また適宜減量などを考慮する。
- 治療コースを繰り返す場合には,蓄積性の有害事象(神経障害,食欲不振,倦怠感,下痢,皮膚障害,味覚障害など)に注意する。必要であれば全治療,あるいは原因となる薬を休止して回復を待つ。
- 有害事象の評価には有害事象共通用語規準(CTCAE[Common Terminology Criteria for Adverse Events]; http://www.jcog.jp/doctor/tool/ CTCAEv5J_20130409.pdf)を用いることが望ましい。
- 治療効果は,CT,MRIなどの適切な画像診断を用いて判定する。腫瘍縮小効果の判定には,RECIST(Response Evaluation Criteria In Solid Tumors;http://www.jcog.jp/doctor/tool/RECISTv11J_20100810.pdf)ガイドラインを用いることが望ましい。
- RECISTもしくは臨床的に治療効果が認められなくなった場合(不応),有害事象により治療継続が困難と判断される場合(不耐),患者の拒否などの場合には,治療を中止し,可能であれば次治療への移行を検討する。
②OXを使用する際には蓄積性の神経毒性に留意が必要である。忍容性を損なうGrade 2の神経毒性に至ったが,治療効果が持続している場合には,OXを休止しフッ化ピリミジン±BEV or CET or PANIなどに切り替えることを考慮する。病状が増悪し,神経毒性がGrade 1以下に改善すればOXの再導入を考慮する。
③IRIを使用する際には,Gilbert症候群などの体質性黄疸を含む血清ビリルビン高値の患者や全身状態が不良(たとえばPS 2)の患者には有害事象の発現に十分な注意が必要である。また,本薬の代謝酵素であるUGT1A1の遺伝子多型と毒性との関係が知られており,UGT1A1*6または*28のいずれかをホモ接合体または両方をヘテロ接合体として持つ患者では,IRIの最大耐用量は150 mg/m²であることが確認されたが,Grade 3以上の好中球減少を62.5%と高頻度に認めたことが報告されている
④本邦におけるFOLFOXIRI+BEVの有効性と安全性はQUATTRO試験注で確認されている。ただし,本試験の対象は20歳~75歳,PS 0~1(71歳~75歳はPS 0),UGT1A1*6および*28を持たないもしくはいずれか一方のみを持つ(シングルヘテロ接合体)患者であり,それ以外の対象に対する有効性と安全性は確立していない。本試験ではGrade 3/4の好中球減少,発熱性好中球減少を各々72.5%,21.7%に認め,さらにUGT1A1シングルへテロ接合体の患者では,治療開始初期のGrade 4の好中球減少,発熱性好中球減少の頻度が高いことが報告されている。
- 注
- QUATTRO試験は,切除不能進行再発大腸癌初回治療例を対象にFOLFOXIRI+BEVの有効性と安全性を確認した本邦第Ⅱ相臨床試験である。
⑤ S-1+IRI+BEVの有効性と安全性は,TRICOLORE試験注に基づいて評価された
- 注
- TRICOLORE試験は,PS 0~1の切除不能進行再発大腸癌一次治療例を対象としてS-1+IRI+BEVの有効性と安全性をFOLFOX+BEVまたはCAPOX+BEVと比較検討した本邦第Ⅲ相臨床試験である。
⑥ CAPIRI+BEVの有効性と安全性は,AXEPT試験注に基づいて評価された
- 注
- AXEPT試験は,PS 0~2の切除不能進行再発大腸癌二次治療例を対象としてCAPIRI±BEVの有効性と安全性をFOLFIRI±BEVと比較検討したアジアの第Ⅲ相臨床試験である。
⑦ AFLの有効性と安全性は,VELOUR試験注に基づいて評価されたもので,国内では5-FU,l-LV,IRIとの併用で承認されている。なお,添付文書にも記載されているように,一次治療における有効性と安全性は確立していない。
- 注
- VELOUR試験は,PS 0~2の切除不能進行再発大腸癌を対象としてフッ化ピリミジン,OX併用療法に不応・不耐となった患者に対するFOLFIRI+AFLの有効性と安全性をFOLFIRI+placeboと比較検討した国際共同第Ⅲ相臨床試験である。
⑧ 肝転移に対する肝動注療法の腫瘍縮小率は高いが,生存期間において全身投与の薬物療法を上回る有効性は示されていない。(CQ 24)
⑨ RAS(KRAS/NRAS)遺伝子変異は切除不能大腸癌患者の約50%に認められ,これらの変異を有する患者に対して抗EGFR抗体薬(CET,PANI)の効果が期待できないことが報告されている。したがって,薬物療法の実施が可能な患者においては,一次治療前にRAS(KRAS/NRAS)遺伝子検査を行うことが推奨される(CQ 20)。本邦では2015年4月にRAS(KRAS/NRAS)遺伝子検査が保険償還されている。さらに最近では,抗EGFR抗体薬併用の有無を比較した臨床試験の統合解析において,原発巣占居部位が左側(下行結腸,S状結腸,直腸)の患者に対しては一次治療における抗EGFR抗体薬の効果が高いが,右側(盲腸,上行結腸,横行結腸)の患者に対する効果は乏しいことが報告されている。
⑩ 本邦において,BRAFV600E遺伝子変異は切除不能大腸癌患者の約5%に認められ,これらの変異を有する患者は薬物療法の効果が乏しく予後が極めて不良である。TRIBE試験におけるサブグループ解析において,BRAFV600E遺伝子変異を有する患者に対して一次治療としてのFOLFOXIRI+BEV療法の有効性が期待されている。したがって薬物療法の適応に問題のない患者においては,一次治療前にBRAFV600E遺伝子検査を行うことが推奨される(CQ 20)。また,BRAFV600E遺伝子検査はリンチ症候群の補助診断としても有用であり,DNAミスマッチ修復機能の欠損を有しリンチ症候群が疑われる患者に対して同検査を行うことが推奨される。なおBRAFV600E遺伝子検査の基本的要件については日本臨床腫瘍学会編『大腸がん診療における遺伝子関連検査のガイダンス第3版』を参照のこと。本邦では2018年8月にBRAFV600E遺伝子検査が保険償還されている。
最近,BRAFV600E遺伝子変異を有する切除不能進行再発大腸癌既治療例に対するBRAF阻害薬と抗EGFR抗体薬の同時併用療法の有効性が示され,NCCNガイドラインversion1.2018では同対象に対してIRI+抗EGFR抗体薬+vemurafenib(BRAF阻害薬)併用療法が推奨されるレジメンとして掲載されている(2019年1月時点で本邦未承認)。
⑪ MMR機能欠損は,主にMMR遺伝子の生殖細胞系列変異を原因とする常染色体優性遺伝性疾患であるリンチ症候群に認められる大腸癌や,MLH1遺伝子の後天的な異常メチル化を原因とする散発性大腸癌に認められる。MMR機能欠損に対する検査には,MSI検査,およびMMRタンパク質免疫染色(IHC)がある。欧米のデータによると切除不能大腸癌の約5%にMSI-Hが認められる(本邦では約2~3%)。MMR機能欠損(deficient MMR:dMMR注1)を有する切除不能進行再発例に限定した薬物療法の有効性に関するエビデンスは乏しく,現状では大腸癌に一般的に用いられるレジメンが適用される。
最近,MMR機能欠損を有する切除不能進行再発大腸癌既治療例に対する抗PD-1抗体薬(pembrolizumab(Pembro),nivolumab)の有効性が報告され,米国ではdMMR/MSI-Hを有する切除不能進行再発大腸癌既治療例に対して承認されている。本邦においても2018年12月,MSI-Hを有する切除不能進行再発大腸癌既治療例を含む固形癌(標準的な治療が困難な場合に限る)に対してPembroが承認された(CQ 23)。Pembroの承認と同時にコンパニオン診断薬としてMSI検査キット(FALCO)が保険償還されている。なお,同検査はリンチ症候群診断のスクリーニングにもなり得るため,検査の説明,結果の解釈,リンチ症候群が疑われた場合の対応については,『遺伝性大腸癌診療ガイドライン2016年版』や学会合同ガイドラインを参照のこと。なお大腸癌においてはMSI検査とMMRタンパク質IHCとの一致率は高いと報告されている。
注1 dMMR
『遺伝性大腸癌診療ガイドライン2016年版』,『大腸がん診療における遺伝子関連検査のガイダンス第3版』参照のこと。
サイドメモ
■次世代シークエンス法
次世代シークエンス法(next generation sequencing:NGS法)は数千万から数十億のDNA断片の塩基配列を同時並行的に解析する方法である。この方法を用いることで従来のダイレクトシークエンス法(サンガー法)と比較し超高速かつ大量にゲノム解読が可能となった。切除不能進行再発大腸癌患者に対して,RAS(KRAS/NRAS)遺伝子,BRAFV600E遺伝子,MSI検査という複数の遺伝子検査が推奨され,今後もさらに検査が必要となる遺伝子が増えることが予想される。いずれも一次治療レジメン選択において必要な検査であり,結果判明に要する時間や検査に使用するDNA量の観点から,それぞれの検査を順々に実施するよりも,同時に複数の遺伝子異常を同定できるマルチプレックス検査が望ましい。本邦においても,遺伝子パネル検査を実地診療で行う際の方針を示した,『次世代シークエンサー等を用いた遺伝子パネル検査に基づくがん診療ガイダンス(第1.0版)』が日本臨床腫瘍学会,日本癌治療学会,日本癌学会合同で発刊されており参照のこと。
■ctDNA
ヒトの血液中には一定の遊離DNAが存在しているが,癌患者ではその量が増えることが知られており,癌患者における遊離DNAはcirculating tumor DNA(ctDNA)と呼ばれている。リキッドバイオプシーは血液などのサンプルからctDNAを検査することであり,低侵襲かつリアルタイムに腫瘍の遺伝子異常を測定できるため有用性が高い。また,ctDNAからの遺伝子変異検出感度は飛躍的に向上しており,今後は早期効果予測因子や切除後の腫瘍残存の検出,抗EGFR抗体薬投与などによる獲得耐性変異の検出などへの応用も期待されている。
6 放射線療法
- 放射線療法には,直腸癌の術後の再発抑制や術前の腫瘍量減量,肛門温存を目的とした補助放射線療法と切除不能進行再発大腸癌の症状緩和や延命を目的とした緩和的放射線療法がある。
1)補助放射線療法
- 補助放射線療法には,術前照射,術中照射,術後照射がある。
- 補助放射線療法の目的は直腸癌の局所制御率の向上である。術前照射では,さらに肛門括約筋温存率と切除率の向上が得られることが示唆されている。しかし,生存率の改善に関しては,現時点で補助放射線療法の目的とするだけのエビデンスは存在しない。
- 術前照射は「cT3以深またはcN陽性」,術後照射は「pT3以深またはpN陽性,外科剝離面陽性(RM1)または外科剝離面への癌浸潤の有無が不明(RMX)」,術中照射は「外科剝離面陽性(RM1)または外科剝離面への癌浸潤の有無が不明(RMX)」を対象とする。
- 照射方法により外部照射と術中照射に分けられる。
コメント
①術前照射(CQ 25)
- (1)術前照射の利点は,手術時の播種の予防,腫瘍への血流が保たれていて腫瘍細胞に放射線感受性細胞の割合が多いこと,小腸が骨盤腔内に固定していないため消化管への障害が少ないこと,腫瘍縮小によるR0切除率の向上,肛門括約筋温存が期待できることである。
- (2)術前照射の欠点は,早期症例への過剰治療の危険性があること,術後合併症の増加の危険性があることである。
- (3)術前照射(化学療法なし)に関する12件のランダム化比較試験が報告され,このうち5件では術前照射が手術単独に比べ局所制御率が有意に良好であった。ただし,生存率の向上を認めたのは1件のみであった。
- (4)術前照射に関する2つのメタアナリシスでは,手術単独に比し,術前照射併用にて局所制御率の向上を認め,30 Gy以上の群では生存率の改善を認めた。しかし,生存率の改善に関しては議論がある。
- (5)1回線量5 Gyによる短期照射の試験が欧州を中心に行われている。放射線の晩期障害は1回線量の大きさに影響を受けることから,肛門機能,腸管障害などを含めた晩期障害を長期的に経過観察していく必要がある。
- (6)TMEに短期照射を加える意義について,術前照射(25 Gy/5回)+TMEとTME単独を比較したDutch CKVO 95‒04試験では,5年および10年局所制御率は併用群で有意に良好であったが,5年および10年生存率は両群で差はなかった。また,手術単独群に比し,術前照射併用群では,性機能低下,腸管障害の頻度が高かった。
- (7)術前照射の原発巣に対する縮小効果により括約筋温存が可能になることがある。術前照射の目的が括約筋温存である場合,腫瘍縮小のための適切な期間(放射線治療終了後6~8週)をおいて手術を行うことが望ましい。
- (8)術前照射に化学療法併用が有用かどうかを比較するランダム化比較試験が欧州などで4つ施行され,術前化学放射線療法は,術前放射線療法単独に比し,急性期有害事象の頻度が有意に高いものの,pCR割合が有意に高い結果であった。局所再発率は短期照射の試験を除いた2つの試験において術前化学放射線療法群で有意に低い結果であり,括約筋温存,生存率に関しては両群に差を認めなかった。
- (9)術前化学放射線療法と術後化学放射線療法を比較するランダム化比較試験では,5年生存率に差はなかったが,術前照射群で局所再発率が有意に低く,Grade 3以上の有害事象の頻度は有意に低かった。登録時に(腹会陰式)直腸切断術が必要と判断された症例のうち,括約筋温存が可能であった割合は術前照射群で有意に高かった。
- (10)併用化学療法としての5-FUとCapeのランダム化比較試験で,両者の有効性と安全性は同等であることが示された。NCCNガイドラインでは併用化学療法の標準として5-FUまたはCapeを採用している。なお,直腸癌補助療法に関してCapeは2016年8月26日公知承認となり,本邦でも使用可能となった。
- (11)併用化学療法に関して,フッ化ピリミジンに対するOXの上乗せ効果を検討したランダム化比較試験のうち3つの試験ではOXは有害事象を増加させるがpCR割合,局所制御率,生存率に対する効果は示されず,1つの試験では有害事象に差はなく,pCR割合,無病生存率を有意に上昇させた。
②術後照射
- (1)術後照射の利点は,pT3以深またはpN陽性などの局所再発の高リスク群を選択して照射することができることである。
- (2)術後照射の欠点は,術中の腫瘍細胞の散布を防止できないこと,骨盤底に癒着した小腸に照射され消化管の有害事象の頻度が高くなることである。また,術後は局所の血流は少なくなり,放射線感受性は低くなることである。
- (3)術後照射は術後6~8週までに開始することが望ましい。
- (4)術後照射により局所再発は低下するが,生存率の改善をもたらさない。
- (5)化学療法との併用では,急性期有害事象が増加し,GITSGおよびMayo/NCCTG79-47-51試験では,Grade 3以上の有害事象が25~50%に発生した。欧米のランダム化比較試験の結果,術後化学放射線療法は術前化学放射線療法に比べ局所再発率が高く,かつ有害事象が多いことが示されており,NCCNガイドラインをはじめとする欧米のガイドラインでは術前化学放射線療法を推奨している。
- (6)補助放射線療法または化学放射線療法による腸管障害の症状として,頻便,便意切迫,排便困難感,便失禁,肛門の感覚異常などがある。
③術中照射
局所再発の原因である外科剝離面(RM)不足,側方リンパ節などに対して腸管などの周囲正常組織を避けて重点的に腫瘍床に高線量を照射できる。
④照射法
2)緩和的放射線療法
a.骨盤内病変(
CQ 26)
- 骨盤内腫瘍による疼痛,出血,便通障害などの症状緩和を目的とする。
- 標的体積には症状の原因となっている腫瘍を含める。
〔線量と分割法〕
- 1回1.8~2.0 Gy,総線量45~50 Gy照射する。
- 全身状態,症状の程度によっては1回線量を多くして短期間で照射を終了することもある。
b.骨盤外病変
(1)骨転移
- 疼痛の軽減,病的骨折の予防,脊髄麻痺の予防と治療を目的とする。
- 標的体積には症状の原因となっている腫瘍を含める。
〔線量と分割法〕
- 局所照射では30 Gy/10回,20 Gy/5回などの分割照射が広く行われている。
(2)脳転移
〔線量と分割法〕
- 全脳照射では30 Gy/10回が標準的であり,長期予後が期待される場合には37.5 Gy/15回ないしは40 Gy/20回などを検討する。
- 定位手術的照射では辺縁線量16~25 Gyを1回で照射する。
コメント
①骨盤内病変
- 疼痛,出血などの自覚症状,QOLの改善を目的とした放射線治療は有効である。
- 45 Gy以上照射された群での症状緩和率は疼痛89~93%,出血79~100%,神経性症状52%,腫瘍の圧排による症状71~88%,滲出液50%,泌尿器科的症状22%,その他の症状42%であった。
- 症状緩和持続期間は3~10カ月である。
②骨盤外病変
(1)骨転移
- 骨転移に対する推奨治療は,抗炎症薬やオピオイド鎮痛薬,癌性疼痛および骨折などの骨関連合併症を軽減するbisphosphonateやdenosumab(抗RANKLE抗体)などの骨代謝修飾薬,放射線療法(放射線医薬品療法含む),インターベンション療法など,病態に応じた組み合わせである。
- 局所照射の疼痛緩和率は70~90%である。
- 疼痛緩和を目的とした場合,線量と効果の明らかな関係は示されておらず,30 Gy/10回,20 Gy/5回,8 Gy/1回などで疼痛緩和効果は同等である。
- 病的骨折や骨折のリスクがある場合,脊髄圧迫症状や神経因性疼痛がある場合,長期予後が期待できる場合などでは,1回照射よりも分割照射が推奨される。
- 多発性骨転移で多数の疼痛部位がある場合には,疼痛緩和を目的としてストロンチウム89による放射線同位元素内用療法が考慮される。疼痛緩和率は60~90%,効果持続期間は3~6カ月である。ただし,血小板減少,白血球減少および貧血などの有害事象があるので,骨髄抑制をもたらす化学療法を施行または予定している場合は慎重な患者選択が必要である。
(2)脳転移
(3)肺転移
(4)その他の部位
- 頸部リンパ節,傍大動脈リンパ節,鼠径リンパ節,縦隔・肺門リンパ節などのリンパ節転移に対する症状緩和を目的とした放射線治療が考慮されることがある。
7 緩和医療・ケア
- 緩和医療・ケアとは,患者のQOLの維持,向上を目的としたケアの総称である。
- 緩和医療・ケアは,がんの診断がついた時点から終末期までを包括する医療であり,病期や症状により,実施すべき内容が異なる。
- がん治療は症状緩和が図られた状態で行うことが原則であり,外科治療や薬物療法の当初から緩和医療を導入するのが望ましい。
- 大腸癌終末期におけるQOL向上のための緩和医療には以下のものが含まれる。
(1)疼痛緩和
(2)外科治療
(3)薬物療法
(4)放射線療法
(5)精神症状に対するカウンセリング
コメント
①疼痛緩和のための薬物療法は,WHOのステップラダー(3段階除痛ラダー)および日本緩和医療学会の『がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン』268)に基づいて行うことが望ましい。
②骨盤内再発における癌性疼痛(臀部痛など)には神経ブロックが有効なことがある。
③骨盤内再発や骨転移などによる疼痛には放射線照射が有効なことがある(参照)。
④疼痛の責任病巣(原発巣や皮下転移,リンパ節転移など)に対する姑息的切除,責任病巣のバイパス手術・人工肛門造設などの外科治療が有効なことがある。
⑤腸管閉塞による経口摂取不能状態の改善や出血のコントロールを目的として,姑息的切除術,バイパス手術,人工肛門造設術を考慮する。外科治療が不可能で薬物治療の予定のない腸管閉塞に対しては経肛門的なステント留置が推奨される。随伴する嘔気・嘔吐などの消化器症状の緩和には酢酸オクトレオチド投与が有効なことがある。
⑥尿管閉塞に対して,尿管ステント留置や腎瘻造設術などを考慮する。
⑦疾病や予後に対する不安に対してはカウンセリングが有用である。精神症状には,適切な薬物療法による症状緩和を行う。
⑧大腸癌における緩和医療の生命予後への寄与度は明らかでないが,緩和ケアの早期導入により肺癌患者のQOLが向上し,生存期間が有意に延長したとの報告がある。
⑨緩和医療のアウトカム計測のためのQOL評価法の確立が課題である。大腸癌術後のQOL評価法にはEORTC-QLQ-CR38281)があり,疼痛緩和における代表的なQOL評価法にはBrief Pain Inventory(BPI)がある。当面は,これらの評価法を利用しながらQOLを評価し,データを集積していくことが望ましい。
8 大腸癌手術後のサーベイランス
1)大腸癌根治度A切除後の再発に関するサーベイランス
(1)pStage 0(pTis癌)は,切除断端や吻合部の再発を対象とした定期的な内視鏡検査を考慮する。他臓器の再発を対象としたサーベイランスは不要である。
(2)pStageⅠ~pStage Ⅲは,肝,肺,局所,吻合部,リンパ節,腹膜などの再発をサーベイランスする。以下の点に留意する。
- サーベイランス期間は術後5年間を目安とし,術後3年以内はサーベイランス間隔を短めに設定する。
- 直腸癌では肺転移再発と局所再発の頻度が高いことに留意する。
- 再発の好発部位,発生頻度,治療効果や,本邦での臨床実状を総合的に判断して導き出された,pStageⅠ~pStage Ⅲ大腸癌の治癒切除後に推奨されるサーベイランススケジュールの一例を示す。
2)大腸癌根治度B切除後および再発巣切除後のサーベイランス
(1)pStage Ⅳ症例のR0切除後(根治度B)と再発巣切除症例のサーベイランスは,Stage Ⅲの内容に準ずるが,転移・再発の切除臓器に再発・再々発が多いこと,5年以降の再発頻度も比較的高いことに留意する。
(2)R1切除のために根治度Bとなった症例は,遺残が疑われる臓器を標的とした綿密なサーベイランスを計画する。
3)異時性多重がんのサーベイランス
- 異時性多発癌のサーベイランスを目的として大腸内視鏡検査を行う。
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①サーベイランスの目的と対象
- 再発を早期に発見し治療することで予後を改善することを目的とする283)。したがって,再発が発見された際に治療が可能な患者に対してサーベイランスを行う。
②再発率,再発時期,再発臓器
- 図1~2および表7~10に,大腸癌研究会の全国登録「2007年症例」の検討結果を示す。対象は大腸癌研究会参加71施設での治癒切除大腸癌5,103症例で,追跡期間の中央値は6.0年である。
(1)再発期間と再発臓器ごとの再発率(図2,表7,表9~10参照)。
- 再発は術後3年以内に約85%以上,術後5年以内に95%以上が出現した。
- 術後5年を超えてからの再発は全症例の1%以下であった。
- 肝転移に比較して,肺再発の出現時期は遅い傾向があった。
- 局所再発と肺再発は直腸癌に多く,腹膜転移再発は結腸癌に多かった。
(2)pStage別特徴(図1,表7~8参照)
1.pStage I
- 結腸癌,直腸癌の再発率はそれぞれ4.4%,7.4%であり,直腸癌に高かった。
- pT1癌の再発率は4.0%で,pT2癌の再発率は7.3%であった。
- pStageⅡ,pStage Ⅲ症例と比較して再発の出現時期が遅く,再発症例の8%以上が5年を超えて出現した。一方,これらの症例の全症例に対する割合は0.5%以下であった。
2.pStageⅡ,pStage Ⅲ
- pStageⅡ,pStage Ⅲの再発率はそれぞれ15.0%,31.8%であった。
- 両ステージ共に術後3年以内に再発の85%以上が出現した。
- 全症例に占める5年を超えてからの再発症例の割合は,pStageⅡで0.3%,pStage Ⅲでは1.1%であった。
③再発巣検索法
(1)問診・診察
- 患者の訴えを聴取し,身体所見をとる(腹部所見,直腸指診など)。
- 直腸指診は,低位前方切除術後の吻合部再発や直腸子宮窩,直腸膀胱窩の再発の診断に有用である。
(2)腫瘍マーカー
(3)胸部CT
- 胸部CTにて肺転移,縦隔や頸部のリンパ節転移を検索する。
- 胸部CTを省略して胸部単純X線検査を行う方法もあるが,単純X線検査は空間分解能が低く,切除可能な肺転移を見逃す危険性があることに留意する。
(4)腹部CT
- 腹部CTにて肝転移などの腹部再発巣を検索する。疑診例には腹部MRIを行う。
- 腹部CTを省略して腹部超音波検査を行う方法もあるが,超音波検査の診断精度は検者の技量や検査臓器周囲の腸管の存在に影響される。近年では造影超音波検査も行われるが,リンパ節転移の検索も同時に行うことができるCTが推奨される。
(5)骨盤CT
- 直腸癌の局所(骨盤内)再発を検索する。
- 再発巣と術後の瘢痕との鑑別は困難である。そのため,基準となる骨盤CTを術後早期に行う方法もある。
- 骨盤内再発疑診例には骨盤MRI,endoluminal ultrasonography,PET/CTを考慮する。
(6)MRI
(7)PET/CT
- 再発疑診例における再発部位の検索と確定に有用であるが,サーベイランスを目的とした検査法としては推奨されない。
(8)大腸内視鏡検査
- 吻合部再発を検索する。経肛門的局所切除,低位前方切除などの局所再発のリスクが高い術式を施行した症例においては吻合部の評価を術後早期(術後3~6カ月後,術後6~12カ月後)に行うことを推奨するガイドラインもある。
- 異時性多発癌病巣の発見にも有効である。
- 狭窄などのために,術前に全大腸を十分に検索できなかった場合は,術後6カ月以内に残存大腸の検査を行うことが望ましい。
(9)CT colonography
- 吻合部再発の検索や異時性多発癌病巣の発見に有効であるとの報告もあるが299,300),その精度に関する評価は十分に検証されておらず295),6 mm以上の腺腫の発見率は大腸内視鏡検査に劣ることが示されている。
④サーベイランスの有効性
- 欧米で行われたランダム化比較試験の複数のメタアナリシスにおいて,大腸癌治癒切除術後のサーベイランスが再発巣の切除率向上と予後の改善に寄与することが示されている。一方,近年の研究においてもintensiveなサーベイランスによる再発切除率の向上は示されているが,全生存率の改善には否定的な結果も報告されている。至適サーベイランスの確立に向けて,サーベイランスがもたらすQOL低下や精神的負担,検査の合併症,医療経済への影響を含めた包括的な研究が望まれる。
⑤大腸癌根治度A切除後のサーベイランス
- サーベイランススケジュールは,Stageごとの再発頻度,再発の好発部位や発生時期に加え,本邦におけるサーベイランスの現況などを考慮して作成したものである。
- ガイドラインごとに診断モダリティやスケジュールの疎密度に差があるが,欧米の代表的なガイドライン(NCCN,ESMO,ASCO,ASCRS)と比較すると本邦における現状のサーベイランス方法は概してintensiveである。
- 再発後の治療効果に関して,Stageによる差はないことが示されている。したがって進行度の低い癌に対してもサーベイランスによるsurvival benefitは期待できるが,早期発見に関わる費用対効果はより進行度の高い癌に劣る。現在のところ予後への寄与度が高く,医療経済学的に効率的なことが科学的に検証されたサーベイランスプロトコールは存在しない。
⑥大腸癌根治度B切除後と再発巣切除後のサーベイランス
- 肝切除後の残肝,肺切除後の残肺など,切除した転移巣や再発巣と同一部位に再発,再々発することが多い。
- 術後2年間は転移・再発巣の切除臓器のサーベイランスをよりintensive(3~6カ月毎)に行う方法もある。
- 推奨すべきサーベイランス期間は定まっていない。本邦22施設における18,841例の根治切除症例の後方視的解析では,術後5年無再発生存の患者がそれ以降に再発する頻度はStage Ⅳにおいて比較的高率であり(StageⅠ 0.7%,Ⅱ 1.1%,Ⅲ 2.2%,Ⅳ 7.0%),Stage Ⅳ(根治度B)症例に対する5年以降のサーベイランスの必要性も提唱されている。
⑦異時性多重がんのサーベイランス
- Stageにかかわらず大腸癌の罹患歴は,異時性大腸癌発生のリスク要因である。
- 推奨される大腸内視鏡検査間隔は,報告によって1~5年の開きがある。
- 多重がんを標的としたサーベイランスの要否に関しては,遺伝性大腸癌を鑑別することが重要である。散発性大腸癌の手術後に他臓器がん(重複がん)の精査を定期的に行う根拠は乏しい。(CQ 28)