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大腸癌の治療には内視鏡治療,手術治療,化学療法(抗がん剤による治療),放射線治療などの方法があります。大腸癌と診断されたら,まず各種の検査(「大腸癌の検査法」参照)により癌の進行度[ステージ(病期)で表します]が決定され,進行度に応じて治療方法が選択されます(「大腸癌の治療法」参照)。
リンパ節転移の可能性がある早期癌と進行癌には手術治療が行われます。手術では腸の切除だけでなく,リンパ節郭清も行います。リンパ節の郭清する範囲はステージによって異なります(図19参照)。
切除された組織は顕微鏡で検査されます。切除されたリンパ節に癌の転移が確認されるとステージIIIです。ステージIIIには再発予防のため補助化学療法が奨められます。
癌がすでに大腸から離れた場所(肝臓,肺,腹膜など)に転移しているとステージIVに分類されます。大腸に存在する癌を原発巣,転移している癌を転移巣といいます。
大腸癌の血行性転移には,肝転移,肺転移,脳転移,その他の臓器への転移(骨,副腎,皮膚,脾など)があります(図8参照)。
肝転移や肺転移は,すべてを切除することにより癌が治ることがあります。
肝転移の治療には,手術治療,化学療法(全身化学療法,肝動注療法),熱凝固療法があります。
手術治療(肝切除術)
肝動注療法
熱凝固療法
全身化学療法
肺転移の治療には,手術治療と化学療法があります。
手術治療(肺切除術)
全身化学療法
脳転移の治療には,手術治療と放射線治療があります。
手術治療は,切除により重大な神経障害が残らない場合に行われます。
放射線治療には,定位放射線照射,全脳照射があります(「放射線治療」参照)。
大腸癌が肝臓や肺などのうち1つの臓器に再発し,手術で切除できるようであれば手術治療が奨められます。
転移が2つの臓器であっても手術治療をすることがあります。
再発により腸閉塞になっている場合,バイパス手術や人工肛門を造ることによって食事ができるようになることがあります。
局所再発の治療
大腸癌の化学療法ではさまざまな抗がん剤が使われます。しばしばいくつかの抗がん剤を組み合わせて使われます。
大腸癌の化学療法の基本となる薬は,5フルオロウラシル(5-FU:ファイブ・エフ・ユー)です。
5-FUの投与方法には,急速静注,点滴による長時間投与(持続静脈投与),内服があります。
5-FUを内服薬にしたものにはUFT(ユー・エフ・ティー),フルツロン,TS-1(ティー・エス・ワン),カペシタビンなどがあり,オキサリプラチンなどの注射薬と一緒に使われる場合もあります。
5-FUの注射薬はロイコボリンというお薬と一緒に使い,大抵の場合イリノテカン(CPT-11:シー・ピー・ティー・イレブン)やオキサリプラチンと組み合わせて使います。
最近では分子標的製剤といわれるタイプの抗がん剤であるベバシズマブ(アバスチン®),セツキシマブ(アービタックス®),パニツムマブ(ベクティビックス®)やレゴラフェニブ(スチバーガ®)も登場し,単独もしくは他の抗がん剤と組みあわせて使われます(Q12参照)。
手術で癌をすべて切除したと判断しても,一定の頻度で再発が起こります。大腸癌研究会の研究によれば,大腸癌全体の再発率は約17%です(大腸癌研究会・プロジェクト研究1991-1996年症例)。
再発を抑える目的で補助化学療法が行われます。
以下の5つのうちいずれかを6カ月間行うのが一般的です。
手術で癌をすべて取り切れない場合,次のような条件の人には化学療法による治療を考えます。
化学療法で癌を治すことはほとんど期待できませんが,癌を縮小させて生存期間を延ばす効果があることが確認されています。
切除不能進行・再発大腸癌に対する化学療法には,副作用が出やすいオキサリプラチンやイリノテカンを使用する強めの治療と,使用しない弱めの治療の2種類があり,身体の状況や癌の状態によって決まります。
癌が明らかに大きくなっていない,また,強い副作用がない場合には,原則的に同じ化学療法を継続します。
副作用が強い時には,治療をいったん休むことが必要です。
癌が明らかに大きくなった場合は別の化学療法に切り替えるか,化学療法を中止します。
直腸癌手術の補助療法として,骨盤内の再発予防や人工肛門を避けることを目的として行われています。
照射時期は,手術前,手術中,手術後,(手術前照射,手術中照射,手術後照射)の3種類があります。
抗がん剤の治療と一緒に行うこともあります。
癌による症状を和らげる目的で行います。
骨盤内病巣,骨転移,脳転移,リンパ節転移などに照射します。
痛み,出血,神経症状などの症状が約80%で改善します。
大腸癌を手術で完全に切除しても,一定の割合で再発が起こります。
再発を早い時期に発見すれば,再度の手術で治ることもあります。また,手術ができない場合でも化学療法や放射線治療により生存期間を延長できることが示されています。
そのために行う定期的な検査をサーベイランスといいます。サーベイランスの期間,間隔と検査法は,ステージや再発が起こりやすい時期と臓器を考慮して決められます。
再発の約80%は手術後3年以内に,95%以上は5年以内に見つかります。
再発の多い部位は,肝臓,肺,局所(癌があった場所の周辺で,直腸癌で多い),リンパ節,腹膜で,吻合部に発生することもあります。
Tis癌(ステージ0),リンパ節転移のないT1癌にはサーベイランスはほとんど必要ありません。リンパ節転移のないT2癌,ステージII,ステージIIIでは,術後3年間は3カ月ごとに1度の検査,術後4年目から5年目までは6カ月に1度の検査を行うことが推奨されます。
検査する部位は,肝臓と肺が主で,直腸癌の場合は骨盤内も検査します。
検査には,問診・診察,採血による腫瘍マーカー(CEA,CA 19-9)測定,胸部X線検査,CT,腹部超音波検査があります。これらで異常が発見された場合には,MRIやPETを行うこともあります。(「大腸癌の検査法」参照)
吻合部の再発の検査には,大腸内視鏡検査または注腸造影検査を行います。
大腸癌にかかった人は,他の癌にもかかりやすくなっています。大腸癌のサーベイランスは,大腸癌の再発の検索を目的としたものですので,他の癌の検査としては不十分です。大腸癌術後のサーベイランスを受けていても,通常の癌検診は受けてください。
緩和医療・ケアとは患者さんの生活の質(QOL:Quality of Life,クオリティ・オブ・ライフ)を良くする,もしくは現状より悪くしないためのケアのことです。手術治療や化学療法を行う場合には,痛みなどの症状が緩和された状態で行うために早い段階から緩和医療が行われます。
大腸癌に関係する代表的な緩和医療には以下のものが含まれます。
がんの症状緩和の中心となるものが痛みの管理です。現在は,モルヒネなどを十分に使用することで,多くの患者さんが痛みから解放されています。
モルヒネは痛みを止める効果が非常に強く,現在最も効果的な鎮痛薬です。モルヒネは「麻薬」に分類されますが,中毒を起こしたり,精神に異常をきたすことはなく,安心して用いられる薬です。
痛みの原因によっては神経ブロックや,放射線治療(骨への転移の痛みなどに対して照射する)が用いられることもあります。
緩和医療として,手術治療が行われることもあります。たとえば,再発により腸閉塞になった場合,閉塞した場所をバイパスさせ,お腹の痛みを取り食事を可能にする手術が行われます(バイパス手術)。人工肛門の造設が必要(Q9参照)となることもありますが,現在では人工肛門の管理は進歩しており,QOL(「緩和医療」参照)の向上に大きく貢献しています。
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