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ガイドライン関連の最新情報

大腸癌治療ガイドラインに今後盛り込むことが検討される臨床試験結果~低リスクの切除可能進行直腸癌に対する術前化学療法(2023年7月)

このたび、大腸癌治療ガイドラインに今後盛り込むことが検討される臨床試験結果が報告されましたので、下記の情報提供を行います。
なお、ガイドラインにおける位置づけ等の詳細については、次回のガイドライン改訂の際に解説する予定です。

切除可能な直腸癌に対する術前FOLFOX療法の国際共同第Ⅱ/Ⅲ相試験(PROSPECT試験)

論文名 Preoperative treatment of locally advanced rectal Cancer.
掲載雑誌名 N Engl J Med 2023; 389(4): 322-334
著者名 Schrag D, et al.
試験のスポンサー名 National Cancer Institute
試験デザイン・本論文における結果の要約
試験デザイン

PROSPECT試験は、米国、カナダ、スイスで実施された国際共同非盲検無作為化第II/III相試験である。cT2N1、cT3N0又はcT3N1の直腸癌で、括約筋温存手術が可能と判断された症例を対象に、術前化学療法(FOLFOX療法 mFOLFOX6療法×6サイクル。原発巣の縮小が20%未満の場合、又は副作用のためFOLFOX療法を中止した場合にのみ、化学放射線療法を行う)と、欧米の標準治療である化学放射線療法(CRT 50.4Gy/28分割。フルオロウラシル 225 mg/m2/日又はカペシタビン 825 mg/m2 ×2回/日を5日間/週で放射線治療の期間中実施)を比較した非劣性試験である。主要評価項目は無病生存期間(DFS)とされ、ハザード比(HR)の両側90.2%信頼区間(CI)の上限が1.29を超えない場合に非劣性とすると設定された。副次評価項目は、全生存期間(OS)、局所再発(time-to-event解析)、R0切除率、病理学的完全奏効(pCR)割合、有害事象などであった。

結果の要約

2012年6月から2018年12月までに1194例の患者がFOLFOX群とCRT群に1:1の割合でランダムに割付けられ、1128例が試験治療を開始した(FOLFOX群585例、CRT群543例)。2022年12月15日データロック時点(追跡期間中央値58カ月)において、FOLFOX群のCRT群に対するDFSにおける非劣性が証明された(HR 0.92、90.2%CI 0.74-1.14、非劣性のP値 0.005)。5年DFS率はFOLFOX群で80.8%(95%CI 77.9-83.7)、CRT群で78.6%(95%CI 75.4-81.8)であった。OS(HR 1.04、95%CI 0.74-1.44)および局所再発(HR 1.18、95%CI 0.44-3.16)は、両群で同様であった。R0切除率はFOLFOX群で90.4%、CRT群で91.2%、pCR割合はFOLFOX群で21.9%、CRT群で24.3%であった。
FOLFOX群では53例(9.1%)が術前CRTを受け、8例(1.4%)が術後CRTを受けた。切除が行われた患者のうち、FOLFOX群では535例中438例(81.9%)、CRT群では510例中423例(82.9%)が、何らかの術後補助療法を受けた。
術前治療中の有害事象は、FOLFOX群でCRT群よりgrade 3以上の有害事象の発生率が高かった(41.0% vs. 22.8%)。神経障害はFOLFOX群で、下痢はCRT群で頻度が高く重症であった。FOLFOX群では、術前治療中に最も頻度の高かったgrade 3以上の有害事象は好中球減少症(20.3%)、疼痛(3.1%)、高血圧(2.9%)で、CRT法群では、リンパ球減少症(8.3%)、下痢(6.4%)、高血圧(1.7%)であった。術後補助療法を受けた患者のうち、grade 3以上の術後有害事象が発生した患者の割合は、FOLFOX群の方がCRT群よりも低かった(25.6% vs. 32.6%)。最も多く報告されたgrade 3以上の術後有害事象は、FOLFOX群では好中球減少症(3.9%)、下痢(2.7%)、低ナトリウム血症(2.3%)であり、CRT群では下痢(5.2%)、脱水(4.3%)、リンパ球減少症(4.3%)であった。

本論文における結語

切除可能なcT2-T3直腸癌患者において、術前FOLFOX療法は術前CRTと比較して、DFSに関して非劣性であった。

ガイドライン委員会のコメント

PROSPECT試験は、括約筋温存手術が可能なcT2N1、cT3N0又はcT3N1(cStage IIA、IIIA又はIIIB)症例を術前FOLFOX群と術前CRT群に無作為に割付け、FOLFOX群ではnon-responderのみに選択的に術前CRTを追加する第Ⅱ/Ⅲ相試験で、DFSにおけるFOLFOX群のCRT群に対する非劣性が証明された。本試験の対象患者は、米国ではovertreatmentの可能性が指摘されていた、局所再発の「低リスク」とみなされている患者集団であり、本試験の結果は術前CRTを標準とする米国の臨床に大きな影響を及ぼす可能性がある。一方、本邦では、R0切除可能な直腸癌の標準治療はリスクにかかわらずupfrontの手術であり、局所再発リスクの高い場合にのみ術前CRTを行うことが弱く推奨されている(大腸癌治療ガイドライン2022年版CQ25参照)。よって、局所再発リスクの低い括約筋温存手術が可能な患者集団にCRTをコントロール群においた本試験の結果を外挿することは適切ではない。FOLFOX群の2割(CRT群の3倍)がtumor regression grade 3で組織学的治療効果が低かったことや、術前化学療法と術後補助療法のみとを比較した結果はないことなどからも、本試験の対象患者に対する安易な術前化学療法は避けるべきである。
また、本試験の解釈を拡大して、再発高リスクグループへ術前CRTにかわりFOLFOX療法のみを行うことも現時点では有効性が明確でなく、行うべきではないと考える。中国で行われた高リスクグループも含まれるcStage II/IIIを対象としたFOWARC試験は、5-FU/LV併用術前CRT法(FU+RT)とmFOLFOX併用術前CRT(mFOLFOX6+RT)、術前化学療法単独(mFOLFOX6)の3群を比較し、mFOLFOXを含む治療群の3年DFS率における優越性を検証する第Ⅲ相試験である。主要評価項目の3年DFS率の優越性は示されなかったが、T4が3割含まれているにもかかわらず、局所再発率、無病生存期間、全生存期間に関して各治療術群間で有意差はないことが既に報告されている1。10年フォローアップにてなお、無病生存期間、全生存期間に関して各治療術群間で有意差はないことが公表されたが2、主要評価項目の優越性が証明できずnegative試験であったことに留意する必要がある。現在、直腸間膜浸潤のないcT2N+ or cT3-4aNany を対象としたCRTに対する術前化学療法+選択的CRTの非劣性を評価するCONVERT試験が実施され、pCRは両群で同程度であることが報告されているが3、今後の主要評価項目の公表が待たれる。
以上より、本試験の結果から低リスクグループにおいて欧米の標準治療であるCRTに対する術前化学療法+選択的CRTの非劣性が証明されたものの、本邦の標準治療であるupfrontの手術療法との比較試験の結果ではなく、術前化学療法の安易な導入は避けるべきである。さらに、局所再発リスクが高い症例に対しては、術前化学療法のみの有効性は現時点では明確ではないことから、実地臨床において行わないことが妥当と考える。

引用文献

  1. Deng Y, et al. Neoadjuvant modified FOLFOX6 with or without radiation versus fluorouracil plus radiation for locally advanced rectal cancer: final results of the Chinese FOWARC trial. J Clin Oncol 2019; 37: 3223-3233
  2. Zhang J, et al. Long-term outcome of neoadjuvant mFOLFOX6 with or without radiation versus fluorouracil plus radiation for locally advanced rectal cancer: A multicenter, randomized phase III trial. J Clin Oncol 2023; 41(16_suppl), 3505
  3. Mei WJ, et al. Neoadjuvant chemotherapy with CAPOX versus chemoradiation for locally advanced rectal cancer with uninvolved mesorectal fascia (CONVERT): Initial results of a phase III trial. Ann Surg 2023; 277(4), 557-564

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