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第32回

SSA/P with cytological dysplasia

渡邉幸太郎(田附興風会医学研究所北野病院消化器センター内科)ほか

監修コメント

 『大腸がんperspective(Vol.3 No.4)』の画像診断との対比で学ぶ大腸疾患アトラスは,SSA/P with cytological dysplasiaである。本誌のVol.3 No.2(2016)でもSSA/Pの内視鏡診断を取り上げ,その監修コメントにも書いたが,従来のmixed tumorに含まれるtraditional serrated adenoma(TSA)やconventional adenoma(tubular adenoma, tubulovillous adenoma, villous adenoma)とは異なる陰窩の異型診断が第3の腫瘍異型として今後注目されるであろうことを想定し,今回の著者に症例を依頼した。3症例の記述をお読みいただき以下のコメントと問題点の理解を深めていただければ幸いである。既出のSSA/Pに関するコメントと重複するが,整理する意味でまとめた。
 最初に,腫瘍総論からみたSSA/Pの問題点は,腫瘍であるか,腫瘍類似病変で留めるかである。現状では腫瘍類似病変とされているが,菅井らは遺伝子的に単一クローンであることから腫瘍であると考えている。細胞異型,構造異型の両方から腫瘍を診断してきた過程からは,RiddellのNone dysplasia, but have an extended proliferative zone(Abnormal architecture but, no dysplasia)を腫瘍と形態診断するのには難しいところがあると思われる。今後の展開が待たれる。一方,SSA/P with cytological dysplasiaは異型診断からも腫瘍として扱うのに異論はないであろう。RexらのAm J Gastroenterol(2012)の記載では,conventional adenoma(tubular or tubulovillous)と,「充分に資料はないが」と断わりがあるが,serrated dysplasia(記載からはTSA様の好酸性の細胞質と好酸性変化のない腫瘍性鋸歯状病変が対象と思われる)の2種類がSSA/P with cytological dysplasiaとして記述されている。これでは従来のmixed tumorでわざわざSSA/P with cytological dysplasiaと呼称する意義は少ない。SSA/P with cytological dysplasia には陰窩に異型を有する病変がみられ,一部は癌の核異型に相当する場合もある。これが今回の“症例3”であり,従来のmixed typeとは異なるunclassified typeである。胃底腺型腺癌,潰瘍性大腸炎に伴う腫瘍(dysplasia:異形成)なども従来の異型診断からはみ出した形態に浸潤癌がみられる。まずは関心をもっていただき,このアトラスの後で過去のSSA/Pの症例,いわゆるlarge(10mm以上)と称される病変でのこれらの異型を検討していただければ,それなりの頻度でunclassified dysplasiaは出現する。Ki-67 indexが高く,ときにp53の異常を伴うことがある。一歩先は理解できても10歩先のことは無視される(理解されない)ことが多い。さて,SSA/P with cytological dysplasiaの第3の候補の運命はいかに?

(監修コメント=社会医療法人神鋼記念会神鋼記念病院病理診断センター長/福島県立医科大学特任教授 藤盛孝博)

症例1

 症例は60歳代,女性。下部消化管内視鏡検査にて上行結腸に8mm大のやや発赤調の扁平隆起性病変(0-Ⅱa+Ⅰs型)を指摘。narrow band imaging(NBI)観察では病変部の大部分はⅡ型pit pattern,J-NET分類Type1の所見であったが,一部にType2A(ⅢL型pitに相当)を有していた。過形成性ポリープもしくはsessile serrated adenoma/polyp(SSA/P)に腺腫を合併した病変が考慮され,endoscopic mucosal resection(EMR)が施行された。病理組織学的には,J-NET分類Type1を示していたところにはSSA/P,J-NET分類Type2Aを示していたところには細胞異型を伴った鋸歯状腺腫様病変が認められ,全体像としてはSSA/P with cytological dysplasia(SSA/P-D),serrated adenoma typeと診断された。
SSA/P自体は細胞異型がないものと定義されているが,WHO分類2010では細胞異型を有するSSA/PをSSA/P-Dとして独立させている。SSA/P-Dはserrated neoplasia pathwayにおける前癌病変と位置づけられている。

A:上行結腸に8mm大の境界明瞭でやや発赤調の扁平隆起性病変(0-Ⅱa+Ⅰs型)が認められた。
B:近接像では隆起性病変の一部には発赤が強く,腺腫様の構造を呈する部分が認められた。
C:NBI像では大部分はⅡ型pit patternの所見で,規則的で周囲粘膜と類似したsurface patternを呈していたことから,J-NET分類Type1と判断された(SSA/P矢印部)。しかしながら,一部には管状構造を有する部分があり,J-NET分類Type2A(ⅢL型pitに相当)の病変(SSA/P-D矢印部)を合併した病変と診断された。尚,図中の SSA/P,SSA/P-Dは病理組織所見に基づくものである。

D:弱拡大像。鋸歯状構造を基本とする隆起性病変がみられ,陰窩の拡張・不規則分岐・陰窩底部の水平方向への変形を10%以上に伴っていた。病変の大部分は細胞異型に乏しく,SSA/Pに相当する像であった。
E:Dの赤枠部分の拡大像。病変の一部に鋸歯状構造を呈する腺管が比較的密に存在する部分がみられた。
F:Eの青枠部分の拡大像。同部では細胞異型を有しており,鋸歯状腺腫に相当する病変と考えられた。以上の所見から,SSA/P-D,serrated adenoma typeと診断された。

症例2

 症例は70歳代,男性。下部消化管内視鏡検査で盲腸に7mm大の白色調の扁平隆起性病変(0-Ⅱa+Ⅰs型)を指摘。インジゴカルミン撒布およびNBI観察で病変部は概ねⅡ型pit patternを呈しており,J-NET分類Type1であったが,一部でJ-NET分類Type2Aが認められた。症例1と同様に過形成性ポリープもしくはSSA/Pに腺腫を合併した病変が考慮され,EMRが施行された。病理組織学的には,J-NET分類Type1を示していたところにはSSA/P,J-NET分類Type2Aを示していたところには細胞異型を伴った管状絨毛状構造を呈する腺腫様病変が認められ,全体像としてはSSA/P-D,conventional adenoma(tubulovillous)typeと診断された。
SSA/P-Dは高齢,病変径30mm以上,病変部にⅠs成分を含む,pit patternでⅢ,Ⅳ,Ⅴ型pitを認める場合に多いとされている。SSA/P-Dを疑う病変では前癌病変として悪性化のリスクも考慮されるため,積極的に病変摘除を行う必要があると考えられる。

A:盲腸に7mm大の境界明瞭な白色調の扁平隆起性病変(0-Ⅱa+Ⅰs型)が認められた。
B:インジゴカルミン撒布像では背側のやや隆起の丈が高い部分にのみ腺腫様腺管構造を有するような粘膜構造の変化が認められた。
C:NBI像では,大部分は周囲の健常粘膜に類似した規則的な腺管構造(Ⅱ型pit patternに相当)を有したJ-NET分類Type1であったが,一部丈の高い部分では規則的な管状構造が認められ,J-NET分類Type2Aを含む病変と診断された。

D:弱拡大像。鋸歯状構造を基本とする隆起性病変がみられ,陰窩の拡張・不規則分岐・陰窩底部の水平方向への変形を10%以上に伴っていた。病変の大部分は細胞異型に乏しく,SSA/Pに相当する像であった。
E:Dの赤枠部分の拡大像。病変の一部に管状絨毛状構造を呈する腺管が領域性に存在する部分がみられた。
F:Eの青枠部分の拡大像。同部では細胞異型を有しており,管状絨毛腺腫に相当する病変と考えられた。以上の所見から,SSA/P-D, conventional adenoma(tubulovillous)typeと診断された。

症例3

 症例は70歳代,女性。便潜血陽性に対して下部消化管内視鏡検査を施行。上行結腸に15mm大の中央部にびらんを伴った扁平な隆起性病変(0-Ⅱa型)が認められた。インジゴカルミン撒布による拡大観察では病変辺縁には腺管開口部の開大を反映した開Ⅱ型pit構造,中央部にはVi高度不整が認められた。上記所見から辺縁部にSSA/Pを伴った粘膜下層高度浸潤癌と診断され,外科手術が選択された。病理組織学的には病変中心部に乳頭状構造を示す腺癌の浸潤増殖が認められた(pT1b)。病変辺縁部にはSSA/Pを伴っており,adenocarcinoma with SSA/Pと診断された。浸潤癌とSSA/Pの移行部にはSSA/P-D,conventional adenoma typeを認め,さらに粘膜深層部には腺腫様の構造はもたないものの,明らかな細胞異型を有する腺管が認められた(SSA/P-D,unclassified type)。
SSA/P-Dにはserrated adenoma type(症例1),conventional adenoma type(症例2)の存在が指摘されている。しかし,時にはこれらと異なり,陰窩部のみに細胞異型がみられるものもある(unclassified type)。このタイプでは,内視鏡的に粘膜表層部の所見からSSP/A-Dを診断することは難しい。

A:上行結腸に15mm大の中央部にびらんを伴った境界明瞭な扁平な隆起性病変(0-Ⅱa型)が認められた。
B:インジゴカルミン撒布像では中央部に不整な腺管構造を有しており,その周囲にはやや拡張した正常腺管様の構造を認めた。
C:Bの赤枠の拡大像。左側の一部に輪郭不明瞭な腺管構造を認め,pit patternは荒廃しており,Vi高度不整と診断された。右側には開Ⅱ型pitを認めた。

D:弱拡大像。病変中心部に乳頭状構造を示す腺癌の増殖がみられ,粘膜筋板の破壊を伴う粘膜下層への浸潤(SM浸潤度4,000μm,pT1b)が認められた。病変辺縁部にはSSA/Pがみられ,adenocarcinoma with SSA/Pと診断された。
E:Dの赤枠部分の拡大像。浸潤癌とSSA/Pの移行部(黄枠部)には粘膜内にSSA/P-D,conventional adenoma type が認められた。
F:病変辺縁部にみられたSSA/Pの一部。
G:Fの青枠部分の拡大像。細胞異型を伴う腺管がありSSA/P-Dとすべき病変であるが,前出のserrated adenoma type(症例1)あるいは conventional adenoma type(症例2)とは異なるタイプと考えられた(SSA/P-D,unclassified type)。

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