第30回

SSA/Pの内視鏡診断

佐野 亙(佐野病院消化器センター 内科部長)
佐野 寧(佐野病院消化器センター 院長)
市川 一仁(社会医療法人神鋼記念会神鋼記念病院病理診断センター 部長)

監修コメント

 今回の大腸疾患アトラスは「SSA/Pの内視鏡診断」である。SSA/P(sessile serrated adenoma/polyp)の組織については,過去に何度か取り上げている。八尾,菅井らがまとめたJSCCR(Japanese Society for Cancer of the Colon and Rectum)分類の組織診断基準も徐々に均霑化している。Higuchi分類,WHO分類に比べて簡便なところが均霑化した理由であろう。すなわち,鋸歯状構造,腺管の不規則分岐(水平,錨型,逆T,L字)および,陰窩拡張(寸胴型)などを指標に診断する。SSA/Pの内視鏡診断も1997年の藤井隆広らが早くから注目しているが,今では和文,英文を問わず数多くみられるようになった。腫瘍総論からみたSSA/Pの問題点は,腫瘍であるか,腫瘍類似病変で留めるかである。現状では腫瘍類似病変とされているが,菅井らは遺伝子的に単一クローンであることから腫瘍であると考えている。細胞異型,構造異型の両方から腫瘍を診断してきた過程からは,上記定義やRiddellのNone dysplasia, but have an extended proliferative zone(Abnormal architecture but, no dysplasia)の分類からは,腫瘍と形態診断をするのには難しいところもあると思われる。今後の展開が待たれるが,現状で早急に解決する必要がある用語は“SSA/P with cytological dysplasia”である。RexらのAm J Gastroenterol(2012)の記載では,conventional adenoma(tubular or tubulovillous)と,充分に資料はないがと断わりがあるが,serrated dysplasia(記載からはtraditional serrated adenoma(TSA)様の好酸性の細胞質と鋸歯状変化が特徴と思われる)の2種類がSSA/P with cytological dysplasiaとして記述されている。従来のmixedである。筆者はこれであればdysplasiaはいらないと思う。従来通り,adenomaもしくはTSAと記載すればよいだけである。用語を増やすことで混乱を招くと思う。
 ここからは私見であるが,SSA/P with cytological dysplasiaは別の観点から今後必要だと思う。何故なら,付図で示す従来のadenomaの診断学では診断できない異型がこれらの病変にあるからである。今回は付図だけにし,もう一度SSA/P with cytological dysplasiaを病理形態像としてこのアトラスで取り上げようと考えている。今回は問題の提示だけである。

(監修コメント=社会医療法人神鋼記念会神鋼記念病院病理診断センター長/福島県立医科大学特任教授 藤盛孝博)

症例1

60代女性。腹痛精査のために行った大腸内視鏡検査にて横行結腸に15mm大の扁平隆起性病変を認めた。色素およびNBI観察にてSSA/Pと診断し,EMRにて切除した。大腸癌研究会(Japanese Society for Cancer of the Colon and Rectum;JSCCR)の診断基準にしたがい,病理組織学的にもSSA/Pと診断された。

通常観察にて横行結腸に15mm大,境界やや不明瞭な正色調~やや褪色調の扁平隆起性病変を認めた(左)。NBI観察ではやや白色調に描出され(中央),拡大観察を行っても腺腫性病変にみられるような拡張した網目状の毛細血管(meshed capillary vessel)は認めない(右)。

インジゴカルミン色素散布にて表面の粘液付着と病変境界が明瞭化し(左),拡大観察にて星芳状のⅡ型pitと,粘液産生を反映して開大したⅡ型pit(開Ⅱ型pit)も部分的に認めた(中央)。病理組織では鋸歯状構造と陰窩の拡張,不規則分岐,陰窩底部の水平方向への変形といった特徴的な所見を認め,SSA/Pと診断された(右)。

症例2

70代女性。腹痛,便秘精査のために行った大腸内視鏡検査にて上行結腸に12mm大の扁平隆起性病変を認めた。色素観察にてSSA/Pと診断し,EMRにて切除した。本病変は粘液付着がその存在診断に非常に有用であった。粘液付着がなければ見落としていた可能性も否定できない。

通常観察にて上行結腸に黄色の粘液付着を認める(左)。粘液を除去すると同部位の血管透見像が消失しており,境界不明瞭なやや褪色調の扁平隆起性病変がわずかに認識される(中央)。インジゴカルミン色素散布にて病変の境界は明瞭となった(右)。

クリスタルバイオレット染色下の拡大観察にてⅡ型pitと,ⅢL様pitに鋸歯状所見を伴うⅢH型pit(fern-like pit)を認める(左)。本病変は病理組織学的にSSA/Pと診断されたが,一部にcytological dysplasiaを伴っていた(中央,右)。

症例3

60代男性。便潜血陽性精査のために行った大腸内視鏡検査にて盲腸に8mm大の扁平隆起性病変を認めた。色素およびNBI観察にてSSA/Pと診断し,ポリペクトミーにて切除した。本病変はごく一部の陰窩底部にcytological dysplasiaを伴っていたが,表面からの観察でその変化をとらえることは困難であった。

通常観察にて盲腸のひだ上に8 mm大,境界不明瞭な淡発赤調の扁平隆起性病変を認めた(左)。インジゴカルミン色素散布にて病変の境界は明瞭化し,Ⅱ型pitと,一部に開大したⅡ型pit(開Ⅱ型pit)を認めた(中央)。NBI観察では表層の拡張した樹枝状の毛細血管と,開Ⅱ型pitを示唆する開大したpit様構造を認める(右)。

本病変は病理組織学的にSSA/Pと診断されたが(左),ごく一部の陰窩底部にcytological dysplasiaを伴っていた(中央,右)。

症例4

80代女性。貧血精査のために行った大腸内視鏡検査にて上行結腸に結節を伴った15mm大の扁平隆起性病変を認めた。色素およびNBI観察にて癌を伴ったSSA/Pと診断し,EMRにて切除した。病理組織は結節部に中分化腺癌を伴うSSA/Pであった(carcinoma in SSA/P,tub2,pT1a,ly0,v0,budding Grade 1,HM0,VM0)。

インジゴカルミン色素散布にて上行結腸に結節を伴った15mm大の扁平隆起性病変を認めた(左)。結節部にはⅤI型に相当する不整なpitを認め(中央),NBI観察においても大腸拡大NBI(Japan NBI Expert Team;JNET)分類2B型に相当する口径不同,不均一な分布を示すvessel patternと不整なsurface patternを認めた(右)。

扁平隆起部では鋸歯状構造と陰窩の拡張,不規則分岐,陰窩底部の水平方向への変形といったSSA/Pに特徴的な病理所見を認めた(左,中央)。一方,結節部では粘膜下層に軽度浸潤する中分化腺癌を認めた(左,右)。ただし脈管侵襲は認めなかった。

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