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第17回

特殊な大腸癌の組織
Histopathology of special-type colon cancer

松原亜季子(国立がん研究センター中央病院病理科) ほか

1.腺扁平上皮癌(Adenosquamous carcinoma)

 大腸癌取扱い規約第7版補訂版では"同一の癌に腺癌と扁平上皮癌が並存するもの。両者が領域を持って存在する場合と混在する場合とがある"と定義されている。取扱い規約では成分の割合についての記載はないが,WHO分類では扁平上皮成分が小胞巣の大きさ以上であるものとされている。なお,肛門管領域を除いては純粋な扁平上皮癌は非常にまれとされている。

肉眼像

a:弱拡大像。表層部は通常型の高分化腺癌である。
b:中拡大像。
c:強拡大像。壊死と異常角化を伴う扁平上皮癌成分が腺癌と混在している。

2.痔瘻癌(Adenocarcinoma arising from anal fistula)

 大腸癌取扱い規約では"痔瘻の長い既往歴がある肛門管壁内に発生する癌で,粘液癌の形態を取るものが多い"と記載されている。クローン病としばしば合併することが知られている。

a:弱拡大像。表層は扁平上皮で覆われており,粘膜下層および内肛門括約筋内に腫瘍が認められる。
b:強拡大像。内肛門括約筋内,痔瘻孔に相当する部分。炎症性肉芽が形成され,それと連続して高分化腺癌を認める。
c:中拡大像。粘膜下層内で,粘液癌の成分を有する高分化腺癌を認める。

3.腺内分泌細胞癌(Mixed adenoneuroendocrine carcinoma)

 内分泌方向への分化を有する癌細胞からなる腫瘍である。消化管の場合は通常型腺癌と併存する場合が多く,この場合WHO分類では混合型腺内分泌細胞癌(Mixed adenoneuroendocrine carcinoma;MANEC)と称する。診断には,各々の成分が30%以上存在し,かつ免疫染色ないし電子顕微鏡で内分泌方向への分化を確認する必要がある。

a:弱拡大像。写真の右側に腺癌成分が,左側に内分泌癌成分が認められる。いずれも広範囲の地図状の壊死を伴う。
b:腺癌成分中拡大。癒合腺管構造を主体とする中分化腺癌である。
c:内分泌癌中拡大。細顆粒状のクロマチンをもつN/C比の高い細胞が島状に増殖している。ロゼット構造は明らかではない。

d:Chromogranin Aに対する免疫染色。腺癌成分には陰性だが,内分泌癌成分には弱陽性を示す。
e:Synaptophysinに対する免疫染色。上記と同様の所見を示す。
f:CD56に対する免疫染色。上記と同様の所見を示す。

g:Chromogranin Aに対する免疫染色(内分泌癌部分)。
h:Synaptophysinに対する免疫染色(内分泌癌部分)。
i:CD56に対する免疫染色(内分泌癌部分)。

4.コンジローマ(Condyloma)

 尖圭コンジローマはHPV感染を原因とする上皮の増殖性疾患であり,カリフラワー状の肉眼像を特徴とする。尖圭コンジローマでのHPV感染はtype6,11などの低悪性度のものであり,通常型扁平上皮癌でみられる高悪性度HPV(type16,18)の感染はみられない。このため扁平上皮癌には進展しないとされているが,疣状癌へのリスクは指摘されている。組織学的には,子宮頸部と同様に表層部にコイロサイトーシスを認めることが多い。

a:弱拡大像。線維血管軸を中心にもつ乳頭状病変が増殖し,直腸粘膜に進展している。
b:中拡大像。乳頭状病変は豊富な好酸性胞体と円形の核をもつ扁平上皮細胞からなる。
c:強拡大像。表層部にコイロサイトーシスを認める。
d:p16に対する免疫染色。核に陽性所見を認め,HPV感染が示唆される。
e:p16に対する免疫染色(強拡大像)。

5.乳房外Paget病(Extramammary Paget disease)

 乳頭・乳輪でみられるPaget病のカウンターパートであり,全身的には乳頭,腋窩,肛門・性器周囲といったアポクリン腺領域に好発する。取扱い規約では"表皮内に明調で泡沫状の大型円形の異常上皮細胞(Paget細胞)をまばらに認める"と定義されている。扁平上皮内を非浸潤性に進展することが多いが,その本態は腺癌である。

a:弱拡大像。錯綜する上皮脚内に腫瘍細胞が進展している。
b:中拡大像。扁平上皮内に大型核をもつ腫瘍細胞が個細胞性進展している。
c:強拡大像。毛嚢内にも進展している。

6.悪性黒色腫(Malignant melanoma)

 扁平上皮基底層に存在するメラノサイト由来の悪性腫瘍で,大腸では肛門管あるいは直腸肛門管移行部に発生する。頻度はまれで肛門管腫瘍全体の1~3%とされる。中高年発生が多く,下血あるいは腫瘤を主訴とする。肉眼的には隆起性病変を示す。色素をもつ症例は診断に苦慮することはないが,もたない症例は時に低分化腺癌や悪性リンパ腫などとの鑑別を要する場合がある。

a:非浸潤部中拡大像。上皮基底層を中心としていびつな核と淡明な細胞質をもつ異型メラノサイトが増殖している。メラニン色素もみられる。
b:浸潤部強拡大像。浸潤部では細胞質は好酸性を示す。核内封入体(アピッツ小体)もみられる(←)。
c:S100に対する免疫染色。核と細胞質に陽性所見を認める。
d:HMB-45に対する免疫染色。細胞質に陽性所見を認める。
e:MelanAに対する免疫染色。細胞質に陽性所見を認める。

7.髄様型低分化腺癌(Medullary type poorly differentiated adenocarcinoma)

 WHO分類では"Medullary carcinoma"として記載されている腫瘍で,日本の取扱い規約では低分化腺癌に分類されている。若年者から高齢者まで広い年代で発生しうるが,若年者発生例はLynch症候群(HNPCC)の可能性を考慮する必要がある。高齢者では女性の右側結腸に発生することが多い。低分化腺癌全体の中では脈管侵襲に乏しく予後良好な亜型であり,マイクロサテライト不安定性(MSI)を示すことでも知られている。

a:中拡大像。腫瘍は充実性胞巣構造を主体とする。
b:強拡大像。類円形の核と好酸性の細胞質をもつ腫瘍細胞で,胞巣内部にはリンパ球の浸潤を比較的多数認める。
c:PMS2に対する免疫染色。腫瘍細胞は陰性を示し,MSIが示唆される。

8.微小乳頭癌(Micropapillary carcinoma)

 大腸癌取扱い規約には記載がないが,WHO分類の腺癌の項目にまれな腫瘍として記載がある。通常の大腸癌でも一部分所見として時に認められ,この成分の存在は脈管侵襲性が強いため予後不良とされている。組織学的に腹膜癌や卵巣漿液性腺癌との鑑別が問題となる場合もある。

a:弱拡大像。中心潰瘍を伴った隆起性病変で,潰瘍から粘膜下層にかけて腫瘍が浸潤している。
b:強拡大像。脈管の空隙に似た間質の隙間に小胞巣状の腫瘍を認める。腫瘍は通常の腺腔とは極性が逆方向である(inside-out pattern)。

9.粘液癌(Mucinous adenocarcinoma)

 大腸癌の中で少しでも細胞外粘液を伴う腫瘍は15~31%とされている。粘液癌は普通,腫瘍成分の50%以上に細胞外粘液産生を伴う腫瘍とされているため,実際に粘液癌と診断されるのはそのうちの1/2~1/3になる。粘液癌は腫瘍の構成成分により高分化型粘液癌(乳頭腺癌,高分化管状腺癌,中分化管状腺癌由来)と低分化型粘液癌(非充実型低分化腺癌,印環細胞癌)に分類される。

a:高分化型粘液癌の弱拡大像。嚢胞状に拡張した腫瘍腺管内部に粘液の貯留がみられる。嚢胞壁が剥離したものもみられる。
b:高分化型粘液癌の中拡大像。嚢胞壁は高円柱状細胞からなり,構成成分は高分化型管状腺癌と推察できる。
c:低分化型粘液癌の弱拡大像。粘膜内には印環細胞癌がみられ,浸潤部で多量の細胞外粘液を伴う低分化型粘液癌を認める。
d:低分化型粘液癌の強拡大像。粘液の中に低分化腺癌および印環細胞が浮遊している。

10.印環細胞癌(Signet ring cell carcinoma)

 粘液が細胞外に貯留すれば粘液癌と呼ばれるが,腫瘍細胞が粘液分泌能力を喪失した場合は細胞内粘液が貯留することになり,印環細胞癌と呼ばれる。胃の印環細胞癌と違い,腫瘍細胞は腸の杯細胞に類似した性質をもつ。頻度はまれだが,予後はきわめて不良とされる。

a:弱拡大像。粘膜から固有筋層にかけて広範囲に浸潤する腫瘍を認める。一部,中分化相当の腺腔構造もみられる。
b:強拡大像。固有筋層部分。印環細胞のびまん性浸潤を認める。

11.未分化癌(Undifferentiated carcinoma)

 取扱い規約ではその他の癌に分類され,特定方向への分化がみられない腫瘍を指す。免疫染色などにより特定の分化傾向が確認できないことと共に癌腫であることを証明することが必要である。

a:弱拡大像。表層部は広範に壊死しており,浸潤部では腺腔形成性のみられない腫瘍がびまん性に増殖している。
b:強拡大像。Rhabdoidと称される強い好酸性の細胞質をもつ,結合性の弱い腫瘍細胞を認める。本例は免疫組織学的にサイトケラチン(上皮マーカー)弱陽性を示した。

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