第3回

大腸早期癌
Early Colorectal Cancer

菅井有(岩手医科大学病理学講座分子診断病理学分野 教授)

1.ポリポイド早期癌

ポリポイド早期癌ポリポイド早期癌

Is型のポリポイド病変で,腺腫内癌の例である(大きさ9mm)。#の部分が癌で,##の部分が腺腫である(ほかにも癌と腺腫があるが,示していない)。拡大像を示すが,同様にaの#の部分が癌で(一部腺腫成分も含まれている),##部分が腺腫部分である。この拡大で癌が粘膜内であることがわかる。bは癌部分を拡大した例で,高分化腺癌の像である。cでは腺腫と高分化腺癌が明瞭に境されていることが確認できる。このように腺腫内癌の場合,腺腫と癌の境界が明瞭であることが多く,このことから腺腫内癌の診断が可能である。dは腺腫成分を拡大しているが,核も基底側に明瞭に位置しており,核異型も軽度である。軽度異型腺腫である。

ポリポイド早期癌ポリポイド早期癌

腺腫内癌の分子発癌機序としてはVogelsteinらの仮説が支持されている。すなわち正常粘膜から腺腫になる際には,APC遺伝子の変異が関与し,腺腫のサイズアップにはki-rasの変異が重要な役割を担っている。この場合,腺腫の異型度も上昇していることがほとんどであるから,腺腫の異型度の上昇に従って,と言い換えても大差はない。最終的に癌化する際には,p53の変異が起こるとされている。

2.表面・陥凹型早期癌

表面・陥凹型早期癌表面・陥凹型早期癌

IIa+IIcの例で,病変全体が高分化腺癌で占められている。大きさが8mmと小さいが,腺腫成分はない。病変内に正常腺管が含まれている。この所見は,正常腺管を破壊的に増殖するのではなく,正常腺管の間をぬうように増殖していることを意味しており(a,矢印),このタイプの腫瘍(腺腫でも癌でもこの傾向がみられることが指摘されている)に特徴的所見とされている。核異型は比較的高く(b,d),中央部分では粘膜筋板を圧排している像がみられる(c,矢印)。ここでは癌の形態も中分化腺癌の像である(d)。

表面・陥凹型早期癌表面・陥凹型早期癌

このタイプの癌は,進行が非常に速く,悪性度が高い特徴がある。大きさが小さいにもかかわらず,粘膜下層への浸潤率が高いことが明らかにされている。一時期,このタイプからのprogressionが通常型進行大腸癌へのメインルートと考えられたが,現在では否定的見解が大勢を占めてきている。組織像は,病変全部が癌で構成されている例が多いとされてきたが,最近の報告では腺腫内癌も少なからずみられるようである。従来はde novo型癌の代表例とされてきたが,このタイプの癌もadenoma-carcinoma sequenceによる発癌メカニズムが再考されるかもしれない(ただし,一般的なadenoma-carcinoma sequence説ではなく,以前に喜納らが提唱したcancerization by progression説が妥当であろう)。このタイプの癌は,ki-rasやAPCの変異が少ないことが指摘されており,p53がキー遺伝子異常とされている。分子病理学的にはいまだ未解明の部分が残っている。

3.LST(laterally spreading tumor)由来の早期癌

LSTLST

1はLST-GH型腺腫の癌化例である(大きさ19mm)。病変の多くは腺腫であるが(中等度管状絨毛腺腫),一部に腺癌を認める(矢印部分)。拡大すると小範囲に高から中分化腺癌がみられ(a~b,矢印),腺腫成分との境界も明瞭である(a)。2にはLST-NG-PDを示す(大きさ14mm)。その拡大像をcとdに示すが(太矢印),高分化管状腺癌の像である。高度異型腺腫に診断する病理医もいようが,筆者は,核異型の点から癌と診断した。癌巣の中に正常腺管が混じている(矢印)。

LSTLST

最近,進行大腸癌のメインルートの一つとして注目されている病変で,工藤らがその重要性を指摘した病変である。LSTはLST-G(結節型)とLST-NG(非結節型)に分類される。さらに,前者はLST-GH(LST-granular-homogenous:均質型)とLST-GM(LST-granular-mixed:混合型)に亜分類され,後者はLST-NG-PD(LST-non-granular pseudo-depression:偽陥凹型)とLST-NG-F(LST-non-granular-flat:平坦型)に亜分類される。それぞれ粘膜下層への浸潤率が異なっており,LST-GMとLST-NG-PDで粘膜下層浸潤率が高いとされている。LST型癌は腺腫内癌が多いが,その癌の特徴は多発性に発生することである。このタイプの遺伝子異常としては,LST-Gにはki-rasが密接に関与していることがわかっているが,LST-NGにおけるキー遺伝子異常は十分に解明されていない。

4.鋸歯状病変由来の早期癌

鋸歯状病変由来の早期癌鋸歯状病変由来の早期癌

SSAの癌化例を示す(大きさ12mm)。癌(#)の周辺には,腺腔の拡張した鋸歯状腺管が配列している(##)。癌の拡大像を示す(a,b。aは矢印間の部分)。中分化腺癌の像であるが,鋸歯状腺腔ははっきりしない。周囲の拡張した腺管も鋸歯状腺腔は目立たないが,上方では鋸歯状腺腔がみられる(c)。下部では腺底部で二股に分かれる像をみる(dの矢印。crypt fission)。この鋸歯状病変の組織像の診断は病理医によっても意見の分かれるところで,過形成性ポリープとするものとSSAとする病理医がいよう。筆者は後者で,本病変はSSAからの癌化例と考えている。SSAの診断基準はわが国では統一されておらず,今後はわが国の病理医による診断基準の作製が必要になろう。

鋸歯状病変由来の早期癌鋸歯状病変由来の早期癌

最近,serrated pathwayと呼ばれる発癌経路が注目を浴びている。これは狭義には,正常粘膜→過形成性ポリープ→無茎性鋸歯状腺腫(sessile serrated adenoma;SSA)→MSI陽性癌の順でprogressionする発癌経路のことを指している。鋸歯状腺腫からの発癌経路とは明確に区別されるものなので,混同しないよう注意が必要である。この経路で発生する早期癌の特徴は,(1)右側に多いこと,(2)高齢者の女性に多いこと,(3)肉眼像としては無茎性隆起であること,(4)鋸歯状腺腔を有していること,粘液癌・低分化腺癌を合併しやすいこと,(5)分子異常としては,BRAF,CIMP(CpG methylation phenotype),MSIを有していること,などであるが,このタイプの早期癌の特徴はいまだほとんど解明されていないので,今後さらなる検討が必要である。

 

近年,大腸癌において癌関連遺伝子のメチル化が発癌に密接に関与していることが指摘されている。今回示した早期癌の多くにも,メチル化が種々の程度にみられることが多い。今後,各早期癌のタイプ別にメチル化の関与について明らかにしていく必要があると思われる。

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